第2章後編3 照れ隠しには鋭い一撃を
紫雷さんから告げられた事はあまりにも衝撃的だった。中でも1席が殺害されているという点について、席順によって強さが決まると聞いていただけに、上位2席が既に空席であることには驚きを隠せなかった。
「1席はギルド連合が倒したのですか?」
「いや、貴族連合内々による内乱の末に、3席から10席に囲まれて殺害されたと聞いているよ」
内々による殺害!?
席順で強さが定まっているというのが正しいのであれば、戦争のために頼りになる上席者を殺す理由は明らかだろう。
「上席者2名は、この戦争をすることに反対であった可能性があるわけですね」
「あくまでそれは予測でしかない。そして、私たちは残念なことにその答えを聞くことができる人物に一度会っているんだ」
「……それは、誰なんですか?」
「……ルル君だよ。彼女はギルド連合と貴族連合、もとい貴族連合を語る十席との戦争を止めるために、各地を回っていたらしいんだ」
……ルルが、いま巻き起こっている戦争を止めようとしていた?
信じられないような話で腑に落ちないが、いくつか納得できるような要素はあった。
彼女はグレゴリアスとの戦い方を知っていた。
戦闘の技術も熟練者に劣らず、その判断力もずば抜けていて、グレゴリアス討伐戦においては何度も助けられた。
そんなルルは俺によく過去から来たこと、始まろうとしている戦争を止めるために動いていたこと、仲間のためにも元の場所に帰らないといけないことを話してくれたことがある。
それが、英雄ラウルの英雄譚に出てくる戦争の話だとは、夢にも思っていなかった。
こんなことに巻き込まれて初めて、ルルがどれほど壮大な偉業に挑戦しようとしていたのかを知った。
……今の俺に、ルルのように決断を下し行動することができるだろうか?
「いまさら何をそこまで不安そうにしてるんだい?」
顔に出ていたのか紫雷さんから顔に出ているぞと、指摘される。
「狐火、君はここにたどり着くまでに、難しい選択をしてきたはずだ。それは決して簡単なことじゃない。君には、それができるだけの力があるんだ。そこは自信を持ちなさい」
それに、大人である我々もいるのだからそう心配する必要も無いさ、と、そこまで紫雷さんが話をした時、チカッと窓の方から光が差込んだ。
3人とも光の方を見ると、日が昇り始めたようで他の家の窓に当たった光が反射して室内に差し込んでいた。
「もう朝ですか……。少し休みましょう。話はまた夜でも構いませんか?」
「俺は構わないぜ、狐っこもそれでいいだろう?」
「はい、俺も色々と情報を整理したいですし、それでお願いします」
それではまた夜に。
そう言い残して紫雷さんたちはは席を立ち、部屋へ戻った。
俺も少しは仮眠をとるか。
席を立ち、階段を上って部屋へと戻ると、静かな部屋に窓から差し込む暖かな一筋の光。
一日の始まりを告げるその光を見て、俺はようやく一時の荒波を乗り越えたことを理解するとともに、急激な眠気に襲われて、そのまま倒れこむようにベッドへとダイブした。
……。
………………。
…………………………。
「……いつまで寝てんだこのスカポンタン」
突然何かがお腹に直撃し、その痛みで跳ね起きる。
さっき横になったばかりであまり仮眠も取れていないというのに、この仕打ち。
こちとらさっきまで情報共有してたんだぞと、一言文句を言わなきゃやってられない。
そして、こんなことをやるやつを俺は1人しか知らない。
「……春香。起こすとき腹パンするなって、前から言ってるよな!?」
悪態をつきながら体を起こし、春香だと思われる人の方へと向き直る。
予想通り、俺に腹パンをしたのは春香で間違いないようだ。
「こちとら朝まで紫雷さんたちと話し合ってだな……」
久々ゆっくりできるタイミングを妨害された恨みつらみを、春香にぶつけようと口を開きかけたところで、突然春香が俺に抱き着いてきた。
予想していない行動に
「なっ!?ちょっ、春香!?」
驚きを隠すことができず、言葉が続かない。
訳も分からず動けないでいると、ぼそっと春香が言葉をこぼした。
「……心配させたんだから、少しくらいこのままいさせなさい」
抱きしめる力がより強くなり、心配をかけた罪悪感で身動きが取れなくなる。
しばらくそのまま抱きしめられ、解放されるのを待った。
急に分断されることになり、かつ死の森の話もどこかで聞いていたのだろう。
グレゴリアス襲撃事件のことが、脳裏にちらついたのかもしれない。
……心配もかけたし、しばらくこのままでいよう。
抱きしめたまま何も言わない春香の背中に手を回し、あの時のように背中を軽く叩きながら、大丈夫と声をかける。
しばらくの静寂。
お互いに言葉もないまま時間だけが過ぎていく。
春香は何も言わないまま、俺にずっとあやされるような形で動かない。
このまま春香が満足するまで抱きしめているのがいいんだろうか?
「……春香。斬られた少年は昨日朝方まで話し合っていいたから、起こしに行くなといっ……」
突然部屋の扉が開き、エイリーさんが室内入ってきた。
おそらく俺のことを起こしに来た春香が帰ってこないから、様子を見に来てくれたのだろう。
だが、あまりにも間が悪い。
「…………盛るなとは言わないけれど、もう少し周りの人のことを考えたらいいんじゃないかしら」
「ちょっ!エイリーさん!それは誤解で!」
「……早く降りてきなさい。皆あなたを待ってるわよ」
春香も抜け駆けはよくないわよ、と一言残してからエイリーさんは下に戻っていった。
残されたのは気まずい空気と、どうしたらいいのかわからない俺。
そして、耳が耳が真っ赤に染まった春香。
こうなれば、俺の身に起こることは決まっている。
この体勢からの回避は……できないな。
諦めと同時に、春香の照れの一撃が腹部に炸裂する。
照れ隠しで暴力はやめろと、あれほど言ったのになぁ。
空を舞いながらそんなことを考える。
でも、どこか安心している自分がいた。
また、日常に戻ってきたのだと。




