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彼と彼女の関係はいつまでも三角  作者: ゆうま
09[私と貴方と、貴方の浮気相手たち]
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第1話

 放課後、サッカー部の練習終わり。部活仲間とコンビニに寄り道。春はフライドポテト、夏はアイス、秋はチキン、冬は肉まんを買う。

 そんな毎日を送る、高校生活。


 「なぁ、サッカー部に入ればモテるって思わなかったか?」

 「思った。でも実際、全然だねぇ」

 「せめてレギュラーじゃねぇと無理なんだろ」

 「その前に学力をどうにかしたら」


 辛辣と言って笑う3人の視線が、やがて彼に向けられる。


 「レギュラーで」

 「学年トップクラスの学力で」

 「イケメン」


 彼の顔を覗き込み、なにか言いたそうに見つめる。恋人との進展を聞きたいことは分かっていたが、彼は3人の望む言葉を紡がない。


 「3人は、本当に顔が良いよね。視界がチカチカするよ」

 「それ、病気のサインだってばーちゃんが言ってた…」

 「えぇぇ!大変だぁ、すぐに病院に行かないと」

 「待て、慌てるな。まず何科を受診すべきか調べねぇと。他に症状は」


 スマホを取り出して慌てる3人の友人を見て、彼はくすくすと笑う。


 「そういう意味じゃないよ。でもありがとう」


 彼の吐いた白い息が空気と同化し、彼の顔が鮮明に見えるようになる。その様子をまじまじと見ていた友人3人は、小さく頷き合った。


 「イケメン」


 同時に感嘆と言われたその言葉に、彼は小さくため息を吐く。


 「だから、その顔に言われても説得力皆無だって。暗いから早く帰るよ」


 元気の良い返事が3つ響き、帰路へと戻る。


 「そういや、2年になったらレギュラーになれるのか?クラスのやつが言ってた。ベンチが持ち上がる?もんだって」

 「ないない。部員沢山だからねぇ」

 「俺らの実力じゃ無理だろ。ベンチ入りだっておかしいんだからな」


 彼らが通う高校のサッカー部部員は100名を超える。いわゆる強豪校だ。3人は推薦で入学した、期待の新人だった。

 天才肌の残念系イケメン3人。その3人が信頼する努力型天才。この4人は入学当初、最強だと思われていた。


 「そんなことないよ。また一緒に試合に出よう」

 「なんにしたって、監督が出す気ないだろ?」

 「だねぇ。ボクら3人のこと嫌いだもんねぇ」

 「けど高校でサッカーやるなら、現状で我慢しねぇとな」


 監督のモノマネ大会が始まると、彼はそれを無理に笑って見ていた。


 やがて3人と彼の、自宅へ続く道が別れる。

 また明日。そう言って別れる瞬間。この瞬間が、彼は嫌いだった。3人と自分の、サッカーにおいてのなにかの分かれ道である気がしてならないのだ。


 道をそのまま真っ直ぐ行けば、3人の家。昇れば恋人の家。降れば彼の家。

 彼は恋人を送ってから帰るため、3人と別れてまず坂を昇る。そしてひとりで降り、そしてまた降る。

 学校へ行くため、サッカーをするため、3人に会うため、坂を昇る。


 背中が完全に見えなくなるまで見送る。せめて3人を見守れる自分でありたいと願って、いつもそうしていた。欠かしたことはなかった。

 その後、いつもは恋人の手を取って坂を昇り始めるのだが、その前に街灯のポールへ目をやった。


 今日こそないように。そう願っていたものが、そこにはやはりあった。彼の視線が釘付けになった先を見た恋人が、黙って拳を握る。


 彼と恋人の視線の先には、犬の死骸があった。


 「…受験前までよく遊んだ、近所のおじいさんが飼ってる犬だよ。トムって名前なんだけど、メスなんだ。トムもサッカーが好きなんだよ」


 彼の目は、犬を見ているようでどこも見ていなかった。


 「別れよう」

 「私は大丈夫」

 「…そうかもね。でももう無理だよ。怖いんだ。ごめん」

 「分かった。ありがとう」


 手を取りかけて、途中で気付く。もう手を取ってはいけない。


 「暗いから今日は送るよ」

 「それまでにしよう。だから、手を繋いで」


 彼は瞳に涙を滲ませ、もうすぐ恋人ではなくなる人の手を取った。




                  ***




 サッカー部のマネージャーである少女は、下駄箱を開けてため息を吐いた。


 「またゴミ?ちゃんとゴミ箱に捨てなよ」

 「うん、そうだね…」


 スタスタと歩いて行ってしまう彼を、見つめ続けていた。


 「たまに日本語足りないよな?」

 「そうだねぇ。でも足りないのは言葉だよ」

 「声かけるってことは気にしてるんじゃねぇの。気にするなよ、マネージャー」

 「ありがとう」


 3人の背中も見送り、飴の袋や紙屑をゴミ箱に入れる。そして、自分のクラスへと歩き始めた。




 何事もなくやってきた、昼休み。いつも通り彼のクラスに集まった3人に彼は、神妙な顔を向けた。


 「僕がなんとかするから、なにもしないで」

 「かっこいい。オレも言ってみたい。な?」

 「そうかなぁ。平和な方が良いと思う」

 「実際問題、出来るのかよ。女子の問題に首突っ込んで悪化するなんて、よく聞くじゃねぇか」


 彼は視線を逸らして、なにも言わなかった。その視線は不安気で、難しいと思っていることは明らかだった。


 「兎に角、なにもしないで」


 その真剣な声色に、3人は了解の返事をした。


 「今日の練習後は、コンビニじゃなくてハンバーガーにするか。好きだろ?」

 「良いねぇ。でも夕飯食べられなくならないかな」

 「一日くらい良いんじゃねぇの」


 和やかに再開した会話に、彼は微笑む。どうでもない会話が20分程続いたが、ふと窓の外を見た友人によってそれは終わる。


 「お、嫁だぞ。また告白されるのか?」

 「本当だぁ。モテモテだね」

 「彼女がいるヤツに、幼馴染を嫁なんて言うんじゃねぇよ」


 窓の外に向いていた視線が、彼へ冷やかしの視線を向ける。彼の幼馴染は、男の先輩に連れられて歩いていた。


 「嫁と彼女は違うだろ?」

 「そうなんだぁ。でも嫌そうな顔してるよ」

 「よく見えるな。俺には見えねぇよ」


 友人が教室の中の一点を掌で指し示す。そこには、彼がいた。嫌そうな顔。そう表現出来る表情をしている。


 「い、今すぐ止めに行くか?な?」

 「違うよぉ。嫁って言われたことだよ」

 「なんか言ってくれねぇと分かんねぇよ。どうした」


 彼はこう思っていた。マネージャーからの視線が怖い、と。


 「うん。」

 「出たよ。なんか言いたいけど言えないときの台詞。どうしたいんだよ?」

 「もういいよぉ。言わないんだから」

 「けどな、もう少し俺らを頼ってくれても良いんじゃねぇの」


 視線を逸らし、立ち上がる。


 「ごめん」


 そう言い残して、彼は教室を出て行った。


 「オレらって、そんな頼りないのか?」

 「でもさぁ。悩みを打ち明けられても、解決してあげられそうにないよね」

 「そういう問題じゃねぇだろ」


 顔を見合わせると、3人は彼を追いかけた。

 彼の行き先はというと、お手洗いだった。恐らく普通に用を足したであろう時間で出て行く。そして、教室へと戻った。


 小さく首を傾げただけの彼は、座ると携帯を取り出した。

 ネットニュースを見ている。3人からはなにをしているかまでは見えないが、ただゆっくりスワイプしているだけの指の動きは見て取れた。


 「なんだったんだ?」

 「分かることはひとつだねぇ。切り替えが早い」

 「どうしたって頼る気はねぇってか」


 ふと顔を上げた彼が、3人の方を見る。目が合ってしまい、3人は教室の元いた場所へと戻って行く。


 「分かってるよ、ありがとう。でも大丈夫だよ」


 彼はにこりと笑って携帯を仕舞った。画面を消して上にして置くわけでもなく、伏せて置くわけでもなく、画面を点けたまま仕舞った。

 彼の静かな意思表示だった。


 問題はある。解決していない。けれど、3人に頼ることはない。


 3人にはポリシーがあり、それをしっかりと守っていた。騒いで良いときしか騒がない。馬鹿は出来るときにしかしない。

 故に、場をわきまえる。空気を読む。人を観察する。こういったことは、むしろ得意だった。


 彼の意思表示を、静かに受け取る。


 「朝にカレー食べると、脳の働きが良くなってテストで高得点取れるらしい。ばーちゃんが言ってた」

 「普段よりパフォーマンスが上がるって意味じゃないかなぁ。勉強してないボクらには不必要な豆知識だよ」

 「してねぇってなんだよ。まさか一夜漬けすらしてねぇのか」


 そして、騒いだ。

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