第2章後編2 希望の見えない夜
俺が泣き止むまで、足柄さんと紫雷さんは何も言わずに待ってくれていた。
少しして落ち着き、胸を借りた足柄隊長にありがとうございますと告げて涙を拭いた。
「いっちょ前に男みたいなことしやがってからに」
「一応男ですよ」
「そうだったな!!」
がっはっはと笑いながら俺の背中を力強く叩く足柄隊長。
久々叩かれたのと、まだ傷が染みるとのダブルコンボで痛みで顔がゆがむ。
それを察してかすぐに叩くのをやめて、体をいたわってくれた。
「すまんな、こうしてまたお前さんと話せることなんてもうないと思っていたからな」
申し訳なさそうに謝る足柄隊長だったが、声からは再会できて嬉しいといわんばかりに喜びにあふれていた。
そんな足柄隊長とい俺の戯れが終わるのを待ってから、紫雷さんは口を開いた。
「いたわりたい気持ちはありますが、まずは情報の共有です。葵さんからはここに来るまでの話は聞いています。四大貴族マーリアを打倒したこと、神と呼ばれる何者かから逃げてきたこと。……これだけでもお腹一杯ですが……。死の森での話を聞かせてくれませんか?」
「わかりました。あの後……」
そして、この1週間の中で起こった激動の日々を二人に伝えてた。
馬車の中でキマイラに追い掛け回されたこと。
一緒に生き残った少女がアルカディアのお姫様だったこと。
そのお姫様が道中さらわれて、取り返したと思った矢先にユニコーンとの戦闘になったこと。
ギルドの総本山であるルミナスで、一人のギルドマスターとやりあったこと。
六神獣のうちの一体、ライリーンがそのお姫様を主人と認めたこと。
ムーンレイクという謎の場所で、現代技術以上の傀儡を操る少女に襲われたこと。
そして、戻ってきた矢先に紫雷さんに切り伏せられたこと。
死との隣り合わせの日々で、また同時に多量の情報でもあったようで、聞いていた紫雷さんは顔を引きつらせていたし、足柄隊長は大笑いしていた。
「お前はまた変なことに巻き込まれてるな!」
ヒーヒー笑う足柄隊長。
あんまりにも笑うものなので、こちらとしては命懸けだったこともあり、笑ってる場合じゃないんですよ!と口を尖らせる。
そんな俺を足柄隊長は堂々となだめながら話をつづけた。
「まぁまぁ落ち着けよ、狐っこ。でもこれで、紫雷は現状を把握できたんじゃねぇか?だいぶんマズイ方にころがってそうだがな」
「想像以上に、ですね。ここまでギルド連合も後手に回っている状況だとは思いませんでしたが……。それに、まさか彼の話を聞くことになるとは思いませんでした。……ルーク・マーリアを見たといいましたね?」
「はい。最後は化け物のようになってしまったので、弟のジャルがけりを付けました」
「そうですか……」
しばらくの沈黙の後、紫雷さんは大きく息を吐いてから、話をつづけた。
「……彼は、私がこの時代で教えた初めての生徒です」
「……!面識があったんですか!?」
「えぇ。私と剛、エイリーの3人が初めて抱えた生徒です。この世界についてよく教えてくれた、人柄もよく聡明で明るい方でした。……だからこそ、生き延びてほしかった」
言葉を紡ぐたびに、怒りと苦しみが混じったような声で悔しむ紫雷さん。
紫雷さんがここまで悔しがるのを見るのは初めてで、裏を返せばそれだけルークさんは信頼の厚い人であったことがうかがえた。
「……俺ら3人はルークからいろんな話を聞いてなぁ。貴族連合は存在自体が虚構に過ぎないことを聞かされた。だからこそ、あいつを伝達役としてパチェリシカから逃がすことにしたんだ」
「ま、待ってください!貴族連合の存在が虚構!?どういうことですか!?フリーテでの貴族マーリアは、間違いなく貴族としての地位と力を保持していましたよ!?」
「どういうことかというと説明が難しいんだがな……。あいつが言うには『我々は表舞台で気を引くための囮でしかなかった』って言ってたぜ。まぁ、言葉の通りだろうとは考えてはいるがな」
そこまで言って足柄隊長は手にしたジョッキを持ちすべて飲み干すと、力強く机にジョッキをたたきつけた。
「逃がすことに成功した3日後にあいつは戻ってきてな。横にはあのクソ学長がいたよ。……やるせねぇよなぁ。今の俺たちは、ガキの一人も救えないんだぜ」
足柄隊長は悔しさをあらわにしながら、空いている左手で握りこぶしを作り、行き場のない悔しさと怒りを机にぶつけた。
「……あのエロヒムって人は何者なんですか?フリーテでも明らかに異様な存在感を放っていましたし、未来ある若者のためと言いながら、従順な兵士を望んでいる。発言に不審点はなくても、周囲の人間の様子があれほどおかしければ、この従順の意味合いが変わってきます。……紫雷さん、足柄隊長。あいつは学長ってだけじゃないでしょう?知っているなら教えてください」
ここまで聞いた話で、学長であるエロヒムは何かしら害をもたらすものであるということは推測できる。
フリーテでナタリーさんは、ルーク・マーリアはマリオネットとして生きていくしかなくなったと言っていた。
そして、奴の近くにいたリナのお父さんはタスケテと言っていたののにもかかわらず、襲い掛かってきた。
まるで、意識がある状態で体が自分の意志で動かせなくなったみたいで……。
ある結論に至ろうとしたところで、紫雷さんは重たい口を開いた。
「十席の話は聞いたことがあるでしょう。第1席は殺害され、第2席は行方不明。現在十席の指揮を執っているのは事実上トップとなった第3席。奴は地上に出現した際真っ先に落とされた街が、難攻不落と呼ばれたパチェリシカだったそうです」
「……まさか」
「えぇ。奴の本来の所属は十席の第3席。この世界に戦争を持ち込み、戦火を巻き起こした張本人。それが、エロヒムという男の正体です」




