第5話 レベルアップ
それからたっぷり2時間ほどかけて、俺は5匹のゴブリンを倒した。
結論から言えば、不意打ちの習得は正解だったと言えるだろう。
俺は最初に潜ったときと同じように、ゆっくりマッピングしながらダンジョンを進んでいった。
そうしていると、自然と足音は小さくなるし、特に他の音源もないダンジョンなら相手の足音が唯一の音となる。
それを察知したあと、十字路や曲がり角で待ち伏せし、出会い頭に一発を叩き込むと、ゴブリンはわかりやすく怯んだ。
不意打ちによって増加したダメージで、どうにか相手のHPを削り切れるようになったらしく、頭への一撃は明らかに相手の動きを鈍らせるようになった。
そうなると、ふらふらの相手にとどめを刺すだけの簡単な作業になる。
もちろん、全て上手くいったわけでもない。
一度だけ、相手が二人組のときがあって、不意打ちで一体は行動不能にできたが、もう一体には反撃を許してしまった。
とはいえ、何回もゴブリンを襲った経験から、少しは戦闘慣れもしていた。
バットのリーチを生かして、なんとか一回の反撃で戦闘を終えることができた。
そこで丁度数えて5体だったのもあって、俺はいそいそと入り口へと引き返すことにしたのだ。
お手製のマップは十分に役に立った。一階層のくせして内部はめちゃくちゃ広いのだ。
「よし、レベルアップ、してみるか!」
再び入り口の端末まで戻ってきた俺は、今度は興奮で震えそうになる手でレベルアップの項目を選択してみる。
──────
【レベルアップ】
所持EP:10
レベルアップに必要なEPは10です。
レベルアップが可能です。
レベルアップしますか?
──────
一瞬、スキルが増えているかもしれないとか色々と頭をよぎる。
が、とりあえずレベルアップしてみたいという欲求には逆らえなかった。
「レベルアップ、します」
再び、口で意思表示しながら、俺はレベルアップの確認で『はい』を選ぶ。
その後、スキルを習得したときと同じように俺の体から白い粒子が溢れて端末に吸い込まれる。
しばらくして、吸い込まれた粒子は、今度は黄色い粒子となって端末から再び俺へと流れ込んだ。
「お、おおおお?」
体の奥から湧き上がる力が!
といった感じではなかった。
ただ、じんわりと体の芯から温まるような感じが、ゆっくりと体の外側へと広がっていく。
能力が上がったというよりは、器が広がったという感覚だった。
『レベルアップが完了しました。ステータスの割り振りを行なってください』
──────
残りポイント:3
力:8
魔:10
体:7
速:8
運:9
──────
ステータスは、自分で割り振るタイプなのか。
そうなると、途端に怖くなるな。
これが仮にゲームであれば、最初からある程度の役割に決め打ちして、どこかのステータスに特化させていくのがセオリーだろう。
パーティを組んで、前衛は耐久、後衛は火力にガンガン振るのが結果的にパーティ全体の総合力を高めることになる。
だが、今俺がいるここは現実のダンジョンだ。
しかも俺はソロである。
火力に振るのは良い。相手を倒せる火力がなければいずれ冒険は立ちいかなくなる。
耐久に振るのも良い。相手の一撃を耐えられなければ、不意の一撃で命を失う未来が見える。
極論を言えば、どちらも十分な値を振りたい。
だが、そのどちらもを選ぶと、どちらも中途半端になりかねない。
「慎重に、考えなければ」
幸いなことに、レベルアップを行なった端末は急かしてくることがない。
画面はずっと、俺の行動を待ったままだ。
迷ったら聞いてみるか。
「このステータスの割り振りを、後でやり直すことは可能なのか?」
『端末で自由にやり直すことはできませんが、その方法は用意されています』
「その方法を確認できるか?」
『現時点では、情報を開示できません』
どうやら、なんらかの救済措置は存在するらしい。
レベルリセットかそれに準じた何か、専用アイテムなどがあるのだろうか。
いずれにせよ、何かあると知っていると多少は気が楽になる。
ひとまず、優先事項を考えよう。
……何よりも、生き残ることだな。
強くなりたい、無敵になりたい、なんて大それた願いもいいが。
ソロで潜る以上は、まず自分の命、第一だろう。
ここは、俺の家の中にできたダンジョンだ。
もし、ピンチになっても誰かが助けてくれることを期待できない。
であれば、ピンチになった自分を助けてくれるものは、自分しかいない。
つまり、こうだ。
──────
残りポイント:0
力:8
魔:10
体:7
速:8→11
運:9
──────
『ステータスの割り振りを確認しました。次のレベルに上がるために必要なEPは20です。レベルアップを終了します』
次に必要な経験値は2倍か。それとも固定値で10上昇なのか。
端末の表示が終わり、俺のステータスが確定される。
やってから、やっちまった感がちょっとだけあった。
だが、大事なのだ。
ソロで潜る時、命を守るのに一番重要なのは、勝てそうにない相手から逃げ切れる能力だと思った。
もちろん他も大事だが、まず相手より遅ければ、勝てない相手との遭遇=死になるのだ。
そうなった時の悲惨さを考えると、ここだけはある程度確保する必要があった。
「大丈夫、大丈夫、いざとなればやり直せるんだから。失敗してもそん時はそん時だ」
それに一応、火力はスキルで補えないこともなさそうだった。
所持EPが0に戻ったのでスキルは買えないのだが、ゴブリン相手にもう少し粘って、いざという時のアクティブスキルくらいは用意しておこう。
「そういえばスキルも増えているはずかな」
さっき見た『!』がまた付いていたので、いくつかスキルも増えているはずだった。
「うーん……」
だが、ざっと見た感じだと、あまりめぼしいものがなかった。
戦い方を一切変えていないのだから、そういうものかもしれない。
個人的には、逃走を補助するようなアクティブスキルが欲しかったが、俺が全力で逃げることがあったら生えてくるのだろうか。
とりあえず、これで一応準備は終わった。最後に、俺の命綱の残量だ。
HP:22/42
CP:27/37(使用中CP:2/39)
ちらりとステータスを確認しておくと、最大HPと最大CPが10ずつ増えているのは分かった。
そして現在HPとCPは回復していない。ケチな方のレベルアップだ。
ただ現在HPは、時間経過で少しだけ回復したのだろう。そのあとダメージも負ったので分かりづらいが、一時間で3回復しているのかな?
暫定的に、一時間で10%回復するものだと、想定しておこう。
「……んじゃ。もう一回り、行ってみるか」
HPが半分程度なのは気になるが、ゴブリンの攻撃も二発は耐えられる計算だ。
もう一発もらうまで、もう少し探索してみようか。
お昼までは、まだ少し時間がある。




