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古書店『ふしぎのくに』の業務日誌  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 『夏に泳ぐ緑のクジラ 著・村上しいこ』初版2019年7月29日
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時には神様とお酒を飲み

劇場版、はたらく細胞。観にいきましたよぅ! 実に面白かったですねぇ。学校の保険の授業とかで見せてもいいんじゃないかと思う程の出来でしたねぇ^^ さて、当方映画をかなり格安で観れるようになりました。ふしぎのくにの福利厚生もかなりしっかりしてきましたねぇ。

「誰かおんな、ヘカちゃんか、トトさんか?」



 アヌがお店に帰り、締め作業をしようと思ったところ、店内に気配を感じる。泥棒ではないだろうと中に入ると、そこには金髪のちんちくりん。



「神様やん」

「おぉアヌではないか、そういえば交換研修であったな。丁度良い、酒でも飲みながら何か語ろうではないか!」



 神様はスーパーの袋に入れたビールを見せる。アヌは頭をかいて「作品」を見せた。神様はその本を見て、あぁとうなづいた。普段はお酒をこのお店では飲まないのか、ジョッキはないのでジュースを飲むグラスにプレミアムビールを注ぐとアヌはゴーヤチャンプルを作って神様の前においた。



「おぉ! 貴様料理も達者だったか、これは良いアテだの」

「あんま飲みすぎんなや神様、それにしてもわりとこの作品って残酷だよな? つちんこは元々人だった。そして槍で頭を突かれて殺された……ひどい話やな。子供を殺すなんて」



 昨今のニュースなんかを思い出しながらアヌが実に不愉快な顔を見せるので、神様はグラスを一つ用意するとエビスビールをそのグラスに注ぐ。



「少しくらいはいける口であろ? いい酒の飲み方は悪い酔いせんことだ。いい本の読み方は悪酔することかもしれんの」



 神様の言う意味があまりわからないアヌだったが、豚肉の代わりにチョリソーを入れて作ってあるゴーヤチャンプルを美味そうに食べる神様を見て、注がれたグラスのビールを胃に落とす。

 酎ハイ等の質の悪いアルコールではなく、純度のいいアルコールがアヌの腹部を刺激する。ゆっくりと熱くなりそして頭が少し冴えるようだった。



「カイはどうやら救われたらしい。ワシは思うんです。子供の内にあんまり辛い物を見るべきやないと……」



 神様は空になったエビスビールを見ると次はプレミアムモルツのプルトップを開ける。

 ワシが! とアヌが酌をしようとすると神様は「構わんよ」と自分の手酌でビールを注ぐ。



「ぬぉおおお! 何故だぁあああ!」



 泡ばかりになる神様のグラス。それにアヌはビールの注ぎ方を見せる。グラスに伝わせて泡を作らないように6分まで入れると後は伝わせずに勢いをつけていれる。それで泡が……



「ほい、三センチ」



 以上、見事なビールの注ぎ方。それに神様は「おぉ!」と目を輝かせてそれを飲む。



「うまい!」

「まぁ、缶ビールは2、3日寝かした方が上手いんですけどね。にしても、つちんこはお京の事を思ってるんか、それとも思ってないんか、分からん奴やな」



 神様は苦いゴーヤをこリリといい音を立てて食べると目を瞑る。苦味を味わい、そしてそれをビールで流し込む。アヌもゴーヤチャンプルの卵と高野豆腐を一口食べてビールを一口。



「まぁまぁの出来やな」

「つちんこのセラピーは中々荒療治だが、確実にカイは前に進めるようになっておる。つちんこは悪い奴ではない見たいだの。まぁ本当に悪い奴ならこんな周りくどい事はせん」



 神様はグラスをアヌに見せる。それにアヌは頭を下げて、神様の持つグラスよりも下に自分のグラスをコツンとぶつけた。神様は、このアヌという青年のよくできた大人の態度に満足する。



「心の病は伝染する。だが、人の明るさもまた伝染するからの、カイが前を向くようになって、お京も元気になってきておる。全てがうまくいくような気がしてくるの。読者の気持ちもやや前向きになるものよ」



 アヌは初めてこの神様という存在と出会った時、セシャトの妹か弟だと思っていた。本当にこの神様が自分たちを作ったとは到底思えなかったからだ。実際、神様はポンコツである。料理もできない、手先も器用ではない。食べる事と呑む事が好きな無能な神。

 されど、事作品を読むことに関しては古書店『ふしぎのくに』系列において誰よりも優れている。



「野球、神様は見られます?」

「巨人の試合をたまに老人会で見るの、打って投げて、走って守って野球とは難儀なスポーツだと思うの」

「ワシは大好きなんですわ。もっぱら阪神ですけどね。野球にのめり込むのは作品に同化してる時に似てます。なんで打たへんねん! とか、何してんねん! とか、よっしゃーホームランや! とか一体感を感じますわ」



 大人の余裕、そして大人らしい間がそこにあった。ビールを飲んでプハー美味い! と声に出すわけではなく、ゆっくりと流し、そして箸休めに手を伸ばす。語らずとも同じ時間を共有する事で一体感を感じる。

 まさに、いいお酒の飲み方を二人は熟知していた。どこからどう見ても可愛い幼い少女が少年にしか見えない神様だがお酒を飲むときの貫禄は中々のものである。



「カイが、亡くなった自分の母親の不倫相手に会いにいくというのは特大の勇気がいる行為だの」



 神様とアヌが読んでいるのは第八章。タイトルは対決。それはカイという少年が亡くなった母親の不倫相手である酒屋の男性に会いにいくことかと思えるが、実際は違う。

 自分との対決という意味合いも込められているのだろう。神様の目の前のアテがなくなる前にアヌは冷蔵庫の中の物を見てから神様に尋ねた。



「神様、ヤキソバとかなら作れますけど食べます?」



 神様は目を輝かせる。



「おぉ! 食う、食う! 貴様は本当に気の利く奴だのぉ! ヘカの奴は論外としてセシャトとトトは私が酒やタバコを呑むのをあまり好まんからのぉ」

「神様、煙草もするんか? そのなりで?」



 神様は見た目の事を言われるので、少しばかり閉口する。口をへの字にしてから新しいビールのプルトップを開けてそれを呑む。



「全く、貴様らは私の本当の姿を知らんからそう言うのだ全書全読の神様だぞ? おやつにお茶に酒に、食事に煙草。読書の友はなんだってやるに決まっておろうが?」



 なる程、そういうものかとアヌは頷きながら電子レンジで温めた焼きそばの麺をフライパンの上で焼く。神様は微動だにしないアヌを不思議に思い横に立った。



「貴様、麺をほぐさんのか? 硬くなってこげるぞ?」

「これでええんです。神様」



 手際良くアヌは粉末ソースを半分水で解く。その間にキャベツとネギを切り、フライパンの空いているとことで豚肉を炒める。奇妙な焼きそばの作り方。片面に小麦色の焦げ目ができたらアヌはひっくり返して両面焼きにする。そしてしばらくするととかした粉末ソースをゆっくりと麺にかける。それをゆっくりとほぐしていく。解れたらキャベツとネギを投入して30秒ほど野菜に火を通す。そして出来上がり。



「で、最後に生卵や」



 古書店『おべりすく』の賄い、アヌのかた焼き焼きそばが完成する。自宅の火力で焼きそばを作る際、炒めるよりこの固焼き焼きそばを作った方が圧倒的に美味い。たまにアヌさん主催のバストさんと師匠さんと、トトさんが参加する。男会なるBBQ(女子も参加可)でアヌさんが必ずシメに作ってくれる焼きそばでもある。



「美味い! 貴様、天才か!」

「そら天才ですわぁ! なんたって神様の子やからなぁ」



 とはいうものの、アヌは神様の頭を撫でる。明らかに親を相手にするよりも年下の子供を可愛がるそれである。



「貴様にそうされると悪い気がせんのがすごいの、貴様なら、母親の死の原因になった者を前にして心からの謝罪で許せるかの?」



 カイは許したかどうかは不明だが、大好きな母との別れに関して一つの折り合いをつけた。つちんこなる怪異、それを舞波は酷く嫌い、お京は警戒しているが、カイはそのつちんこの事を嫌いではないと言う。



「さぁ、どうやろうね。ワシは案外ドライですからね。家族と呼べるのは、神様ら古書店『ふしぎのくに』のみんなやけど、ワシはワシ、みんなはみんなで割り切る部分はある。ここの家族が何か惚れた腫れたで面倒ごとに巻き込まれてもし死んだとしても、ワシは案外なんとも思わへんかもしれんです」



 アヌは少し酔っていた。神様ほどお酒が強いわけでもないが、酒の相手を自ら勝って出ただけあり、もう飲めませんともいいにくかった。



「絶対嘘だの。貴様は、冷静そうに振る舞って常に情熱的な心を持っておる。あのシアの下についとるくらいだからの……お前は寂しさにも弱かろう? 犬出しの」



 神様にそう言われてアヌは赤い顔でクスりと笑う。分かってるなら言わすなやと……



「つちんこは寂しさがなければ関われんちゅーのはある種の呪いやの……つちんこに救いはあるんか……ワシはそれを途中から考えてますわ」



 つちんこは心を損ないかけたカイを救った。それは痛みを伴う方法だったが、カイは海に叫び、自らを奮い立たせ、もう一度、前を夢を追いかけることができるようになった。



「つちんこ、実に摩訶不思議な奴よの? それをしてなんの意味があるのか? お前にはなんのメリットがあるのか? お京はまだ完全に自分のいくすえについては見えないかも知れんが、間接的につちんこのおかげで現実と向き合う事ができるようになってきておる」



 小説は自ら読んでいるからわかる。クライマックスが近づいている事。最初は分厚い本だったのに、指で摘む数枚になった時、その小説を楽しみきったんだと思えるその至福の時、そして少しばかり寂しい別れの時。



「今まで数えきれん程の本を読んできて、毎回思うんですわ……この本読み切るのやめとこうかなって」



 それは面白くないからではない。面白いから、最後まで読んでしまうと何か勿体無いような気持ちになる。大事な時にその最後のページを……



「だが、読んでしまうであろ?」

「そうですね。ワシも気になって、気になって先がどうなるのか、寝るのを惜しんで読んだもんですわ! ……ん?」



 アヌは何かを思い出した。油でとった灯りの中、書き物をする誰か、その傍らで何かを服毒し、倒れている誰か……そんな記憶に心当たりはない。



「神様、ちょっと酒に酔ったみたいですわ。少し散歩してきます」

「うむ、気をつけてな」

『夏に泳ぐ緑のクジラ 著・村上しいこ』本作の紹介も残すところあと二話ですが……小説文庫の方が少し問題が起きましたねぇ。来月の紹介が難しい状態となりました。さてどうしましょうかとミーティングが予定されています。どうにかしてしまうのが当方ですが、さすがに今から原稿用意は難しいですね

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