第2章後編4 朝ご飯争奪戦
頭にたんこぶができた状態で1階に降りると、リナができたての朝食を配膳しているところだった。
「あ!降りてきた!」
俺のことに真っ先に気がついたのは、向かう途中で行き倒れていたところを助けた透だった。
その声に釣られるように、次々とテーブルを囲んでいた面々の視線がこちらへと向けられる。
その中の1つ、真っ直ぐ向けられる視線。
普段から向けられ慣れた、懐かしい眼差し。
「……お帰り。ひろ」
よほど心配していたんだろう。
出迎えてくれた葵の顔は少し疲れが残っていてるようにも見えた。
「……心配かけた」
「……いつものことでしょう?無事に生きて帰ってきてくれたのなら、私はそれで十分だよ。それよりも、びっくりしたんだよ?帰ってきたって聞いて学園まで駆け付けたら、紫雷さんに斬られてるんだもの。てっきり学長の魔の手に落ちてしまったって思ったんだから」
だから、私からは一発。
そう言って軽く握りしめたこぶしを、こつんと額に当てられた。
「春ちゃんにしばかれただろうから、私からはこれくらいで済ましてあげる」
「……ありがとうな」
「さ、まずは朝ご飯を食べよっ!一日の活力は朝食にあるからね!」
葵に背中を押されて、用意されていた席へと押し込まれる。
リナが用意した朝食は、パンのようなものからスープ、野菜サラダと彩も量も誰が見ても文句の出しようがないほどに、豪勢なものだった。
せっかくなので、頑張っちゃいました!と、エプロンを身に付けたリナが腕をまくって分須と鼻を鳴らす。
「自信作です!皆さんどうぞ!召し上がれ!」
よっしゃ!いただくぜ!とすでにお腹をすかしていたと思われる林太が、待ってましたと言わんばかりに食事に手を付けた。
ちょっとはしたないでしょー!?と千里が制止しようとするが、それでも林太の手は止まりそうもない。
「何してるの。早く食べないと林太に全部食われるわよ」
いつの間にか席についていた春香が、皿を手に取り林太に取られてしまう前にとせっせと自分の分を確保していた。
周囲をよく見ると、みんなまず自身が食べるためのご飯を確保するために必死だった。
なるほど……。だから葵は俺をさっさと席に座らせたのか。
気が付けばリナが作った朝食は半分以上なくなっていた。
俺も早く自分の分を確保しないと、お預けをくらいそうだ。
こんなにもおいしそうな朝食でお預けをくらいたくはない。
急いで皿を手に取り、朝食争奪戦を勝ち残るために手を伸ばした。
……。
…………。
………………。
結果は惨敗だった。
「パン一個しか食えなかったんだけど……」
食事に手を伸ばすたびに、食べたい料理が目の前から消えていくような経験が今まであっただろうか?
というか、食事ってもっとこうゆっくりと楽しむものだと思ってたんだけど……。
「……洋一。俺たちがなんで旅の途中で飢えてたのかわかっただろ?林太が馬鹿みたいに食うんだよ。」
透はなんとかありつけたのであろう、サラダの葉を大事そうに食べながら遠くを見ていた。
「この前の試験でも、みんなの分の晩飯を一人で平らげてしまうし、普通量だと腹が鳴りまくって魔物に見つかるし……。色んな意味で過酷だったよ」
大変だったんだなと同情するとともに、ふと嫌な予感がして透に恐る恐る今日の晩飯について尋ねる。
「もしかして……毎食、こんな感じ?」
「毎食こんな感じだよ。林太のせいで、リナちゃんはずっと厨房にこもりっきり。俺らも手伝えればいいんだけど、あいにく料理はてんでダメだから、配膳くらいしか手伝えなくてな……」
「……料理ができる俺に、リナを手伝ってほしいってことか?」
そうなんだよ~、と言わんばかりに手を取られた。
「頼む。料理ができない俺が言うのもあれだが、リナちゃん以外の女性陣の料理は食えたもんじゃないんだ」
「あの量毎食作るのは嫌だよ!?というか、年下に飯の面倒見てもらうって情けなさ過ぎるだろ!話には同意するけど、言い出したのなら透も手伝ってくれよ?」
「もちろん!買い出しでも味見でも配膳でも何でもやるよ!」
そこは野菜切ったり炒めたりとかしろよ……、と言いたいのをぐっと飲みこみリナにこれ以上負担をかけないためにも、まずは厨房へと足を運ぶ。
厨房をのぞき込んでみると、リナが昼食を何にするのか机の上に食材を並べて、一人ウムムと唸っていた。
「……このペースで消費が進むと、明後日には倉庫内の食料が無くなっちゃう。どうしよう……」
やはり食材は足りていなかったようで、リナは残りの食材でどうしようか腕を組んで真剣に悩んでいるようだった。
リナの実家とはいえ、食事方面でこんなに甘えさせてもらっていた現状。
紫雷さんたちとの話し合いが後であるとはいえ、早急に解決しなければならない課題だろう。
であれば、やることは一つだ。
「失礼を承知で聞くが、透はお金を稼いだことは?」
「せいぜい畑仕事とか簡単な村の護衛程度かな。頭を使った仕事はできる自信がないよ」
「それなら問題なさそうだな。なら、やれることから始めよう」
頭にはてなマークを浮かべる透をよそに、唸るリナの肩を声をかけながらたたくと、難しい顔をしたままこちらを見て、少しばつの悪そうな顔をした。
「……見つかっちゃいましたか。」
「まぁあんな豪勢な朝食だったからな。飯なら作れるから手伝いにでもと思ったんだけど、どうやらそれどころじゃなさそうだな」
「そうなんです。実は食料が足りなくなりそうで……。紫雷さんたちから食費もいただいてはいるんですが……」
「林太の異常な食いっぷりのせいで足りなくなってる、と」
そうなんですとリナは困った顔をしながら苦笑いしていた。
紫雷さんたちが少なめに見積もってるとは考えにくし、こうなってる原因は明らかだ。
だからこそ、ここは俺たちの力で解決しないといけないところだろう。
「リナ。この場所ってもとは宿みたいな感じで客間とか料理を提供してたりしたの?」
「!そうです!母が人と話すのが好きだったみたいで、魔女の集まりを抜けてからは父と一緒にここに宿を建てたみたいなんです」
だから、私はお父さんとお母さんの大切にしていたこの場所を、絶対に元に戻したいんです。
リナのその言葉には少しの哀愁と、確固たる決意があった。
「それなら、今からその夢を叶えないか?」
「と、いうと?」
「俺たちに、リナの夢を叶える手伝いをさせてくれないか?」
はじめリナは何を言われたのか分かっていないような顔をしていたが、徐々に意味を噛みしめていき……。
満面の笑みを浮かべて、大きく、大きく首を縦に振った。




