第90話 虹の魔術
槍の一撃を精霊刀で遮る。
刹那、七色に輝く魔力の奔流が噴き出した。
精霊刀を握る手から腕にかけて、皮膚が剥がれて血が蒸発していく。
「俺っちの虹魔術は無敵だ。すべての属性に有利が取れるから、攻防において隙がない。こんな風になァッ!」
七色騎士の槍が回転し、鮮やかな軌道で私の心臓を串刺しにした。
すかさず精霊刀で反撃したが、切っ先が鎧に食い込んで止まる。
そこからいくら力を込めても刃は進まない。
闇属性の腐蝕を流しても効果は表れなかった。
七色騎士は得意げに舌を出して笑う。
「無駄無駄。精霊の力だって効かねえよ。虹魔術の防御は完璧なんだ」
「じゃあ、オイラも試しやしょうかね」
いつの間にか動いていたバジルが、七色騎士の背中に手を当てる。
七色騎士が僅かに膝を曲げるも、すぐに体勢を持ち直した。
接触によって重力魔術を受けたはずなのに、平然と振り返って得意げに言う。
「学習しろって。誰も俺っちには勝てねえさ」
七色騎士が無造作に拳を振るう。
吹っ飛ばされたバジルは椅子とテーブルをひっくり返した後、壁に穴を開けて店外に消えてしまった。
かなりの威力だったが、まあ死にはしないだろう。
あいつのことだから紙一重のところで耐えていると思う。
(まあ、対策はだいたい分かったし、さっさと片付けるか)
槍が胸に刺さったまま、私が七色騎士に掴みかかる。
瞬時に殴られたが、構わず頭突きを繰り出しながら押し倒した。
抵抗してくる七色騎士を腕力で制圧する。
(単純な力勝負なら勝てそうだ)
ここまでの攻防から考えるに、虹魔術は他の属性を打ち破ることに秀でている。
一方で身体強化に用いる場合の出力はそこまで高くないようだった。
槍で心臓を貫かれた状態でも力負けする気がしなかった。
七色騎士を押さえたまま、私はギルドの外に向かって叫ぶ。
「おい、バジル! 早く戻ってこい!」
「へいへーい。少しくらい休ませてくださいよー」
億劫そうに嘆くバジルが室内に戻ってくる。
顔面に青痣があるが元気そうだ。
バジルは私の背中に触れると、重力魔術を施してきた。
瞬時に負荷が跳ね上がって全身を軋ませる。
私が重量が増すことで、その下にいる七色騎士も苦しんでいた。
虹魔術で魔術を弾かれるなら、間接的に負荷を押し付ければいい。
なんとも簡単な理屈だった。
七色騎士は吐血しながら必死に喚く。
「こ、降参っ! 降参だって! すまん、悪かった! 謝るから早く解除して――」
私の重みに耐え切れず、七色騎士が潰れて爆散した。




