第75話 雷神
「…………」
私は黒焦げの腕を見つめる。
すぐさま傷口が塞がり、綺麗な皮膚に包まれて回復した。
砕けた精霊刀も同様に修繕される。
私の再生力の前では、雷撃による負傷など些末なものであった。
一方、瞬間移動で間合いの外に回避しつつ、私の腕を炭化させたバートンは不満そうな顔だった。
彼は眉間に皺を寄せて唸る。
「まったく……ここまで話を聞いた上でまだ抵抗するのか。戦闘能力は一級だが、知能は人並み以下のようだね」
「生憎と育ちが悪いもんでな」
私は跳躍して蹴りを放つ。
バートンは瞬間移動でいきなり真横に現れると、私の顔に触れて雷撃を浴びせてきた。
脳が沸騰する感覚と共に視界が暗転する。
それでも私は止まらず、ほとんど本能的に精霊刀を振り回した。
確かな手応えを感じ、転がりながら起き上がる。
少し離れた場所にバートンが立っていた。
片腕の袖が裂けて出血している。
傷を一瞥したバートンは、傷を焼き固めてさっさと止血した。
特に痛がる素振りもないため、人体改造で痛覚を鈍らせているのかもしれない。
私は精霊刀を弄んで挑発する。
「おいおい。あれだけ自慢しておいて大したことないな。雷魔術の結界はどうした?」
「……君を傷付けないよう解除していたが、図に乗らせるだけだったね」
バートンの全身から膨大な魔力が迸る。
青白い光がパチパチと明滅して全身を覆い、魔力の浸透した肌や髪が若干透き通っていく。
身体がゆっくりと浮遊し、目が宝石のように輝いている。
バートン・エルスワーズという存在が、根底から変化しつつあった。
いや、これが真の姿なのかもしれない。
今までは力を抑制し、無理やり人間の姿に留まっていたのだろう。
自信満々な態度の正体は、この形態に由来しているに違いない。
電流を纏うバートンは、憐れみを込めた目で私を見つめる。
「仕方ない……適度に痛めつけねば理解できないようだね。丹念に心を折ってあげよう」
バートンの姿が霞み、次の瞬間には私の目の前にいた。
電流を纏う拳が私の胴体を貫いている。
爆発的な魔力が体内から私を焼き焦がしていく。
「儀式魔術により、私はこの身に雷神を宿した。術の出力は数十倍に上がっている」
バートンの拳が加速し、私を正面から滅多打ちにした。
骨や肉が弾けて炭化して血が蒸発する。
必死に振るおうとした精霊刀はどこにもなかった。
手放したか、それとも雷撃で全壊したのか。
「強すぎる魔術に耐えられるよう肉体も改造した。今では完璧に馴染んだよ」
嬉しそうなバートンの蹴りが私の首を捉える。
高速回転する視界。
千切れた頭部だけが宙を舞った。




