第一章27 フリーテ編 VSキマイラ
お待たせしました!!!
キマイラの足に怪我を負わせたとは言えど、大型の魔物だということもあってその動きは簡単には止まりそうにもなかった。今の所それと言って目立った行動はないものの、どのような行動をしてくるかわからないところが怖い。だからこそ動きが少しだけ慎重になるし、突っ込みづらい。それは春香や友恵も感じているようで、うまく魔物との距離を詰めることが出来ていない。それに何よりもこの状況でキーちゃんをどうやって救出するか紅蓮、今はそれが大きな課題だった。相手はおそらく召喚士。召喚士は契約した魔物や精霊を召喚すると身動きが取れなくなる。それが大きな弱点ではあるのだが、召喚獣を召喚している間は召喚士の周囲に召喚獣の強さに応じたシールドが展開される。おそらく簡単にはあのシールドは割れない。だからいかにキマイラを倒し、即座にキーちゃんを救出することが出来るかだ。キマイラの前足での攻撃を回避しながら、全体を見渡す。辺りには何もない。この状況を突破する光が見えそうなものは何もない。鳥かごに閉じ込められた鳥のような感覚だ。おそらく、今の俺たち6人の力を合わせれば勝てる相手なのは間違いない。だが、その手段があっても、この場所がそうさせてくれない。そう動くことを制限されている。
ならどう動く!考えろ、俺!!
今までにこんな状況何度も乗り越えてきただろう!!
生きて前に進んだだろう!!
それが、今回もできないとは言わせない!!
自分が、自分であるためにも!!
その時、ふと銀狼と特訓しているときの言葉を思い出した。
「……おまえ、左利きじゃないだろう?どうして左手で刀を握っている」
俺の動きに違和感を感じたのか、訓練を始めてすぐにそこを指摘された。
「…まぁ、わけあって右肩が上がらなくなっちゃって……それで今は左手で刀を振るっているんです」
「ふーん……使いづらくないか?」
「まぁ、そうですけど……」
「……一応右での特訓もしとくか?」
「どうしてそうなるんですか」
「だって、もし左手が使えなくなったらお前はその不完全な右肩で刀を使わなくちゃいけなくなるだろう?何より、刀は引いて切る武器。右腕が使えるように特訓しておくのは悪い話じゃない」
「……具体的に何をするんですか?」
「そうだな……。試しに空からの下降攻撃でも練習してみるか?」
……空。
はっと空を見る。住宅街に囲まれて表よりも光が入り込んでいないから、てっきり上は塞がっているものだと思っていたが、そう言うわけでもないらしい。
茜色に染まった空が見える。
……やってみる価値はあるかもしれない。
だが、それをこいつが許してくれるかどうかだな。
視線をすぐにキマイラへと戻し、再び刀を構える。
獰猛な獣の顔は、こちらを見逃さないと言わんばかりに鋭い眼光で睨みつけている。前足は傷つけていたが、もうほとんど完治してしまっている。これ以上時間をかけると、こちらが不利になりかねない。有利に動ける今の内に動き出さなければ。
「春香!!こいつの気をずっと引くことって出来るか!?」
「私に一人で死ねってか!?」
「そう言う事じゃ……ない!!」
会話の最中にもキマイラの激しい攻撃は増していく。地面はえぐれ、家々は破壊され朽ちていく。このままだと、上空へ向かうための壁がなくなってしまう。
「上から攻撃を仕掛けたいんだ!!」
「馬鹿じゃないの!!?」
「お前しか頼める人がいねぇんだよ!!」
そうこう話している間にも、キマイラの攻撃はより激しい物へとなっていく。もう足場は整っておらず、床がいつ抜けてもおかしくはないほどに穴ぼことなっている。この状況で頭義流を使っていくのは無理だし、このままだと撤退を余儀なくされる。そうなれば本末転倒だ。だから、今出来るこの時に挑んでおきたい。
「春香!!頼む!!」
「……ああ!!もう!!わかったわよ!!的になってやろうじゃない!!絶対成功させなさいよ!!友恵!!手伝って!!」
なんだかんだ言いながらも、俺の考えに春香は了承してくれた。四の五の言ってる暇はないと考えたんだろう。なら俺も早く実行しなければ。
「葵!!」
「いいよ!任せて!!」
目配せと、その短い言葉のやり取りが交わされると俺は今にも崩れ落ちそうな壁に向かって走り出した。目指すのは空、その一点だけ。葵たちを信じて俺は壁を蹴った。初めにこの場所にたどり着いた時のようにこの場所はもう狭くはなく、ある程度広くなってしまった。そのため壁一枚一枚との距離が遠く、ましてや直線状に上がることもできない。だから壁を蹴って上がっていくしかない。ここにきて、個性がギアでよかったと思いながら壁を駆けあがっていく。春香や友恵は俺に視線が移らないようにと動きにくい足場で何とか攻撃を受けてくれている。
これなら上にたどり着けるかと思っていた矢先、今まで猛威を振るってこなかったものが猛威を振るってきた。
それは予想していなかった尻尾からの魔法攻撃。レーザーのようなものとファイア―ボールの複合攻撃が俺を襲った。今まで攻撃という攻撃をしてこなかっただけに全く警戒していなかったが、それはただこいつが本気を出していなかったというだけだ。虚を突かれた俺は、レーザーは回避したものの複数飛んできたファ―アーボールに対処することが出来ず攻撃を喰らった。
体勢を崩した俺は壁を蹴ることが出来ず、地面に向かってただ一直線に落下していった。
「ひろ君!!」
「ひろ!!」
葵や春香の声が真っ先に聞こえた。だがこの状況どうしようもない。重力に逆らえることのできる人間なんていない。俺の身体はそのまま地面に叩きつけられる……はずだった。
「しっかりしなさい!!アンポンタン!!!」
横から誰かに抱えられるように俺の体は移動していた。ある程度のダメージは覚悟していたから、そのあまりにも意外な手助けに俺は驚きを隠せなかった。
「サーシャ!!」
「作戦があるんでしょう!!無謀にも突っ込んで戦いを始めたのならその責任は果たしなさい!!」
そう言いながらサーシャは俺を上に向かって放り投げた後、爆破系クオーツを使って俺がさらに上に行けるようにサポートしてくれた。爆風による熱で肌がひりひりするほど痛いが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。回復もせずに俺は上を目指す。身体が悲鳴を上げているのが分かる。正直限界は近いだろう。だけど止まれない。止まるわけにはいかない。下で気を引いていくれているみんなの為にも………!!
これで!!終わらせる!!!
空に出た。
太陽はもうすぐ沈もうとしていて、月が空に登ってきている。これが本当に最初で最後のチャンスだと思い知らされる。
決めなければならない。
何としてでも。
「ああああああああああああああ!!!!!」
この一撃に!今の全力を込める!!
刀を右手に持ち替えて上空から、一気に地面に向かって落下する。
狙うはその首ただ一つ。
「いいか?上空からの下降攻撃は高さがあるほど威力は増すが、空気抵抗を受けやすくなる。だから時折体をひねらせてみろ。さらに加速して面白いことになるぞ?」
「……それ、科学的根拠とかあるんですか?」
「ない」
「えぇ……」
自然と身体は動いていた。理屈なんて知るものか。今は!!あの人の言葉を信じて!!みんなの事を信じて!!この一撃を!!!
「終わりだあああああああああ!!!!」
勢いの増したその一撃が、キマイラの首を捉えた。あまりにもあっけなく、その首は俺の刀と共に地面へと叩きつけられた。
「友恵ええええええええ!!!」
俺が叫ぶと同時に、キマイラを召喚した召喚士の周囲に展開されていたシールドが粉々に砕ける。
それを見て戦っていた友恵が、一直線にキーの元へ向かって走り出した。
召喚士は体勢を崩していて、すぐには友恵に反応できそうにもない。
誰もがキーちゃんの救出に成功したと思った。
友恵が何者かに斬られた。
キーちゃんを抱えてすぐに背後から斬撃を受けていた。
目の前で起こった突然の出来事に、誰も思考がおいつかなかった。
友恵を斬りつけたそいつは、ただただ冷たい目線を友恵に向けていた。
「うわあああああぁぁぁ!!!?くるなぁぁあああああ!!」
キマイラを召喚した男がそいつを見て後退りながら叫んだ。
「俺の代わりなら準備した!!あの子娘も召喚士だ!!だから!!あっちを殺せよ!!」
恐怖に支配されながら、そいつはただ突然現れた何者かに必死に訴える。
だがそいつは聞く耳を持っていなかった。
キーちゃんをさらった召喚士は、そいつの持っていた大剣で切り殺された。
何がどうしてこうなったのかよくわからない。あいつは何者だ、どうして突然現れた、なぜあの召喚士を殺した。
何も理解できず動くことのできない俺たちを置いて、そいつは瀕死状態の友恵に近づくと………
抱えていたキーちゃんごと、その大剣で刺し殺した。
”ストップ”
世界が止まった。誰も動いていない。それなのに俺は意識があった。
身体は全く動かない。ただ、止まった世界を見せられている。
「…こうなるとは思っていませんでした。そうは思いませんか?洋一さん」
そんな世界で背後から誰かに話しかけれられた。もちろん振り返ることなんてできない。
「選択を間違えるということは、すなわち仲間の、自身の死を意味します。ですから、常に最善の選択肢を選び取らなければなりません」
そう言いながら、少女は俺の視界の中に入ってきた。
その少女は……あの時、情報をくれた少女と共にいた少女だった。
「大丈夫。全て、何もかもがなかったことになる。だから心配しないでください」
優しくその少女はほほ笑むと、俺に背を向けた。
何かが始まる。それだけはわかった。
「それでは……、やり直しましょう」
”リスタート”
キーを助けに行った友恵を何者かが襲った。その大剣が友恵に牙をむこうとしたその瞬間、その間に一人の少女が割り込んだ。
「……なんっとかっ!!間に合いました!!」
その少女は、あの時情報をくれた少女と一緒にお茶をしていた少女だった。
「うわああああああ!!?」
キマイラを召喚した召喚士は、突如現れたその何者かを見て叫びながら後ずさった。
突然現れた2人の存在に、誰もが固まった。
「早くっ!!その子を連れて逃げてください!!」
その少女は、突如現れた何者かの攻撃を刀で受け止めながら、背後にいた友恵に逃げるように促した。
その声に応えるように、友恵は急いでキーちゃんを抱えるとすぐにその場から離れ、葵たちの方へと走っていった。それを見て、その少女は何者かの攻撃を弾くと、何者かの懐に潜り込み、刀を下から振り上げて、何者かの体勢を崩した。
だが、そいつはすぐに態勢を立て直すと一気に少女との距離を詰めその大剣を振りかざした。
少女は何とかその攻撃を防ごうとしたが、勢いと大剣の重さに押し切られその斬撃を喰らってしまった。
少女は苦しい表情を浮かべ、その場に両ひざをついた。
それでも、少女はその何者かを見ていた。
すぐに助けに入りたい。だけど体が激痛で動かない。魔法か何かで支援してやりたいが、あんな状況に割り込んだら何が起こるかわからない。どうにかしたいのに、どうにもできない。ただ、みることしかできない。
そして、そいつが少女に向かってその大剣を今一度振りかざそうとした。
その時だった。
一閃の光がその間に割って入った。
「……よく耐えた、史奈。あとは任せろ」
その人物は、俺たちも良く知る人物で、光が届かないこの裏路地の中でもその銀髪は美しく輝いていた。
「ヒーロー参上っ!!てな。さて……俺の仲間を怪我させたその代償は重いぜ?」
さっそうとその場に現れた銀狼は、そいつの攻撃を受け止め、それをはじき返しながら、いつもよりも低い声でその刃を何者かに向けながらこういった。
「なぁ…召喚士殺し」
そう言った銀狼の目は、出会った今までの中で一番鋭いものだった。
銀狼に召喚士殺しと呼ばれた何者かは、その言葉に何も答えなかった。
その代わりに、ぼそぼそと何かをつぶやくと、そいつの足元に魔法陣が展開され、魔法陣と共にそいつは姿を消した。
当たりが静寂に包まれた。
「………もう大丈夫だ」
優しい銀狼の言葉が俺たちにかけられた。
「お疲れ様。しばらく休んでな。そしたら怪我も何もかも治っているから」
銀狼はそう言って俺たちに何かの呪文をかけた。
途端に保っていた意識がだんだんと遠くなっていく。
「時間、か………ここでお別れだ。また会おう。洋一」
意識が遠のいていく中で銀狼のその言葉が頭に響いた。
そして俺はそのまま暗い意識の底に沈んでいった。




