第十三章 手引きの骨組み
・手引き(薄冊子)……道具と合図/点検三分/提出前点検/三つの数字/白の言葉を一冊に。
午後の静かな時間。雪巴は作業台に薄い紙を広げ、鉛筆で四角い枠を引いた。題は「工房の今日の型」。まずは一冊、だれでも見れば同じ動きができる手引きを作る。
一枚目は道具と合図。左に小さな絵、右に一行。〈砂時計=三つ数える/時の布=息を合わせる/赤いもどる矢印=退き道/札=調律中〉。下には注記を小さく添えた。〈出立前のハイタッチ=自工房のみの合図/外では鐘二回〉(手首の紐をきゅっと結ぶ)。
二枚目は点検三分のやり方。目と耳の印、時計に三つの点。手は止めない、見る・聞く・一行メモ、次の一手を一つ。三角の注意記号の横に、「止める三分ではない」と書く。
三枚目は入口の提出前点検。小さな相談カードの絵。欄は「目的」「困りごと」「次の一手」。並んだ人が三人以上なら、先に一言だけ受けると書く。
四枚目は三つの数字。〈中断/再作業/事前相談〉の板の描き方。○△×の意味を欄外に入れる(○=良い側/△=途中/×=要対処)。事前相談は増えれば○、中断と再作業は減れば○、と一行でまとめた。
五枚目は白の言葉。真白・純白・霧白・月白を、湯のみの絵と一緒に温度で説明。各工程の日誌には、きょうの白を一行で書く。
年長の職人が言った。「字が多いと眠くなる」
「じゃあ絵を大きく。言葉は一行だけにします」雪巴は枠を太くし、絵を広げた。
アジェルがページをめくる。「試すなら、どれから」
「一枚目と二枚目だけでいい。明日は隣の工房の見習いに読んでもらう」
「……仕方ねーな。俺は数字を見る」
夕方、工房主が手引きをぱらぱらと見てうなずいた。「短い。いい。壁に掛けよう」
雪巴は表紙の角に小さな穴をあけ、紐を通す。ノートに一行書く。〈型は短く、絵は大きく、言葉は一行〉。数字と一行で道は開く。




