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モードレッドは、だーれだ?

 沈黙のわだかまりが出来上がった頃、五つ目のうちのひとりが、恐る恐るといった体で口を開いた。


「ゆ、ユウリ殿。お言葉ではありますが、誰がフェム……いえ、モードレッドであるかは一目瞭然」

 

 赤紫色の髪の毛を下ろした状態、目の裡では魔法陣が渦巻き、衣装が引き破れている唯一の少女。彼女を指さして、僕に目配せしてくる。


「先程まで話していた、この女です。我々の中で唯一衣装を破いておりますし、槍すらもっておりません。恐らく、メーちゃん――いえ、メリッサと入れ替わったんでしょう。魔力が酷似していたので、ご当主様と勘違いしておりましたが」

 

 ぼーっとしている偽フェムは、反論すらしようとしない。


 ますます疑問が深くなった僕は、勇気をもって言ってみることにした。


「……違う」

 

 指摘してきた彼女を見つめて、語りかける。


「……なんか違う」

 

 なんか違うってなんだよ、と僕も思ってるんだ。でもね、理由を説明したいのに、1対1で対話するという行為の難易度が高すぎる。というか、全員の注目を集めながら語るなんて、もはや神の領域に至ってるんだ。


「…………」


(え、なんで、急にだまったのー!?)

(どういうこと!? なんか違うってなにが!?)

 

 ま、まずい。不信感を与えてしまった。どうにか、理由を説明しなければ。でも、最早、緊張で口がフリーズしてる。


「…………」

 

 あ、無理だなコレ。1時間は猶予が欲しいヤツだ。とはいえ、そんなに待たせるわけにもいかないし、どうにかせねば……仕方ない。あまりやりたくはないけれど、誰かの口を借りるか。

 

 意思を思考に集中させて、目の前の女の子に注ぎ込むイメージ……大規模探索グループシークの際に、レイアさんから説明のあった『操魂咒』と似通ったようなものだ。


 操魂咒は『赤の他人を自由自在に動かす術』……相手の〝気〟に、強制的に介入する禁じられた術のひとつ。気を操る瞑想でアーミラちゃんを作り出した僕にとって、相手の口を操るくらいは実に容易だ。


「……説明する」

 

 成功。びくりと全身を震わせた後、目の前の彼女が口を開く。


「……その人は、さっきとは別人になった」

「きゅ、急にどうしたの? なぜ、いきなり、ユウリ殿のような口調に――」

 

 なにかに気づいたのか、僕へと勢いよく五つの目玉が向けられる。


「彼女の中には、ユウリ殿が入っている……そ、そうか!! そういうことですね!! やられたっ!!」

「お、落ち着きなさい! なにがどうしたというんですか!」

「まだ、わからないの!? ユウリ殿が仰っしゃりたいことが!?」

 

 先生。ユウリ殿が仰っしゃりたいことを、ユウリ殿がわかってません。


「目よ」

 

 全員が静まり返り――互いが互いに槍先を突きつけた。


「だ、誰に!? 誰に入ったの!?」

「お、落ち着きなさい! 不確定要素で動かないでっ!!」

 

 なにが起こっているのかわからない僕は、逆に冷静になってきたので、腕を組んで事態を見守ることにする。


「ユウリ殿! ユウリ殿に説明を!! 恐らく、この場で、モードレッドを見つけられるのはこの御方以外にいない!!」

 

 はい!! なんで、唐突にかくれんぼが始まったのか教えてください!!


「ユウリ殿。先程、五つ目の“正体”についてご説明いたしましたよね?

 我々、五つ目は、モードレッドの“予備”として魔術造成された人工体ドール。彼女の肉体が損傷した際、“入れ替わる”ための予備品なんです」

 

 僕は、黙って頷く。


「問題は、入れ替わりの方法……それは、“目玉”を通すこと」

 

 説明役の彼女は垂れ布を外して、魔法陣が渦巻く目玉を露出させる。


「モードレッドは、我々、予備品と目と目を合わせることで、魔法陣を通した術式転写を行い精神体のみを移動させるのです」

「ふたつある目玉の視線を合わせて四つ、そして“五つ目”として精神を合わせる……その忌むべき行為を、我々は『五つ目』と呼称し組織名としました」

「ユウリ殿は、我々の裡のひとりを乗っ取ることで、モードレッドが既に入れ替わっていることを示した」

「このからくりを知らずして、そのことを見抜くとは……恐れ入りました」

 

 えーと、つまり、モードレッドと同じ顔をしている五つ目たちは予備の肉体で、その特徴的な目玉を合わせるだけで入れ替わりができちゃうのか。えー、そしたら、誰が誰だか、本格的にわからないなぁ。


「ま、魔力では判別がつかない……気取れるユウリ殿が、規格外だということですね……」

 

 どうしよう。よそ見をしてたら顔つきが変わった気がしたから、指摘してみただけなのに、なんか大事になってきた。


「ユウリ殿……お願いいたします……! 誰がモードレッドなのですか……教えてください……!」

 

 さ、さすがに、もう適当に指させないよね。コレで間違えたら最悪、モードレッドじゃない人がタコ殴りにされちゃう。


「…………」

 

 よし! 無言で切り抜ける!!


「ユウリ殿っ!!」

 

 やっぱり、ダメだった!!


「ユウリ殿!! お願いいたします!!」

「ユウリ殿っ!!」

「どうか、教えてください!!」

 

 お、教えないという選択肢が許されない。ど、どうするんだ僕。こ、ここまで追い詰められたら、最早、あの奥の手を使うしかない!!

 

 覚悟を決めた僕は、顔を上げ――最後の切り札を切った。


「……後で」

 

 僕は、ささやく。


「……後で教える」

 

 場が、静まり返った。

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