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恒久の巫女   作者: 天哉
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第32話 誰が為に想う者達

「これで、傷口の処置は全部終わりました。だけど、この状態ならしばらくの間は安静にしていて下さい。戦闘も前線にも出してはいけませんし…そもそも戦わせないで下さいね。」

 庵の部屋から医者が出て来た。

 庵の状態は、取り敢えず処置が早く済み、今は寝ている状態だと言う。

 だが、掛けられた術からして、ただ単に『寝ている』のか『意識を失っている』のか分からないが。

「分かりました。それと、有難う御座いました。」

 丁寧にギユウ達が礼をした。

「うん。では、また何かあれば私のもとへ直ぐ来てください。私は一旦道具を片付けに部屋へ戻ります。終わったら周辺に置いてある桶や布を片付けますから。」

「分かりました。」

 医者が去ると、廊下で待機していた一同は早速部屋に入った。

 

 部屋の隅には、チレイやテイが持ってきた桶に入れた水や布が、血に染まっていた。

 畳んである着ていた衣類は斬られていたり、焦げていたりでボロボロになっており。もう着られないだろう。

 包帯が頭に巻かれた庵が眠っていた。首から下は真っ白い布団が掛かっていて見えないが、酷い怪我だったので、恐らくあちこちに包帯が巻かれているだろう。

 そして、当分起きないと言うのはほぼ確定した。

 だが、いつ起きるのかが正直心配だった。だだの大怪我なら何日かしたた起きそうなのだが、あの術…シラシ・ヒブイを受け、一応浄化出来たものの、まだ心臓に刺さっているから、本当に目を覚ますのか分からなかった。



 テイが、チュウギと義実に聞いた。

「それで、シラシ・ヒブイってどんな術か、解除方法を教えてくれないか。」

 チュウギはそれを聞いて、少し俯いた。

 同じく義実も、難しい顔をした。



 少しの沈黙の後、チュウギが口を開いた。

「シラシ・ヒブイは…亡者となった恨み持つ者の念を集めて放つ術だ。それに掛かった者は基本的に身体の外側から焼き殺していく術…だが今庵の心臓に刺さっていると言うことは…内側から徐々に侵食して行く可能性が高い。内側は見えないから今、一応浄化出来ているが完全ではないから、どうなっているか…いつ術が再起するか分からない…」

 と、チュウギは言葉を詰ませながら言った。自分が術を施したのには変わりないが、やはりこう説明するとなれば、何かがとても重くのしかかるような気がした。

 続いて義実も言った。

「こうも完全に浄化しきれずに心臓に深く刺さっている…ですが庵意外は、強力な浄化術は扱えないと聞いています。だから、それ以外で強力な術を解くにはこれが効果的だと思いました。術を完全に浄化させるには、『シティミィーのアマダイ』という草を燻して体内にその煙を侵入させて、術の柱となるものを取り除くしか無いのですが……」

 義実も言葉を詰まらせた。

 それから、少しの沈黙の後、再び話し始めたが、衝撃的な内容だった。

「解く時には若葉が一番効果的なのですが…その草は時期的に今は基本的に生えないんです。」


 部屋が嫌なほどしんと静まり返った。


 その途端、チレイが思わず部屋を飛び出した。

「あっ!チレイ!!」

 チレイの後を追う様にテイが部屋を出た。



「チレイ!!」

 走っていたチレイが、テイの声に気付いて足を止めた。

「テイちゃん…!」

「チレイ…」

 一体急にどうしたんだ。

 そう聞きたかったが、チレイの方から先に言ってくれるのを待った。多分、自分から聞き出しても言いにくいだろう。そして言いにくい事なら別に言わなくて良いという、テイなりの思いやりだった。

 チレイは、その場から立ち尽くしながら、テイの顔を何度もちらちらと見た。

「わた…私っ…!!」

 チレイがそう言い出した途端、両目から洪水のように涙が溢れてきた。

「思った…んです…!!もう、どうしたらいいんですか…!!」

 途切れ途切れに、チレイは大声で叫んだ。

「チレイ…!」

 テイはチレイを抱き締め、少しでも落ち着かせようとした。

「ばば様に、庵ちゃんに…大怪我をさせたのは禍人で…許せない…だけど、ばば様に大怪我させたのは禍人だけどれっきとした禍国育ちじゃないから操られてて…チュウギさんも半分は島人の血があるのは分かっているんです…!!でも全部…全部…!!」

 禍人のせいだ。

 そう言いたかった。

 でも、禍国が、禍人がこうなってしまった原因はジブノだけじゃない。寄り添って来なかった自分達の祖先のせいでもあるから、でも、大多数の島人と異なる力を持つ者を見るのは怖い。そうなってしまったのも分かっているから。


「チレイ…大丈夫だ。きっといい方向に進める道はある。庵も、この世も…」

 テイはチレイと自分にそう言い聞かせた。

 正直、どちらも不確定な未来だが、きっとそうなると信じるしか無かった。





「でも、もし手に入ったとしても奇跡的な何かが起こった感じかぁ…」

 目が覚めた信乃へ、仁は先程起こった事、説明された事を全て伝えた。

 若葉は基本的にこの時期に生えていないが、稀に季節外れで生えるものがあると言う。

「そう。そこが難しいんだよな…庵ちゃんは勿論助けたいし、だけどその、確率が…」

「そうね。で、その奇跡を信じてなのかどうか分からないけど…勿論あいつは行ったって事よね?」

 信乃が鋭い目で仁を見た。

 何を言いたいか一発で分かった仁はギクリとした。

「お、お察しの通りでございますおねえさま…」

 仁の言う通り。

 義実の説明のあの後、今度はチュウギが部屋から飛び出した。その後を追い、仁が問い出した。大体の予想はついていたが、やはり「僅かながらも可能性を信じたい。ただ側にいるだけじゃ駄目だ。庵には自分から償いを行いたい。」と言い残し、チュウギは城を去った。

「まぁ、どこまで自責すれば良いんだよ…」

「でも、そうやって自分が出来ることを見つけて行動に即移せるのが良い所だけど、仁君の言う通り、やっぱり責すぎよね…」

 信乃が一言言うと、またあの沈黙が訪れた。が、それを打ち破るように、仁が切り出した。

「あー、話変わるけどさ、あの時ぶっ倒れてびっくりしたからな。俺。」

「あっ、ご、ごめんね…?」

「もー!ま、良いけどさ。俺さ、信乃の事も結構心配してたんだぞ?二日間外出っぱなしだったしさ。体壊したのかって思ったから…」

「うう…」

 仁の言葉ひとつひとつに何も反論も出来ない。けど、こう想っていたと知り、少し嬉しくなった。

「でもありがと…」

「おうよ!でさ、信乃、何か欲しいモンあるか?俺買ってくるよ!」

「うん、それじゃお茶とか飲み物が欲しいかな。」










「うっ…」

 寝ている筈なのに、布団や枕…それどころか床がある感覚がない。空中に浮いているようだ。

「あっ、目が覚めた?起こしちゃったかな…?」

 庵は、その声を聞いてはっとした。

 勢いよく起きると、目の前にはとある人物が座っていた。

「アズ…!?」

 梓が目の前にいる、と言うことはまさか…と思ったが、梓がそれを察して、庵に説明した。

「死んでないよ。一時的にだけど、庵を死なせない…守る為に、身体の機能と大体の魂を切り離してるの。魂全部を切り離すと死んでるど同じだからね。」

「そういう事だったの…」

「それに、今死んだらどうすんのって事、いっぱいあるじゃない?仲間になる予定だった私の分もやってくれなきゃだしね!」

 梓が、自分を思っての行動だったと、言葉通り身を持って知った。

「アズ、有難う…!」

 と、庵は言ったが、梓は感謝されて喜んだり、謙遜したりせず、静かに後ろを振り向いた。

「お礼なら、あの人に言ってよ。私はその手伝いをしただけだから。」

 梓が向いた方を庵も見つめた。

 その時、初めて気が付いた。

 今、自分がどんな場所にいるか。


 辺りは星空のように、無数のキラキラしたものが輝く瑠璃色の空間だった。

 座っているというのに、床は無く、空間そのものに浮いているような感じがした。

 無重力というのはそんな感じなのかな、と庵は思った。

 でも、初めて来たのに、何処か懐かしい感覚があった。

 そう感じていると、前方から青い蝶がひらひらと舞うように飛んできた。やがて、庵達の直前に来ると、眩い光を放ち、徐々に蝶から人へ姿を変えた。

 ゆっくりと姿を変えた蝶は光が解かれ、顔が明らかになった。

 天女のような白い服を着た、黒髪の美しい女性だった。

「こんにちは…いえ、はじめましての方が良いかしら?」

 鈴の音のような綺麗な声をした女性は、庵に話し掛けた。

 はじめまして、と言われたが、庵は初めて会ったような気がしなかった。むしろ、久しぶりに会った感覚があった。

「ううん。こんにちはで大丈夫です…その、久しぶりです。サンニン様。」

「覚えていたんですか?」

「あっと…どっちかと言えばなんというか…」

「魂がそう言っている気がする。そうでしょう?」

 サンニンの一言に、庵は的を突かれた。

 確かに、庵自身としては会っていないが、フセとしていた頃に会った記憶がある。

「多分そうだと思います。あっ、助けてくれて有難うございます!」

「いいえ。でもその子が言う通り、こうして一時的に切り離しているだけで、またもとの身体に戻さないといけないから、長くは居られないわ。」

 やっぱり。

 一時的にと梓に言われていたが、そうだよね。と改めて思うしかなかった。

「だから、もし何かここでやりたい事があれば、私達にすぐ伝えて下さい。教えられる事は一通り話しますから。」

 優しい口調でサンニンは言った。


 あまり長く居られない…

 なら、時間いっぱい聞けそうなことを聞こう。梓はどうやって流れ着いたか、とか。そんな事を聞いても、多分フセが流れ着いた時と同じで、誰かの事を想っていたから来たのと同じだと思う。



 なら、サンニンに聴こう。

 彼女なら知ってるかもしれない。

 とある人の事を想い、この空間を創り出し、見守って来た人だからこそ。

「じゃあ、聞かせてください。」

「はい。何でしょう?」

「自分で見たり、遠くから見てきた貴女だからこそ聴きたいんです。禍国の事、そして…あの人の事を!お願いします…ゼヒさん!!」


「…私の記憶を遡ると言うことは、過酷な旅になりますよ?それでも、良いんですね…?」











 夜。

 誰もが寝静まった城内。そこに一人、ギユウは起きていた。

 いつ庵の身にに異変が起こっても、即対応出来るように、側にいたからだ。一応ギユウとテイの昼夜交代制で面倒を見ると言う事になっていて、テイは休み、ギユウが対応に当たっていた。

 ほんの少しでも術に効くかもしれないと言う事で、ティーダの玉の力を使い、浄化を試みていた。だが、自分達の浄化力は庵に大きく劣る為、そう簡単には効かない。自分達の力の無さに軽く落胆する。

「もっと…力があれば…」

 ギユウは一人、ぼそりと呟いた。



 あの時も同じだった。

 誰もが自分達に力があれば、フセを失わずに済んだと思っていた。

 だが、力が揃ってもこれじゃまた、全く同じ状況になってしまうのではないかと、内心、とても恐れていた。きっと、自分やチュウギだけではなく、テイも同じだろう。

 でも、その三人の中で一番恐れているのはやはりチュウギだろう。きっともう二度と自らの手で失いたくないと思っていた矢先だったから。



 ドンッ!ガシャーン!!


「な…!?」

 廊下から何かが激しく落ちる音が聞こえた。禍人か、はたまた泥棒かとギユウは驚きながら部屋を出た。

 大きな音がしたものの、夜も深くなった為か、廊下には計画メンバーは一人も出て来なかった。

 そこは流石に危機感持って欲しかったと、思いつつ、皆あの様な状態で今まで気が張っていたから仕方ないと思う所もあった。音がした場所へ行ってみることにした。が、廊下を歩き始めて僅か数分。すぐその場所を突き止めた。

 図書室だ。


 すぐに部屋に入り、ギユウは辺りを見渡した。

 部屋の奥でろうそく特有のオレンジ色の優しい明かりが灯っていた。

 その明かりの場所へ行くと、人が倒れていた。しかも、本の下敷きになっていた。

 ギユウは慌てて本をどかした。

 禍人だろうが泥棒だろうが、取り敢えずこの状態は早く助けなくてはいけない。


 そして、ある程度本をどかすと、ギユウは目を疑った。

「なっ…!」

 本の下から現れた人物は、なんとチュウギだった。

「うっ…ギ、ユウ…」

「お前っ!?」

「驚かせてすまん。本を取ろうとしたら、かなり硬くてな…取り出そうとしたら他も一緒に飛び出して…」

 いつの間に城に戻ったのかと、聞きたかったが、それより何故こんな場所にいるのか。ギユウは聞いた。


「何でここにいるんだ?」

 起き上がったチュウギは、ゆっくり答えた。

「…手当たり次第地形を読み、何処か生えていそうな場所を探していたが、何も見つからない。だからもう一度、一から調べ直そうと思っただけだ。」

「そう…か。」

 見つけられるのは奇跡的な確率と言われたのに、そこまでやり込める事に、ギユウは何とも言えなくなった。

 自分はただ、庵の側にいて、そのほとんどが力無く何事も無いか見ているだけ、それと比べればチュウギのやってることは呆れるとも取れるし、償いと庵を救う使命を果たそうとしていて、感心出来るとも取れる部分があった。

 チュウギは何冊か手にとってふらりと立ち上がり、本を片付け始めた。

「待て、俺もやる。」

「…悪いな。」

 そして散らばった本を片付けようと二人で本を床から拾い上げ、棚に戻した。


 明かりの色合いで気付きにくかったが、明らかに顔色がおかしい。

 本を持ち、また一人机に戻って調べ始めようとしたので、それを引き止めた。もしかしたら何か出来るかもしれないと、思ったからだ。

「待てチュウギ…」

 ギユウは、自分の意志を伝え、話を聞くためにチュウギの手を取った。

 が、その手を取ってギユウはハッとした。


 熱い。


 もしかして、庵を第一優先にして、無理をしてずっと探したりしていたのかと、ギユウは勘付いた。

「お前っ…!こんな事一人でやってたら本当に身が持たないぞ!!それでも良いのか!?」

 今まで話そうと考えていた事を放棄し、ギユウはチュウギに強く言った。

 だが、チュウギの返答は「それでも良い」と衝撃的な一言だった。

「何故…」

「俺は庵の側にいる資格なんて無い。だから、別に壊れたって良い。その代わり、彼女が生きていれば俺はそれで良いんだって、気付いたからだ。」





 その言葉、本当に庵の前で言えるのか?

 本当に心からそう願っているのか?

 庵は、共に生きて欲しいと願いながら戦っていた。なのにそれは無いじゃないかとギユウは沸々と煮え切るような想いになった。

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