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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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201/235

第201話 死に物狂いで挑むと良い



 何を答えればいい。

 何もわからない。


 さっきまで洞窟の中の安全圏にいたはずが、いつの間にか処刑台に送られてしまったかのようだ。

 危機感が赤と黒を行ったり来たりしながら、俺の行動を咎める。


 ただ、モンスターにテイムを試したことが、どうしてこうなる?

 ゴブリン以上ゾンビ未満のモンスターへのテイム行為が、どうして俺を殺そうとする?




【何を黙っておる? 疾く話せ】





 喉の奥から声を出そうとも、空気すら前に出て行くことを拒否する。

 これがただの五階層ボスだと? とても信じられない。

 ここまで圧力を感じるのは、深夜の駐車場でレギオンを見た時以来だ。


 だが、この場でずっと黙っているのはまずい。

 相手の機嫌が、時間経過とともに下降していくのが見えるようだ。


 だが、何をしていると聞かれてなんと答えればいい?

 なんと答えれば、コレの機嫌を損ねないで済む?



【ああ。下手な嘘は吐くな。余は(たばか)られることが嫌いだ。正直に、誠実に、何をしていたのかを話せ】



 そんな俺の心を読んだように、あるいは先手を打ったように、声が言った。

 それと同時、気づけば俺の前にありえない光景が広がっている。


 最初にテイムを試した吸血蝶が弾けた。

 死んだのかと思った瞬間、それは血の刃と変わり、まっすぐに俺の首元に添えられた。


 ゴクリ、と唾を飲み込む。

 刃が少し食い込み、血が流れる。

 混乱の渦に叩き込まれそうな思考が、称号の効果で冷静に保たれる。


 ようやく、俺は声を返した。



(テイムを、試した。ダンジョン五階層を攻略するのに、目が必要だと思ったから)



 念話で、敬語は使えなかった。

 絞り出した本音に、装飾をつける余裕さえなかった。

 むしろ、付け足した丁寧語ですら、嘘と思われる危険もあった。

 この一言だけで、俺の死が確定するかもしれないという思いはあったが、血の刃は止まったままだ。



【ダンジョン五階層……ああ、ここがそうだったか。うむ、して、五階層をどうするつもりだと?】


(攻略、する)


【攻略とは、どういうことだ?】



 丁寧に、死刑執行の目録が進んでいるかのような問いかけが続く。

 嘘をつけない。さりとて、本当のことを言えない。

 攻略を目指すとはすなわち、完全な敵対宣言である。

 危機感が赤と黒を行き来しすぎて、全く使えない。



【話せ】



 だが、沈黙は許されない。

 これ以上、時間をかけたらそれだけで殺される。

 血の刃への対処法を必死に考え、答えが出ないまま答える。



(あんたを、吸血鬼ラベンダーを討伐し、宝物庫のゾンビ化治療薬を手にする。それが俺の目的だ)



 挟まったのは沈黙だった。

 血の刃は、動かない。

 永遠にも似た、走馬灯さえ走るのを躊躇うような一瞬ののち。


 声は笑った。



【クフ。クハハハ。そうかそうか! お前はそんな目的でダンジョンに入っているのだな、野ネズミ。押し付けられた役割を今思い出したぞ!】



 言葉と同時に、首元に添えられていた血の刃が離れた。

 一瞬、助かったかと思った。



【よかろう。野ネズミの挑戦を許す。これは契約だ】



 だが、その直後の言葉。

 それと同時に、血の刃は紐のような何かに姿を変え、俺の首に巻きついた。

 咄嗟に抵抗しようと指を噛ませるが、そんなものは全く意に介さず、それは血の首輪になって俺の首に刻まれる。



【だが余も暇ではない。五日間だけ、待ってやろう。五日後の夜までに余のところへ来るのだぞ。でなければ】


(……でなければ?)



 なんとなく、答えは分かっていた。

 それでも、できれば違っていてほしいという気持ちで尋ねる。

 声の主人は、カラカラと楽しげに答える。




【その首輪が野ネズミの命を奪う。死に物狂いで挑むと良い】




 やっぱりこれ、少年漫画とかでたまに見るやつだな、と俺はどこか他人事みたいにその言葉を受け入れていた。

 嘘ではないと嫌でも分かってしまう。その程度のことは、声の相手はやってのけるだろうなと。



【ああ、それと、訪ねるなら夜にせよ。昼は機嫌が悪くてうっかり殺してしまうかもしれんのでな。クフフ。よいな野ネズミ?】



 そして、一方的にテイムのラインは切れた。

 それと同時に、俺は思わずその場にヘタリ込む。

 放心しながらも首をペタペタと触って、まだ、自分の命が繋がっていることを、ようやく実感した。



『上杉さん!? 今のは!?』


「あー、クミン。とりあえず大丈夫だ。大丈夫じゃないけど、一旦大丈夫になったから」



 いや、冷静に考えると何が大丈夫なのかはさっぱりわからないな。

 ひとまず、今この瞬間に死ぬという危機は去った。

 だが、同時に五日以内に条件を達成しなければ死ぬという枷をはめられた。


 やっぱりこれ、全然大丈夫じゃないな?



「クミンは、さっきの言葉は聞こえていたのか?」


『一応、上杉さんを通じてどんなやりとりがあったのかは、伝わっています。ですが、あれは』


「ああ。とんでもない相手だ。勝てる気がしない」



 レベル差が全くわからない。

 遠隔で、いくらでも俺を殺しうる相手だった。

 事実、俺は今でもしっかりと命を握られたままなのだ。



「決めたよ。俺もう二度と、普通っぽいモンスターにテイムしない。これ絶対いけるわってやつだけにする」


『それはさすがに……いやでも……』



 あまりの打率の低さに心で決意しつつ、俺は近くにいた端末くんへと向き直る。



「端末くん、さすがに聞いていいか?」



 答え合わせが必要だと思った。

 今感じた脅威と、五階層のレベルは流石に違いすぎるだろう。

 であれば、絶対ここに齟齬がある。



『お伺いします』


「五階層の突破に、吸血鬼ラベンダーの討伐は必須か?」


『いいえ』



 返ってきた、端末くんの返事に唇を噛んだ。



『五階層のボス、吸血鬼ラベンダーは五階層攻略の鍵を握っていますが、討伐自体は必須ではありません。例えば戦闘によって力を認められる、話術による交渉を行う、依頼を受けてそれを達成するなど、いくつかの条件によって五階層突破を成し遂げることは可能です』



 それを聞いて、ガクッと膝の力が抜ける思いだった。

 それはそうだろう。

 

 俺の感覚に間違いはなかった。

 アレは絶対に討伐しなければいけない類のモンスターではない。


 ゲームでもたまにいるじゃないか。序盤に出てきて力の差を見せつけてくるタイプのNPCが。

 吸血鬼ラベンダーも完璧にそのタイプで、現状では多分どうあっても倒せないレベルのモンスターだ。


 少なくとも、レベル30……いや40はないと前に立つことすらままならなさそうで……討伐できるのは、いつの話になるのかわからない。

 であれば、抜け道は当然あってしかるべきだ。

 このダンジョンは、そういうところはそれなりに誠実に作られているのだから。



 ただし。



「でも、五階層突破と、ゾンビ化治療薬はイコールではない?」


『ラベンダーの宝物庫にあるアイテムは、五階層突破の報酬ではありません。したがって、そちらのアイテムを手に入れるには、よほどうまく交渉するか──』


「討伐して、力づくで手に入れるしかない」



 くそ、結局、振り出しに戻っただけじゃないか。


 あの感じのボスが他のダンジョンにもいるんなら、187組どころか何万組あっても力押しでの五階層突破は無理だ。

 だが、突破の方法が一つじゃないとなれば、それも納得できる。

 その中で、俺はもっとも困難なルートに進もうとしている。

 絶対、最初から交渉に出ていた方が、治療薬入手の可能性が高かった感がある。



「端末くんは、俺が本当に吸血鬼ラベンダーを討伐できると思っているか?」


『上杉様であれば、それを成しうる力をお持ちであると考えます』


「……【十歩必殺】か」



 端末くんの力強い肯定で、俺もそれを思い浮かべずにはいられない。

 あれが『人類の脅威』だの『悪魔に類するもの』だのに該当するかは微妙なところだが、一つだけ分かったことはある。

 この階層の吸血蝶が全て配下であるのなら『軍勢の長』という条件には当てはまるはずだ。


 であるならば、相手の急所を見つけ出し、一撃を叩き込むことさえできれば、絶対に勝てない相手ではない。


 問題は。



「【十歩必殺】の必要CPは、444だぞ……」



 勝利条件が明白になったことで、俺に課せられた『戦う資格を得るための条件』すら明白になる。

 倒す手段がそれしかないのであれば、最大CPを444確保できない限り、絶対に勝てないことになる。


 ついでに、現在俺のパッシブスキルをフルで入れていた場合の最大CPは139だ。あと305も足りない。(なお悪臭は無視する)


 そして自慢ではないが、今持っているパッシブスキルを全部外して条件を満たしたところで、まともな戦闘は今の俺には難しいだろう。


 現状、はっきりした。

 俺にはレベルが圧倒的に足りていない。

 最低でもあと10はレベルを上げる必要があるだろう。



「レベリング。レベリングが必要だ」



 その必要性は認識していたつもりだったが、圧倒的なレベリングが必要不可欠となってしまった。

 もはや、命を大事にしながら安全なレベリングを探っている余裕すらなくなってしまった。

 なにせ、ラベンダーの元に辿り着かなければ、そもそも残り五日の命だ。



「ただ、会話の感じだと、もしかしたらいきなり戦闘にはならないかもしれない……いや、希望的観測が過ぎるか」



 なんとなく、相手は俺を積極的に殺しにくるようには思えなかった。

 だが、だからと言って殺されないとは全く思えない。

 現状では自衛すらできないだろうし、とにかく、レベルを上げないと土俵にすら上がれないのは確かだ。


 交渉は可能かもしれない。

 だが交渉とはお互いに益がある関係性で初めてなされるものだ。

 今の俺では、交渉の土俵にも上がれないだろう。

 だって、相手からすれば俺はただの『野ネズミ』なのだから。



「……やるしかない」



 覚悟を決めるしかない。

 もともと、可能ならそれくらいの期間で攻略したいと思ってはいたんだ。

 想定外で一日短くなったからなんだ。無理そうだからなんだ。


 あのクソダンジョン──人類試練に比べたらなんてことねえだろうが。

 六時間と比べたら、二十倍も時間があるんだから。



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