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殺戮令嬢リア・エルスワーズの華麗なる侵略史  作者: 結城 からく


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第5話 強靭な心

 全身を芯まで焼かれては、大量の水を注がれて溺れる。

 それを何度も何度も交互に繰り返す。

 とてつもない苦痛に挟まれながらも、私の意識が途切れることはない。

 常に発動している再生魔術がそれを許さなかった。


 じっと耐えていると、双子の魔術が唐突に止まった。

 破裂した目が再生したことで状況を理解する。

 私達の前にノルフが立っていた。

 ノルフは双子に告げる。


「ライン様、シェリー様。旦那様と魔術訓練の時間ですよ」


「ちぇっ、いいところだったのに……」


「仕方ないですわよ、お兄様。さあ、行きましょう」


 双子は渋々と従う。

 問題児である二人もノルフには逆らえないのだ。

 ノルフは立ち去る双子に一礼してみせた。


「お二人とも優秀な魔術師になれます。くれぐれも鍛錬を怠らず」


 私は服の燃えカスを手で払い落とす。

 ラインのせいでメイド服が台無しである。

 別に気に入っていたわけじゃないが、外で全裸になる趣味はない。

 そんなことを考えていると、ノルフが大きな布をかけてくれた。


「大丈夫ですか?」


「うん、平気。あいつらの魔術なんて効かないし」


「心身ともに強靭ですね」


「それが取り柄なんだ」


 私は布を羽織って立ち上がった。

 ノルフは静かに佇んでいる。

 なんとなく空気を読んで私は尋ねた。


「私にも用があんの?」


「奥様がお呼びです」


「……あー、いつものアレか」


 アレとはマーサ・エルスワーズによる虐待のことだ。

 双子の母だけあって、マーサはかなり残忍な性格をしている。

 気に食わないことがあると私を呼び出し、風魔術で切り刻むのだ。

 そこに筋の通った理由などなく、ただの憂さ晴らしだから性質が悪い。

 以前までは奴隷が犠牲になっていたらしい。

 今は死なない私が適任なので頻繁に呼ばれていた。


 私はマーサの部屋に向かいながらぼやく。


「今日はいつ解放されるかな」


「あの、一つお伺いしてもよろしいですか」


 ノルフが言いにくそうに切り出した。

 なんとも珍しい姿だ。

 いつも優雅で品のある感じだというのに。

 私は気になって足を止める。


「なんだよ」


「リアさんはここから抜け出そうと思わないのですか?」


 ノルフは真剣な顔で言った。

 そこから勢いよく話し続ける。


「加担している身で言えることではありませんが、エルスワーズ家は劣悪な環境です。貧民街での暮らしも過酷ですが、ここでの毎日と比べれば平穏でしょう」


「まあそうかも」


「あなたが望むのなら脱走できるように手配します。どこか遠くの地へ逃げれば自由になれるはずです」


 提案するノルフはやはり真剣そのものだった。

 冗談を言っている雰囲気ではない。

 私を騙したり、餌を見せて試しているわけではないようだ。


 私は腕を組んで考え込む。

 やがてノルフがこんなことを言った理由に気付いた。


「ひょっとして罪悪感ってやつか?」


「否定しません。あまりに非道な行為が続くものですから」


「じゃあ、あいつらを止めろよ」


「それはできません。忠義に背くことになります」


「使用人を勝手に逃がすのは裏切りじゃないのか?」


「そ、それは……」


 ノルフは言葉に詰まる。

 この優秀な執事にも色々と立場があるのは知っている。

 エルスワーズ家に表立って歯向かうことはできないが、こっそり手助けするのは可能なんだろう。

 最近の私の扱いを見て、良心とやらが痛んだのかもしれない。


 私はノルフの肩をバシバシと叩いて笑った。


「心配すんなよ。私は絶対に負けない。いつかあいつらを見返してやる」


「リアさん……」


「別にここの生活は悪くないんだ。食う物に困らないし、寝る場所もある。勉強も結構面白いしさ。だから意地悪されたくらいで逃げるかよ」


 これは私の本音だった。

 どこに行こうが完璧に満足できる居場所なんてない。

 だったら何を我慢して生きるかだ。


 そういったことを伝えると、ノルフは驚いた顔でぽかんとしていた。

 やがて深々と頭を下げてくる。


「申し訳ありません。あなたの器を見誤っておりました。とても強い心をお持ちですね」


「そういうあんたは甘いよな。悪徳貴族の執事とか向いてねえだろ」


「いやはや、返す言葉がありませんな」


 痛い所を突かれたはずなのに、ノルフはとても嬉しそうだった。

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