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第一部 第十三章 約束

 朝方だろうか?


 酷い靄で前が見えないような状態で、皆がうつらうつらし始めた。


 雄二は最悪で、すでに寝ているようだ。


 まあ、でもこいつの場合、相手が居る時は凄い殺気立って起きてたが、相手が引いた雰囲気になったら寝た。


 ある意味鉱山とかで使うカナリヤみたいなもので、やばそうな相手がいると目が覚めるだろうから便利だ。


 酷い霧の中から囁き声がする。


 ブツブツ何か言っている。


「ち、ちょっと何か言ってるよ? 」


 由宇が囁いてきた。


 二人で雄二を見た。


「やばいんでは無いのかな? 」


 由宇が首を傾げた。


「……か……いど……」


 何かこちらに呼びかけている感じだ。


 何だ?


 一体?


 俺と由宇が再度雄二を見た。


 起きてない。


 なんなんだ?


「に、かいどう……ニカイ……ドウ……」


 今度はちゃんと聞こえて来た。


「ちょっと? 」


 由宇が俺を見た。


「ああ、うちの名前を呼んでいる……」


 俺が頷いた。


「も…どって……来たのだな……」


 俺が鉈を握りしめた。

 

 雄二は起きないので、悪意はなさそうだが……。


「に、かいどう……やくそく……」


 約束?


「やくそく……を……果たせ……」


「は? 」


 約束だと?


「ほら、また、何か約束したのに忘れてたんでしょ」


 由宇が小声で責めるように囁く。


「いや、俺じゃねーから」


 俺が愚痴るように答えた。


 約束と言っても、こいつがアピールする誕生日を無視してるだけだ。


 自分は何もしないくせに、ブランド物のカタログとか渡してくるから雄二とブチ切れてたんだ。


 本人曰く、いつもお世話になっている人にお返しやプレゼントするのは常識だそうだ。


 お前のは恐喝なんだよ。


「やくそく……を果たさ……ない……から……動き……出した……のだぞ……」


 そう誰かが霧の中で囁く。


「本気……で……動き……出した……ら……誰……にもとめ……られぬ……」


 それが本当に困り果てているような声音で呟く。


「それ……は……お前……にしか……出来ない……のだ……」


 俺と由宇は完全に黙り込んでいた。


「たの……む……たの…む」


 その呟きは最後は必死だった。


 そして、去っていく気配がする。


 一体、何だ?


「ちょっと、ちょっと、どういう事? 」


 由宇が聞いてくる。


「知らん。二階堂家の伝承なんて聞いたこと無いし。爺さんなら知ってるかもしれんけど、帰らないと分かんないな」


 俺が由宇に答えた。


 恐らくは先祖がした約束なのだろう。


 だけど、そんな話知らんわ。


 困ったもんである。


 


 

 

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