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古書店『ふしぎのくに』の業務日誌  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 『夏に泳ぐ緑のクジラ 著・村上しいこ』初版2019年7月29日
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麦茶の季節が終わるように

さて、最近師匠ちゃんさんがミーティングに参加されるようになりました。実に私の行き当たりばったりな感じをご指摘頂、少しぴりりとしたミーティングを進めていただいていますよぅ!

今後の取り組みも楽しそうですねぇ!

 からん、グラスに入った麦茶の氷が割れる音が古書店『ふしぎのくに』の母屋に響く。



「修羅場だ……」



 たおは独り言のように呟く。アヌは、本作の小説としてのリアルさ、やばさ吐き気を催すような人間関係の生々しさ、結婚の失敗、家族間のトラウマ、そんな物が次から次に飛び出してくる。



「お京はなんか呪われた家系なんか? ってくらい同情はしたなるな?」



 この小説は本来中高生向きなのだろうが、大人が読めばなんとも言えない胸のつっかえを感じる重い何かがのしかかる。

 よく古書店『ふしぎのくに』が使う専門用語に同化というものがあるが、これはそれとは少し違い作品に読者がそう動かされるような気持ちにさせられる。特に何か想うところがある人間であればあるほどに……

 アヌは冷凍庫で冷やしたグラスの中に入れたポッキーを一本かじりながらたおに聞いてみる。

 今や、社会問題になりかねい言葉について……



「たおは男らしい、女らしい、男のくせに、女のくせにって言葉どお思う?」



 正当な返しをしてくるだろうか? アヌは少しばかり興味深かった。それにたおは本を読むのを止めて少し考える。

 う〜ん、と。そしてたおなりの答え。



「一般的には使わないほうがいいかなって思うけど……時と場合によるかな?」



 さすがは瑞々しい中学生の言葉だとアヌは考える。その心はある程度読めるが、聞き手に回る。



「ほう、興味深いやんけ」

「だって、男らしい。女らしいって凄くいい言葉じゃない? それは月が綺麗ですね! と同じで魅力的ですって言ってるんだから、それを差別だの一言で片付ける人は語彙力がなさすぎるし、理解力もなさすぎるかな? かと言ってそれを否定に使えばそれは突然よくなくなる」



 お京の叔父さんは受身すぎて最初の奥さんに逃げられた経緯を持つ。そんな叔父を他人事めいたずるさと表現した。



「なるほどな、たおは中々うまい事言い寄るな。男のくせに、女のくせにも時と場合によれば褒め言葉になるの」



 アヌとたおは少しばかり今後の世の中について、不安めいた何かを感じる。何を言っても差別だ批判だと捉えられる世界がくれば人は言葉を捨てるだろう。



「もう誰の子でもいられない……お京、中学生でこれは中々辛いよね。私なんて……結構親に甘えてるんだな」



 アヌはそれが自覚できるだけで十分大人やなと思ったが、言わない。このたおタイプの子は褒めるとすぐに調子に乗る。麦茶を一口飲みながら、エアコンの温度を一度あげた。



「母親に気つかって話さなあかん娘、はっきり言って地獄やな……そしてワシは思うねんな。この作品、こんな胸糞悪いストーリーが続くのに、続きが気になってしゃーない。これはうまいストレスのかけ方や……宝くじが当たるかもしれへんと思って一桁ちゃうかったみたいな後をひくストレスやな。悪い人やないけど空気読まれへん、お京のおじさん。すぐに心を病むお京のおかん……ワシなら逃げ出すわ」



 アヌが笑う。それにたおは神妙な顔をして上目遣いにアヌをみる。それに気がつくとアヌは「なんや?」と聞き返すのでたおは尋ねた。



「アヌってご家族は?」

「あぁ、久しぶりにそんな事聞かれたのぉ、どうやったかのぉあんまり覚えてへんなぁ……ワシの家族は古書店『ふしぎのくに』のみんなやの、西の『おべりすく』とかもそやけどな」



 それにたおはほっとした顔で続けた。



「じゃあセシャトさんも家族なの?」

「う〜ん、せやな。甘い物に支配された病気を持った妹ってとこか」



 冗談のつもりだったが、たおはそれを冗談とは受け取れなかった。セシャトの甘味の消費量は異常そのものである。セシャトの作るスモアを思い出してたおは胸焼けがしてきた。



「……アヌってセシャトさんのスモア食べた事ある?」



 それを聞いて麦茶を一口。そしてアヌは少し遠い目をしてから語る。



「前にみんなでグランピングしに行った時に……な。あれはえげつない食い物んやったな」



 ここでセシャトさんがガチで作って皆を震え上がらせたスモアの作り方を簡単に伝授しよう。片面がチョコレートコーティングされたビスケットを二枚、そしてマシュマロを一つ。焼いたマシュマロをチョコビスケットで挟むスモアというお菓子なのだが……セシャトさんは缶詰のアンコをホットチョコレートで戻したチョコぜんざいをソースとしてかける。そこにホイップクリームとマーマレードジャムも載せてワンプレート。



「神様とヘカちゃんがガツガツ食ってたけど、ペヤングの超大盛りと同じカロリーあるからの……にしてもつちんこ、意味深な事いいよるの?」



 叔父の婚約者である優しくて元気なすみれという女性。お京の事も可愛がってくれるが、このすみれが味方だと思うと痛い目を見るという。



「なんだかさ、つちんこがすごい悪霊みたいに思えてくるよね?」



 二人は想像しただけで口の中が甘くなるセシャトのお菓子を忘れるように物語の考察に入る。



「お京のおかん、もう末期かもな」



 それは精神病のという事である。事ある事に思い出したかのように、誰かれ構わず悪意を向け、そして自分を正当化しようとする。残念ながらこうなるともうてがつけられない。精神病は治らない。なぜならあれは精神を病んでいるからではなく、元々、そういう人間だからなのだ。当方には精神科の教員資格を有する者もいるが、精神病が完治した人を見たことがないと赤裸々に語る。



「ねぇアヌ。精神病は伝染するって知ってた?」

「知ってるで、シナジーっちゅーねん」



 感受性の強い子供達は一人が泣くと連鎖したように泣き出す。それと同じで心を病んだ人とずっといると気づかない内に本人も病んでくる。

 そしてそれはゆっくりとお経にも忍び寄っている。



「うわっ最悪だ!」



 たおは少し面白そうに、何か思い当たる節でもあるかのように小説を手にそう言った。お京に次に降りかかる災難は、友人のカイがいなくなり、カイの父親が意味不明に絡んでくるのだ。そこでお京は学習する。

 自分で責任を取れない人、取りたくない人、大人になってもそういう人はたくさんいると……



「まぁ、そうやな。一つ勘違いしてるかもしれへんけど、大人なんて正直そんな尊いもんやない。ガキに毛が生えた程度やからな。まぁワシは大人になってグチグチ、愚痴ばっかり言う奴は好かんけど、案外これも多い。子供の前では大人は大人ぶるんや」



 アヌは空になったグラスに麦茶とロックアイスを入れてたおの減ったグラスにも麦茶と氷を足す。



「アヌ、お母さんみたい」

「やかましい! 合コンでもそない言われるんじゃ」

「アヌ合コンとかいくの?」

「行ったアカンのかい?」

「行っちゃダメ」



 アヌはクスりと笑う。そしてアカンのかいともう一度呟いた。たおはそんな所に、そんな仕草に大人の男性を感じていた。学校にいる男子や、学校の教師とは違う。美容院の大人の美容師と話している時のような……期待と恋心のような物が合わさった何か……女性は男性と比べて恋愛の多い生き物である。

 さすがのアヌもたおが自分に惹かれつつある事に気づいたが、気づかないフリをする。



「アヌがさ、麦茶入れてくれたりするのって、この作品に合わせてるんだよね?」

「あぁ、せやで。小説を読むときはロケーションが大事やからな、ワシ等の神様はそれ故キャンプして小説読んだり、旅館でワシ等に執筆させたり、いろいろ趣向凝らしよるからな。自ずと楽しみ方を真似とるんかもな」



 作品はようやく物語の核心的なストーリーへと向かうが、あえてここで本を読むのを一旦止める。

 アヌ達西の古書店員の本の読み方は朝活という方法。少しずつ作品を楽しんでいく。西は元々日本文化の発祥だけあってあらゆる事に間を置くことを重んじる。



「たお、そろそろウチ帰らなアカンのちゃうか?」

「えぇ、ぶぶ茶漬けって言うの言ってくれると思ってた!」



 アヌは頭を抱える。これは関西以外の人々が関西人を不快にさせる言葉の一つである。はっきり言って言わないのだ。屁こいて寝ぇや。言わない。ツッコミになんでやねん。言わない。ガチガチの京都人であるアヌからして一言。



「いつの時代の奴やねん。そんな言わへんわ。あと何々どすとかも言わんからな?」

「えっ! ちょっとショック」

「イントネーションがちゃうだけで大体、お前等が大阪弁やと思ってるんが京都弁やで」

「嘘だ!」

「ほんまや」



 筆者も驚いたことだが、京都人のアヌさんの言葉はテレビでよく見る大阪の言葉である。そして大阪の上品なところに住むシアさんはイントネーションは違うのだが我々がよくしる京都の喋り方のようで、神戸にすむバストさんは標準語のような言葉を使う。

 東京に住んでいて、やや地方に行くと東北なまりのように感じるそれに似ているのかもしれない。



「じゃあ、この作品の関西弁って違和感あるの?」

「ありまくりじゃボケぇ……やのーてもう帰れや暗なるで?」



 それにたおは嬉しそうな顔をしてスマートフォンをアヌに見せる。



「今日は両親が泊まりだから、私が家にいなくてもわからないのさ。だから、今日は泊まっていこーかなー!」

「アホか! 未成年、誘拐で捕まるわ。送ったるから家帰り」



 アヌが呼んだタクシーにたおと乗り、代官山方面へと走らせる。そこでアヌはもう夜になりかけている事に気付いてたおにこう言った。



「腹減ってないか? なんか軽くスパゲッテイでも食べていくか?」

「パスタでしょ! アヌ古いよ」



 それにアヌはニヤリと笑った。実はスパゲッティが正しくパスタは間違っている。パスタというのはあの小麦の主食全般のことをいう。



「ほんま今の子はあかんなぁ……上部だけの知識やと損するで、カイのおかんが死んだのかどうか、少し話しながら飯にしよか?」



 アヌがウィンクするので、たおは少し膨れっ面になったけど悪い気はしない。それに頷き、アヌのオススメ。少しお高いイタリアンレストランに入店する。

10月の紹介作品についてのミーティングが近々行われるようです。

本作のアヌさんが現在東京に出張頂いていますので、本作の『夏に泳ぐ緑のクジラ 著・村上しいこ』を実際に楽しみながら東京の聖地巡礼をされています!

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