第13話 霧中
「オーイ」
ーー身体が動かない。瞼も開かない。俺は生きているのか?
「ルイナスって言ったか?」
どこかから声がするが、目ひとつ動かせない俺は頷くことすら出来ない。
「あぁ、夢の中だから上手く動けないのか。こここは夢、意志の世界。お前の夢だからお前の自由だ。お前は自由に動けるはずだ」
夢? 俺は夢を見ているのか?
「そうだ。お前はまだ宿のベッドの上。部屋の外には月が昇り、夜空には星が輝いている。それを想像してみるといい」
夜空ーー。そういえば、死ぬ前には何度か野宿をした事がある。寄せ集めの傭兵と焚き火を囲い、交代で見張りをしながら身体を休める。
近くで木々が物音を立てる度に剣の柄を強く握り締める、恐ろしい時間。だがそんな時も夜空だけは美しく、暗闇を横切る天の川は今にも零れてきそうな程だった。
ーーそう思い出した時、俺の目の前に大きな月が現れ、俺は天の川の上に立っていた。
「……ここは?」
「だからぁ、お前の夢の中だって言ってるじゃん」
少し高めの男の声。俺は声の方へと振り向いた。そこには人の形をした影が立っていた。影にも虚空のようにも見える。
「やっほー」影は片手をあげる。「ちゃんと話すのはこれが初めてだな」
「お前は?」
「誰だと思う?」
表情は見えないのに、声色でニヤついているのが分かる。
「そんな姿で分かるわけないだろ」
「まじ? 酷いなー。せっかくお前に協力してやるって言ってるのに」
「協力……? もしかしてお前、あの妖精か?」
「お、正解! もっと惚けた野郎かと思ってたけど、少しは頭が回りそうで良かったぜ」
随分と失礼なやつだ。俺が思っていた妖精のイメージとは大分かけ離れているようだ。
「まぁそう怒るなって! 人間は短気でいけねーや。ま、エアよりはマシだけど」
「エアに伝えとくよ」
「ちょ、それは勘弁して。まじで。本当に消し炭にされかねないから」
「どうしようかな……」
「まじで!! さっきのドワーフに対する態度見たろ? エア怒らせるとマジやばいんだって!」
影が慌てふためいて腕をばたつかせていると、暗闇の中から目が痛くなるような光が注した。それは眩く暖かかった。
「やべ、朝だ。とにかくエアには何も言うなよ!!」
「お、おい。結局何の用だったんだーー」
影はあっという間に消え、夜空から星が去り、地平の向こうからは眩い太陽が顔をのぞかせる。このままでは太陽の熱で焼き消えそうだ。
あまりの眩しさに、俺が腕で顔を覆ったその時、今まで閉じていた瞼が開いた。窓から差し込む朝日が、ベッドの上で横たわる俺の顔に落ちていた。ゆっくりと上体を起こす。部屋の中は昨日寝た時のまま。テーブルの上に妖精の入ったランタンがおいてあったが、相変わらず妖精の姿ははっきりとは見えなかった。




