第一章25 フリーテ編 曖昧
ノマスさんの所についてすぐ聞かされた言葉はあまりにも重たいことだった。
召喚士殺しが現れた。考えられることはいくつかある。1つ、魔女の森で逃がしたジャルを殺そうとした奴が召喚士殺しである場合。だが、これは召喚士のみを殺すという点と矛盾しているため、おそらく違うと思われる。ということは……
「……最悪、この街には殺し屋が2人はいる可能性がある…?」
「その通りです」
俺の言葉を強く肯定したノマスさんは、普段とは違い少し硬めの顔でさらに話を進めた。
「大会を一週間前に控えているところ悪いのですが、今までに何かしらそう言った情報を手に入れたりはしませんでしたか?」
「……いえ、とくには…何も…」
ここに来てから一週間ほどかなり町の人との交流も増え、それなり召喚士殺しや、違和感がないかなどの情報を集めてはいたのだが、そう言った情報は全く出てこず、出てくる情報と言えば大会の話ばかりだった。
「そうですか…」
ノマスさんは少し残念そうな顔をしたが、再びまた少し抜けたいつもの顔に戻って、「また何かあったらお伝えします。洋一さん方も何かわかりましたら我々に連絡を」
そう言ってまた指パッチンで俺たちを簡単に拠点から外へと追い出した。何なんだあの人は。話が終わったら人を外に出さなきゃ都合でも悪いところでもあるのか。そんなことを思いもしたが、俺たちの相手をしている暇もないくらい忙しいんだろう。きっとそうだ。俺の中でそういうことにしておいた。
「まぁ何かわかったらここに来ようよ」
葵の提案に俺たちはうなずくと、最近日常になり始めた今日の依頼確認と何を特訓するのかのメニューを決めてから街の外へ向かった。
魔物の討伐や採取の依頼を終えて、軍の拠点でその報告と清算をしているところだった。この場所に初めて案内してくれた友恵という少女が、必死な形相で軍拠点に飛び込んできた。その顔からは今までにない焦りを感じ取れるほど、友恵と呼ばれた少女の顔はひどいものだった。
彼女は拠点に飛び込んでくるやいなや、真っ先に春香の場所へとすっ飛んでいってその肩をわしづかみにし揺さぶりながら
「ねぇ、キーちゃんを知らない!?」
彼女の必死な懇願に春香も顔を強ばらせる。何かあったのは間違いなかった。
春香が友恵をなだめながら、何があったのかを尋ねる。だが友恵はパニックになっているのか、春香の問いにキーちゃんがキーちゃんがと訴えるばかりだった。様子から察するに、このキーちゃんと言う子に何かあったのは間違いない。おそらく、この街に来た時に俺の腹に飛び乗ってきた小さな子供だろう。ここは表通りの人通りがとても多いからその集団の中を歩く最中ではぐれたのだろうか。考えられることはそれくらいしか俺には思い浮かばない。だがまぁ人手は必要だろう。丁度今日やることも終わった事だし、それに何よりも今日ノマスさんから聞いた召喚士殺しのこともある。お節介かもしれないが、一応協力を申し出てみようか。
そう思っていたところ、俺よりも葵がすぐに行動に移しており、春香と友恵のところに行くとことの詳細を詳しく尋ねていた。
同性だからなのか、女性という生き物なのだからか分からないが、葵はすぐに友恵と打ち解けて事の詳細を聞いているようだった。相変わらずすごい行動力だなと感心しながら、葵の方に俺たちも向かった。
ざっくりと簡単に言えば、キーちゃんと友恵がはぐれたということだった。ただ、普通にはぐれたというわけではなく、手をつないで歩いていたはずなのに気が付いたらいなかったようなのだ。何とも不思議な話だ。
「とりあえず、手分けして探してみたほうが良いんじゃないのか?考えるよりも今は聞きこみしたり探しに行った方が効率良いと思うぞ。そこらへんに暇そうにしてる男たちがいるんだから、使えばいいじゃないか」
と、いうわけでドラゴンナイツ騎士団総出で行方の分からなくなったキーちゃんの捜索が始まった。と言ってもこの街の大きさに加えて小さな子供を一人探し出すなんて簡単なことじゃない。それに、友恵の言い方からするに、おそらくはぐれた場所付近にいるとはあまり考えづらかった。大方予想は出来ているがキーちゃんは誘拐されたんだろう。そう考えるのが一番しっくりくる。……でも、なんであんな小さな子供を?そこが疑問だった。まぁ今は変なこと考えずに俺たちも聞き込みや目撃情報を洗ってみよう。
そうやって聞き込みを続けていくうちに、ある一つの情報を得ることが出来た。それは俺が話しかけた少女2人組からの情報だった。
「……そう言えば、変なフード被った人があそこの裏路地に入っていくのを見たよ。確か…1時間くらい前かな?」
「…あなた、お茶してるのになんでそんなに周囲に気を配っているんですか?」
2人の少女の内、1人の少女は周囲を見ていた少女に呆れているようだった。そして俺を見ながら、なんで今話しかけてきたんですか?というような視線を送られた。その視線が痛い。今回の件については、俺の方が完全に悪いので謝罪をするしかない。そうして頭を下げると、ため息をつきながらもその少女は許してくれた。情報量として、彼女たちのお茶の料金を肩代わりしてからその子らと別れ、その情報を伝えるべく俺は急いでドラゴンナイツ騎士団へと向かった。
俺が情報を手に入れたと知らせると、ドラゴンナイツの騎士団はぞろぞろと戻ってきた。その中でも特に友恵の速さは尋常じゃなかった。そんな今にも飛び出してしまいそうな友恵を諫めながら、葵、春香、ジャル、サーシャが集まってから手に入れた情報をもとに、これからどう行動すればいいのかを話し合った。
「女の子たちの言葉を信じるとすると、その裏路地に入ったって言ったのよね?」
「まぁな。…なんか違和感でもあるのか?春香」
「………普通そんなピンポイントでその光景が見れるものなのかなって思ってさ。だって、休憩中でしょ?それに、友人がいたのならなおさら、外に目は向けないはず」
…確かに言われてみればそうだ。一人で休んでいれば休憩中に外の景色を眺めることもあるかもしれないが、情報を教えてくれた彼女の目の前には友人がいた。普通なら外ではなく、その友人の方に視線が集まり外の景色など目に入らないはずだ。それが、視界に入っているということは……
「…外に視線を向けるべき理由があった?」
「その可能性も視野に入れてみてもいいと思う」
「えっと……話が読めないんですけど……どういうことなんですか?」
俺たちの会話で話が分からなかったのか、ジャルが俺たちの会話に入ってきた。だがそれを横にいたサーシャがわき腹を殴って黙らせた。
「なんで……殴るんです…か…」
「……貴方以外の人は皆理解できてるからです」
「……と……いうと……?」
「手っ取り早く言うのなら春ちゃんやひろ君が言いたいのは、その情報を教えてくれた子がキーちゃんを連れ去った子なんじゃないかなって事だよ。ジャルさん」
サーシャに殴られた腹を抱えながら悶えているジャルに、葵が分かりやすく情報を伝えてくれた。そこでようやくジャルは気が付いたらしいのか納得の表情を浮かべていた。
「でもこれはあくまで可能性の話。本当にその子がフードをかぶった人を見たのかもしれない。そこは行ってみないと分からないわね」
「だから、直接行って確かめるしかないわけだが……なぁ、銀狼はどう思う?」
何か意見が欲しくてそう言った事態に対応できそうな銀狼に意見を求めた。
だが、彼からの意見はなかった。
というか、そもそもそこに彼はいなかった。
………あれ?銀狼?
周囲を見渡してみる。全身がほとんど銀色の服装で統一されている彼がこの場所に居れば目立つのは必然の事だ。だが、彼の事を見つけることはできない。
俺以外の皆も何か違和感を感じているのか、困惑の表情を浮かべている。
朝は確実にいたはずだ。…いつからはぐれたんだ。
……いったいいつから……。
「ひろ君。銀狼さんの事は後にして、今は動こう。キーちゃんが心配だよ」
困惑する俺に葵が少し強めにそう言った。優先事項はそれじゃないでしょと言われているようだった。
「あ、あぁ、そうだな」
そうだ。今は少しでもこの場所にとどまっているわけにはいかない。
「行こう。キーちゃんを助けに」
銀狼の事は後からでも探せる。もしかしたらまだキーちゃん探しから帰ってきていないだけかもしれない。だから俺たちはまずやれるべきことからやっていこう。
春香が現在いる騎士団にそれぞれの役割を伝え、俺、葵、春香、ジャル、サーシャ、友恵の6人でキーちゃんが消えたであろう路地裏へと向かった。
シークレットストーリー ノマス編
「答えてもらおうか。ノマス・アランドール」
召喚士殺しの事を伝え洋一たちをはじき出した後、ノマスははじき出せなかった一人の人物と対峙していた。
「やはり君は残りましたか」
「当たり前だ」
背中に背負った剣を抜き放ち、切っ先をこちらに構えながら銀狼は冷たく言い放った。
「改めて聞く。お前は…いや、お前たちは何者だ。何のために彼らに接触している!?」
「……それは、おそらくあなたは知っているのではないのですか?」
「…あれだけでは少なすぎる」
「それによいのですか?あなたがいなかったら、彼らは不思議がるのではないですか?」
「…そのことについては心配ない」
そう言って銀狼は指を鳴らした。すると彼の身体からいくつかの光の球が出現し、その一つが消滅した。
「これで何とかなるだろう」
「…また雑な使い方をしていますね…」
「黙れ」
銀狼はノマスへと近づき、その切っ先を喉元へと押し付ける。
「答えろ……おまえたちの知る世界を。そして”聖杯”とは何なのかを!!」
「……いいでしょう。あなたにはそれを知る権利がある。今一度教えて差し上げましょう。”ラウル・ジルア”」




