第十二章 白のちがい
昼の休憩室。湯気が白く立ちのぼり、窓の外は月白に近い明るさだった。雪巴は小さな紙を四枚、机に並べる。〈真白/純白/霧白/月白〉と太字で書かれている。
「白は温度で分けよう」雪巴は湯のみを指さした。「真白は熱すぎる白。声が長くなる、打ち音が跳ねる。まず点検三分で冷ます。純白はあたたかい白。音が一定で、手はそのまま進める。霧白はもやの白。迷いがあるから入口で一言、板は△。月白はひんやり静かな白。通路が広く、音が低い。掃除と補充、次の一手を一つ決める」
アジェルが湯のみを持ち上げた。「今の打ちは?」
「純白。低い」
「断裁は?」
「少し真白。紙粉が増えた。点検三分、入れる」
工房主がうなずく。「札に色は付けないが、言葉は使おう。日誌の一行に白の名を入れて書くんだ」
午後。断裁の前で点検三分。紙粉を払って、箱を半歩寄せる。入口で一言を受け、板に印を付ける。〈中断=△/再作業=△/事前相談=○〉。打ちの前でアジェルが言う。「今は月白。通れ」
終業前の数字。〈中断 11→10/再作業 7%→7%/事前相談 22→24〉。工房主が日誌をめくると、各工程に一行ずつ白の名前が並んでいた。〈断裁=霧白→純白/打ち=月白/背貼り=純白〉。
雪巴はノートに一行で書く。〈白は温度の言葉。合図がそろえば、手もそろう〉。風見はゆっくり、静かに回っていた。数字と一行で道は開く。
・白の言葉……作業の“温度”の言い分け。
真白=熱すぎ/純白=ちょうど良い/霧白=もや/月白=ひんやり静か。




