表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恒久の巫女   作者: 天哉
41/41

第41話 楽園の在処⑤

 何が起こったのか。

 そう考えるのに必死だった。

 舟の中で縮こまりながら、チュウギは考えていた。兄が助けてくれた事だけは分かるのだが、どうして襲撃したのか、それにどうして兄が指導者だったのか、それが理解出来なかった。

 だが、チュウギは、その事実を拒んでいる脳を何とか分からせようとしていたのかもしれない。と感じる所があった。

 そういう風に、舟に揺られながら、チュウギはずっとぐるぐる頭の中を巡らせていた。


 禍国に戻り、チュウギは荷を降ろすから、先に降りるように促されたので、その通りにした。すると、後ろではムツキの指示にあおられながら、舟に乗っていた人達は、次々と載せられていた袋を降ろしていった。

「あの袋…」

 あの袋には、人が入ったいる。

 チュウギは嫌でも思い出した。


『一人残らず捕らえろ!殺してでも構わん!!』

 あの時のムツキの声が木霊する。

 袋の中には死んだ人も、生きている人もいる。

 どうして、そんな事が容易く出来るのか。

 全く分からなかった。


「チュウギ。」

 ぽんと後ろかた肩を叩かれた。

「あ、兄貴…」

「どうした。ぼーっとして。」

「い、いや何でも…」

 考えていた事を聞いても、答えは島人への恨みと姫巫女への忠誠だろうと思い、有耶無耶にして返事をした。

「そうか。じゃあ、取り敢えずついてこられるか?」

「えっと、どこに?」

「試験場だ。」


 チュウギは息を呑んだ。

 試験場!

 あの忌々しい雰囲気を纏った場所。もう二度と行きたくないと思わせるあの場所に行くのか。と、チュウギは思った。

「わ、分かった兄貴…」

 チュウギは先を急ごうとするムツキの背を見ながら、駆け足でついて行った。


 クレーターのような大穴が見えてきた。

 やはり、そこには舟に同乗していた者達がそこにいた。

 次々と袋から人を取り出していく。生きている人はそこから逃げ出そうとしたが、禍人によってすぐに捕らえられてしまった。

「たっ、助けてくれっ!」

「いやああああ!!」

 悲痛な叫び声が頭に響く。


「皆、ここまで運んでくれてご苦労だった。」

 ムツキが前に出た。

「今日は死体の方を使おうと思う。だからそいつらは牢にでも入れておいてくれ。」

「了解した。」

 そう言われて、禍人は次々に生きている者を捕まえ、牢がある場所へと向かっていった。


「じゃあ、ここからはわたくしが。」

 と、ミミズや蛇みたいなニョロニョロとした手足を持った合成人間のような姿の禍人が前に出た。

「それでは、先日散ってしまった我が同胞の身体と魂をこの者に。」

 合成人間は、島人の死体を丁寧に持ち上げた。石で出来た台に、その死体を乗せ、次に、禍人の死体を持ってきた。

 だが、魂をこの者にと言ったが、どうやるのか。人は死ねば、その身体から魂が抜ける。魂が抜けた身体はただの置物同然のものなのに、ここにまだ魂があるというのか。


 だとしたら…この者は、果たして何者と言うべきなのだろうか。

 禍人として生まれ、禍人としての魂を持った者が、島人の肉体を持って生まれ変わる。それは本当に禍人なのだろうか。

 魂が禍人ならば島人ではなくなるのだろうか。

 定義は違えど、自分と似たような存在と言うべきなのだろうか。


「チュウギ?」

 ムツキに声を掛けられ、チュウギは我に返った。

「あ…えと、何?兄貴。」

「これから、禍人の身体の一部を島人に移植して、同調を図ろうと思っていたが、出来そうか?」

「…え?」

 チュウギは耳を疑った。

「流石に魂を入れたり、死体を気術でいじってみるというのは今のお前じゃ難しいだろうから、これなら大丈夫だろうと思ったが。」

「え、えちょっと兄貴待て!一体それって…」

 そう言いかけた時、目の前に一人の島人が横たわっていることに気が付いた。

「何をするっ!この畜生共!」

 男は喚いた。

 だが、その身を拘束されていて、抵抗や飛び付くことなんて出来やしなかった。よく男を見ると、所々大怪我を負っていた。

「まあ、落ち着け。お前の痛覚は他の奴の力で完全に遮断されている。」

「何が落ち着けだっ!?こんな状況で誰が落ち着けってンのか!?」

 わあわあと喚く男を、ムツキは仏頂面で見つめていた。

「よくもまぁ…そうギャンギャン吠える気がある。」

「るせえっ!!おい、そこの坊主!お前もなんだよ!何か言いやがれ!」

 チュウギにぎりっとした目を向け、離せと言わんばかりの強い言い方をした。

「う、えと…」

「チュウギ、お前は何も話さなくて良い。」

 さっと男とチュウギの前にムツキが出て、会話を妨げた。

 ムツキは自身の服の懐から、何か青紫色の紙のようなものを取り出した。

 一見、青紫色のそれは、紙と思ったのだが、よく見ると紙よりも厚みがあって、生き物のような質感があった。

「見ていろ。」

 ムツキは一言そう言うと、男の脚にそのものを乗せた。

 すると、ムツキは自身の手から、また煙を出した。今度は青い煙だった。

「チムジュン・ヒブイ。」

 その煙は、みるみるうちに、男の脚と紙のようなものは、一つになっていった。

 その間も、「男は何をする」「やめろ蛮族」等の罵詈雑言を浴びせていた。


「こんな感じだ。じゃあ、お前もやってみるか。」

 ムツキは新たに青紫色のものを、今度は腕へ乗せた。

「あ、ああ…」

 チュウギは、ムツキのようにやろうと固まった腕を何とか伸ばした。

 ムツキは、チュウギに耳打ちした。

「ゆっくりで良い。こいつの肌と俺が乗せた皮膚を繋ぎ合わせるようにすればいい。」

「…なっ!?」

 チュウギは、囁かれたその言葉に驚いた。

「いいからやれ。」

 ムツキに急かされて、チュウギは先程ムツキがやったように呪文を唱えた。

「っ…!!ぐあああああっ!!!」

 ムツキと同じようにやったのに、男は苦しみ始めた。

 その声に驚き、ビクッと身を引いてしまった。

「煙の力が強すぎだ。それだと火傷してしまって元も子もないぞ。」

 チュウギの手を優しく包んで、力の調整を行なってくれた。



 そういう所は優しいのに、どうしてあの時、残虐な事を平気で出来たのか。チュウギはムツキに対して疑念が生まれてしまった。


 ムツキの力を借りながら、チュウギは怪我があった所を全て青紫色のもので繫ぎ合わせた。

「疲れたか。」

「う…。」

 チュウギは初めて術を使ったので、少々疲れてしまった。

 しかも、こんな大怪我をした者に対して使ったから、尚更だ。

「仕方無い。俺もこの後予定があったから、今日はもう家に戻るか。」

 チュウギの目線に合わせて、ムツキが帰るように言ってくれた。


 ムツキは仲間に別れを告げた後、二人で帰路に着いた。



 家…屋敷に着くなり、その入り口には一人の少女が立っていた。

 見た目的に、チュウギと同い年ぐらいだろうか。ムツキと同じ、茶色の長い髪をツインテールにしている。

「ムツキか。思ったより早かったな。」

「只今帰りました。姫巫女、タマズサ様。」



 姫巫女、タマズサ。


 チュウギは驚いた。

 まさかこんな、自分と年が変わらない様に見える少女が、国で讃えられている『姫巫女様』だったとは思っていなかったからだ。



「ムツキ、その隣にいる少年は…」

 タマズサは、チュウギにその赤い目を向けた。

「ハッ。こちらがチュウギです。いつかちゃんとした時…チュウギが一人前の禍人となった時に紹介しようと思っていましたが。」

「よい。私は別に、そんなちっぽけな事は気にしない。」

 手を振り払う仕草をして、タマズサは淡々と答えた。

「それよりムツキ、もう私が呼んでいたおなごが来ているぞ。」

「分かりました。」

 ひとつ礼をすると、二人は扉の向こうへ行った。



「じゃあ、俺はここまで。チュウギ、後は一人で行けるな。」

「多分大丈夫だと思う。」

 ここ数日は家の中で生活していたので、どの部屋がどこにあるのか、広い屋敷なのだが、何となく把握していた。

「そうか…まっすぐ行けよ。それと、この部屋は今は決して開けるな。」

「今は?」

「そう。どうせ近々教えると思うが。」

 ムツキは一言告げると、部屋の向こうへ消えた。その後ろ姿をチュウギは取り残されたように感じながら見ていた。


 一体、この国で兄は何を執り行っているのか。そして、タマズサとの関係は一体何なのか。


 ムツキの事、これからどう接すれば良いのか、少しだけ分からなくなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ