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恒久の巫女   作者: 天哉
40/40

第40話 楽園の在処④

 もう、何日走り続けたのだろうか。

 ふと、そう頭に過った。


 あれから、チュウギは追っ手が来るかもしれないと恐れて、ただひたすらに走り続けていた。子供の脚でどれだけ差を付けられるのか、なるべく人目に付かない場所に行けば、追っ手を振り払えるかもしれない。それだけを考えながら走っていたが、もう限界を超えようとしていた。

 脚はもうおぼつかないようで、意識もかなり朦朧としている。


 もう駄目かもしれない。


 チュウギは悟った。

 だが、ここで捕まれば母が逃がしてくれた事も、願いもどうなってしまうのか安易に予想が出来た。


 ガッ

「あっ!」

 小石に躓いて、転んでしまった。

 ただコケた程度なら良かったものの、かなりふらついた状態だった為か、派手に転んでしまい、脚を捻ってしまった様だった。

 幸い、森の中だったので、人目に付く事はなかった。

「うっ…!」

 だが、脚がズキンと痛んで動けない。どうしたら良い。一体これからどうなってしまうんだ。それだけがぐるぐると頭の中で巡っていた。




「…お前か。」

 頭上から声が聞こえた。声からして、男性だろうか。

 太陽光がその人に当たって、完全に逆光となり、顔は良く見えなかった。

「だれ…?」

 チュウギはかすれた声で言った。

「お前を良く知る者だ。」

「俺を…?」

 チュウギは青ざめた。

 チュウギを知るとなれば、半分禍人である事を知っている事と同意義である。

 なら、この人はきっと追っ手だろう。


「恐れなくて良い。お前の様な者、そう簡単に殺さない。」

 その一言に、チュウギはそこはかとなく安心感を覚えた。

「来るか。俺と共に。」

 そう言って、その者はチュウギ向けて手を差し出した。

 チュウギは、その者の言葉への返答に迷いはなかった。

「いく…たの、む…」

 行く当てが無くなった今、頼れるのはこの人だけだと、直感した。

 チュウギは思わず手を取ったが、その瞬間気を失ってしまった。





「…全く、世話の焼ける弟になりそうだ。」

 ポツリと言葉がこぼれた。

 親父が亡くなる前に、俺には島人の血を継ぐ弟がいると教えてもらったが、まさかこのようなザマになっているとは思っていなかった。

 仕方ない。遺言だったからな。

 そう考えながら、弟を背負うと煙の姿へと変化し、禍国へ戻る道を辿った。





「うっ…」

 気を取り戻したチュウギは、目をぱしぱしと瞬きさせた。

 赤い色をした天井。

 今まで外にいたのに、どうして室内にいるのだろうか。しかも、ふかふかしたものに寝ていた。何故布団の中にいるのか。考えていたら、戸が開く音がした。音を聞いて、チュウギは起きた。その時、自分の服が変わっている事に気付いた。波の様な模様が美しい、金色の刺繍が施された禍国の服だ。そうか、今自分は禍国にいるのかと分かった。

「気付いたか。」

 そこには、あの時聴いた声の主が立っていた。それも、禍人の男だった。赤い瞳に枯れ葉の様な髪色をしていた。だが、目元を見ると、やや目つきがキツくて、自分とよく似ている様な気がした。

「は、はい…」

「そうか。それと、その脚も治療してやった。暫く安静にしろ。服もボロ雑巾みたいだったから着せ替えた。俺がガキの頃の物だが。」

「えっと…色々と助けてくれて有難うございます…」

 二人の間に少しの沈黙が流れた。

 その沈黙を、男が破った。

「驚くと思うが、俺はお前の兄だ。」

「…え?」

 チュウギは男…兄の言う通り驚いた。

「俺はムツキ。先程言った通りお前の兄、異母兄になる。」

「い、異母兄…?」

 信じられない。まさか自分に兄がいたなんて、思いもよらなかった。


「わた……俺は…チュウギ。その、兄って…」

「本当だ。俺達の親父がそう言い残していたからな。」

 言い残していた。

 つまり、父親は亡くなっているのか。心の何処かで、父に会ってみたかったという気持ちが生まれた。

「そ、そう…か…」

「そう肩を落とすな。」

 兄、ムツキは、チュウギのいるベッドに座った。

「まあ、さっき言った通り、数日は安静に、と言いたいがもう夜だ。俺はもうじき寝る。」

「夜…」

 もうそんなに時間が経っていたのかと、チュウギはふと思った。

「ちなみに、この部屋とその布団は俺のだ。お前、禍人の目じゃ無いしちびすけだし色々目離せんからここに置いておく。物は共同で使う。良いな。」

「え、あ!?ああ…」

 チュウギ的にも別に問題無いのだが、いきなり兄と言われた後に家族同然の扱いを受けて少々戸惑った。




 その後、二人は布団に入った。

 何日も眠れない状態が続いたというのもあったが、チュウギにとって久々の睡眠だった。ムツキの隣で、眠りに落ちた。



「…ッ!!」

 ガバッ!

 勢いよく、隣にいたチュウギが起きた。息がかなり荒くなっている。

 それらに反応して、ムツキも起きた。

「チュウギ…?おい、どうした!?」

 普段は冷静沈着なムツキも、やや慌てた。

「ふ……ふっ………がっ…げふっ…!」

「チュウギっ!!おい、どうした!」

 急に起きて、荒い呼吸を整えようとしたのに、突然咳き込んでどうしたのかと思い、チュウギの方を見てみると、吐瀉物で布団や服を汚していた。

「母様っ…母様……!」

 一通り出し終わった後、朦朧とした状態で、泣き出してしまった。

「チュウギっ、おいしっかりしろ!」

 ムツキはそう言って揺さぶると、チュウギは意識を取り戻した。

「はっ…ごめん…あに……」

「謝るな言うな。どうした。」

「母様がっ…し、死んで…死んでっ…!」

「チュウギ…」

 チュウギは、悪夢を観ていたのか。

 ムツキは察した。


「チュウギ、大丈夫だ。」

「あ、兄…様…」

 涙目になったチュウギを自分の胸に寄せた。

「夢魔など、見ずに済む時が来る。」

「ほん…と…?」

「ああ。間違いなくそうだ。だから、大丈夫だ。」

「そう…」

 途中で言いかけたが、チュウギは電池が切れた様に、気絶してしまった。





「これで良い。」

 ムツキはチュウギを見た。

 そうだ。ここにいれば良い。そうすれば、きっと母の事で苦しまずに済む。


 ただ一つ、そう願っていた。






 それから数日経った。

「様子はどうなんだ?」

「タマズサ様。」

 タマズサに呼び出されたので、ムツキはタマズサの部屋にいた。

「やはり、夢魔は高頻度…というより毎日のように見ているそうで。今はそう言った事があった時に、鎮静の薬を飲ませて無理矢理眠らすようにしています。」

 そう聞いて、タマズサはうんと一つ頷いた。

「眠れてないとはな。まあ良い。それよりも、いつ禍国の者として使うんだ、ムツキ。」

 ムツキの方を向き、タマズサは尋ねた。

「脚の方も治ってきました。だから早い内にまずは禍国中を周らせておこうと。」

「そう。じゃあ、あの目をどうにかしなければいけないな。折角兄様が奇跡的に遺した駒…このままやすやす生かしておく訳にはいけないからね…」

「承知しています。タマズサ様。」



「チュウギ、戻ったぞ。」

 部屋に戻ったムツキは、机の上で本を読んでいたチュウギに話し掛けた。

「兄貴。」

 チュウギは、本を閉じ、ムツキを見た。

「チュウギ、大丈夫か。」

「え、ああ、何とか…多分あと少しで完治すると思う…」

 ムツキが脚の方に目を向けたので、何に対しての心配か、チュウギは察した。

「外、出れそうか?」

「外!?」

 チュウギはムツキの提案に驚いた。

 脚の具合を聞いていたから、多分今日直ぐに出る…と言う訳では無さそうだが、それでもこの国の中を見て回れる事自体、大丈夫なのか不安に思った。そもそも、自分の目は、禍人との混血とは言うものの、赤くない。黒色の瞳だからだ。

「そうだ。だが、その前に一つやっておきたい事がある。お前の目だ。」

「やっぱりか…」

 指摘されてしまった。

 この目、外に出るなら一体どうすれば良いのか。やっぱり、大巫女の様に目を隠すしかないのだろうか。

「少し、強引なやり方になるが、我慢して欲しい。」

 ムツキはそう言うと、チュウギに向けて、手を広げた。

「一体何を…」

 と、言いかけたが、途端に強い頭痛に襲われた。

「ぐっ………あああああああっ!!!」

 痛い。

 気持ち悪い。

 何か引っ張り出す様な感覚がある。

 あまりの痛さに目を瞑っていたが、目を開くと、ムツキの掌から、時折紫色の雷のような光がチラチラ見える、赤黒い煙が発せられていた。

「チュウギ、お前の力も出してくれ。俺のやってることは、単なる手助けにしかならん。このまま俺だけの力でやると、お前の為にならん。」

「どう…やって…!!」

「引き寄せるんだ。お前の内側にある禍人の力を。」

 引き寄せる。

 手探りに禍人の力らしきものを辿った。



 禍々しいオーラを纏うような塊を見つけたような気がした。



 チュウギはそれを、ぐいっと引っ張ると、身体全体に、持っていたロープが急にブチッと切れたような感覚が過った。




「チュウギ、チュウギ。」

「うっ…」

 ムツキに呼びかけられて、意識を取り戻した。

「良かった。少し強引だったが、成功したようだな。」

 どういう事だ、と一瞬頭を過ったが、先の流れからまさかと思った。

 ムツキが小さな鏡を見せてくれたお陰で、それがよく分かった。

「赤い…」

「そうだ。これでお前は禍人と変わりない。」

「変わりない…か…」

 そうか。もうここでは禍人として生きても問題無いのか。


 目の色が変われば、生きられるのか。

 兄の様な力を離れれば、生きられるのか。


 島人であった頃に禁忌とされていた物がここでは受け入れる物、当たり前の物になっている。チュウギはこの時、ほんの少しだけそんな葛藤を覚えた。




「チュウギ、どうだ開けるぞ。」

 外へ初めて出る日が来た。

 取り敢えず国中をぐるりとムツキが案内してくれるそうだ。半分不安があったが、それでもこの国が実際どんな場所なのか知れることが半分楽しみにしていた所もあった。

「うん。」


 ガチャ。

 ギイイと重い音を響かせながら扉が開いた。


 そこは、澄み切った青空ではなく、重く黒々とした雲に、血の様な色をした赤い空。

 地は黒や濃い茶色をした土が広がっていた。

 何もかもが死んでしまったかのような風景だった。

「う…わ…」

 チュウギは、たった一言ようやく出た声でそう言った。


「じゃあ、ついて来い。」

 ムツキがチュウギの手を引いて、歩き始めた。

 ムツキの歩幅はチュウギより大きく、尚且つ手を引かれながら歩いているので、早歩きになりながらも、ムツキの後をついていった。


 集落に闘技場、練習場…

 どこを見ても、豊国では感じたことの無い禍々しさが立ち込めていた。

 行き交う人々も赤い目をギロリと光らせながらすれ違った。

 見た目も様々で、ムツキの様な人型以外にも、虫や狼に鳥、はたまた気など様々な姿をしていた。


「ここはっ!?」

 チュウギは自分の目を疑った。

 そこには、クレーターのような大穴が空いており、何人もの人がその穴にいた。

 いそいそと歩き回ったり、術を掛けたり、中には横たわっている者もいた。

 そして、その中では、呻いている者や、半分虫のような姿になっている者もいた。

「ここか。そうだな…試験場とでも言っておこう。」

「試験場!?」

「そうだ。試験場はここ以外にもあるが、いづれお前もここで色々世話になると思う。」

 吐き気を催しても仕方がない異常な空気に、チュウギは唖然とした。



「うっ…もう……」

 後ろから声が聞こえた。

 振り向くと、犬…狼と言って良い程の大きさの犬が三匹、かなりの量の荷物を背負って歩いていた。綺麗な薄荷色の毛並みをしていると、チュウギは思った。

 三匹の大犬、そのうちの一匹は体格が一回り…いや、二回り程小さな犬が倒れた。

「ほら、もう少しで着くからしっかりしなさい!」

「で、でも…!」

 ぐいっと乱暴に前足を咥えられて、無理矢理立たされた。だが、すぐにまた倒れてしまった。

 それを見て、一番大きな犬が舌打ちをした。

「ッチ。なんて貧弱なんだコイツは。本当に使えねぇな。」

 まるで汚物を見るような目で、小さな犬を見た。

「お前、姫巫女様直属にお仕えする立場と同等って仕事、分かってんのか?」

「は、はい…」

 弱々しく、小さな犬が答えた。

「分かってんならさっさと歩け、この木偶の坊!」

 大犬が思い切り小さな犬の頭を叩いた。

「っ…わかり…ましたよ。アタシ、行きます。」

 そう言って、犬は立ち上がった。







「これが…この国…」

 犬たちのやり取りを見て、チュウギは呟いた。

 全ての民は『姫巫女様の為に』という一心で行動している。

 大巫女も、国長も、姫巫女様の立場と似たような立ち位置だと思うが、この禍国の異様な有様の様に慕われてはいなかった。

 一心不乱に、自分の心を捨てて我が身を削り、主を支えている。

 それがどうしても理解出来なかった。

 そこまで、姫巫女は大きな存在だというのか。




 俺には…

 姫巫女様に、そうやって仕えられる事なんて多分出来ない。

 あの子犬の様に。

 ここにいる者は、姫巫女に心を、魂を縛られている。姫巫女によって握られている支配力を国ぐるみで広め、そして人々が持つ権利にして、人を統制している。

 そう、あの子犬を見て分かった。

 あの子犬も、自分と同じなのだろう。心を縛られていない人なんだ。自分じゃ出来ない事だって分かっている。


 チュウギは、犬たちがいた場所を見つめながら考えていた。




 数日経った早朝、ムツキがチュウギを起こしてきた。

「何、兄貴…」

 眠い目を擦りながら起きた。

 ここ数日、いつも眠る前にムツキが術を掛けたり薬を飲まされているお陰で、何とか眠ることが出来ている。

 眠ると言えるのか分からないが、それでも夢魔を見て起き上がるよりは遥かにマシだった。

「そんな事より、出掛けるから支度しろ。」

「えっ、わ、分かった兄貴。」


 着替えや朝ごはんをささっと済まし、二人は外へ出た。

 二人は海岸まで着くと、そこには既に十人程の人が集まっていた。

「いよう。ムツキのあんちゃんじゃないか。」

「おはよう。集合時間までかなり時間があるが、お前ら早いな。」

「何さ。ムツキ様直々の省令ならすぐに集まるよ。」

 ムツキは集まっていた禍人達に囲われて、話し始めた。

 これは一体何の集まりだろうか。と、チュウギは少し戸惑った。

 暫くして、人が全て集まったようなので、ムツキが人々の前に立った。

「早くから有難う。本日は、舟で隣国へ向かうとする。」


 おおおーっと歓声が沸き立つと同時に、何人か口々に話していた。

「あんな国、ちっぽけな村と変わりないしな。」

「それに辺境の地だ。人なんて少ししかいないから助けなんて呼ばれないしな。」


 どういう事だろうか。

 でも、とてつもなく嫌な予感がする。


 禍国はニライカナイ最西端の島国である。ジブノによってニライカナイ本土へ行き来が不便になるよう離島に建国されていた。だから、舟が移動手段である。

 用意された舟に乗り込み、皆移動を一斉に開始した。勿論、チュウギもムツキに連れられて一緒に行くことになった。

 揺れる舟の中、チュウギは窮屈そうに座っていた。

「酔ったか?」

 ムツキが聞いてきた。

「酔ってはいない…だけど…」

 ニライカナイ本土に行くことが怖い。

 これから行く国は、当たり前だが豊国から遥か彼方にある国で、未踏の地だ。だけど、豊国での出来事を引きずっている為、何をされるのか分からない。本当は、禍国に居ても良いのか若干不安に感じる所もあるが、兄であるムツキがいるから、そんな不安はあまり感じない事が大きかった。

「なら良い。」

 ぽんと一つ、チュウギの頭を撫でるようにすると、ムツキは顔を遠くへと向けた。

「見ていろ、これが島人への報復だ。」

 風に紛れて、ムツキがそう呟いた。



 チュウギ達の船が岸辺に着くと、ムツキが一番に舟から降りて、乗員に向けて大声で叫んだ。

「行け!一人残らず捕らえろ!殺してでも構わん!!」

 その声に反応するかのように、乗員は次々に舟から降りて、一目散に駆け出していった。

「な、何を…一体これは…?」

 チュウギが戸惑っていると、ムツキはチュウギの手を引いた。

「行くぞ。お前は見てるだけで良い。俺は指揮を執っているから、くれぐれも邪魔をするな。」

「し、指揮って何だ!?それに、捕らえるって一体ー」

 そう言いかけたが、ムツキは一言も喋ることなく、チュウギの手を引きながら、国の奥地へと向かっていった。


 ムツキに手を引かれながら後をついて行った。大きな兄の背や、先を行く禍人の男達を見ながら、森を奥へ奥へと進む。禍人対策としてなのか、先の尖った柵が次々と現れるが、それを見向きもせずに進んでいく。彼らにとって柵はただの置物同然の物のようだ。


 ワアアアアアア!!

 誰の声か分からない声が聞こえてきた。

 禍人か、それとも島人なのか。声だけなんて誰がどうだか分からない。それに、何が起こっているのかさえ分からない。でも、確実に良いことは起こっていない。チュウギはそう直感していた。


 森を抜けると、集落が現れた。

 家々が並び、畑や川が整備されて、大きな高床の倉庫や高見櫓が見えた。

 空は曇っていたのだが、晴れていればとても美しい所だろうと思わせる場所だ。

 一見ここまで聞くと、ただの平穏な場所に聞こえるのだが、異常な光景が広がっていた。


 先程まで共に移動していた禍人達が、島人を襲っていた。

 攫って大きな袋に入れたり、抵抗しようとした者を術で、あるいは武器で斬り捨てていった。

 親が斬られたのか、大人の死体に泣きつく子供。子供が攫われ、返せと喚いたものの、あっけなく炎に包まれた者。

「これ…一体…!!」

 チュウギはその光景を目の当たりにして、ただ立ち尽くすだけだった。何故兄が急に人を集めて隣国へ出掛けたのか分からなかったが、今、自分の兄が何をしているのか、はっきり分かってしまった。

 すると後ろからチュウギは強引に引っ張られた。がっしりとした腕に拘束され、首に刃物を当てられた。

「おい、兄ちゃん、このガキがどうなっても良いのか!」

 男に拘束され、身動きが取れない。それに下手に動けば首が落ちても可笑しくない。

「ッ!!」

 殺される…

 そう思った次の瞬間だった。

「ガアアアアアアアアアアア!!!!」

 男は、急に叫んだ。

 拘束が解かれ、チュウギは前のめりに倒れた。そして、後ろに振り向くと、男の顔全体にドス黒い煙に覆われていた。煙からは若干男の顔が見えたが、徐々に肉や骨が見え、目玉も溶けていった。

「無事か。」

 ムツキから声を掛けられ、その方向に首を向けると、平然とした表情のムツキがそこにいた。


 何故、そう平然としていられるのか、チュウギには理解出来なかった。

 生きていく上での経験、価値観もこんなに違う。こんな人、本当に自分の兄なのか分からなくなりそうだった。








『…お願いだから生きなさい。』

 頭の中でその言葉が延々と響いていた。

 自分を助ける為に殺されてしまった家族を想い、地下倉庫でひっそりと佇んでいる子供がいた。

「姉さん…」

 何度もこの村は禍人による襲撃があったのだが、国長は対応してくれなかった。『禍人と関わりたくない。』その一点で。

 家族なんてもう何度殺されてしまっただろうか。大家族だったのに、今日の襲撃でたった一人の残された家族である姉もいなくなってしまった。

「禍国…!」

 その国への憎しみがふつふつと湧いてきた。

 もうどうすればいいなんて決まった。

 禍国への復讐を必ず行う。

 固く結ばれた決意を胸に、子供は地下倉庫から出た。

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