第2章40(終) それでも前を向いて
「ナタリー殿!伝令します!貴族連合の軍団が襲撃!現在三方向にそれぞれ数3000程確認できています!!」
「伝令!第5席ギボールと思われる人物が出現!!謎の黒い空間が迫ってきます!!」
……何が、起こっている。
このルミナスに、今何が……。
魔女の森のあいつから幻惑の纏を伝授してもらって、基本的に外部との接触は避けているから、この場所がばれるなんてことはそうないはずだ。
……考えたくはないが、内部からの密告か?
にしてはあまりにも急すぎる。
兆候があればアストリアのメンバーが内密に処理してしまうだろうし、見せしめるのであればユーリュの手によって公開処刑されるはずだ。
裏切りは、何よりも深い罪なのだと。
…………。
物思いにふけっている場合ではない。
かつての弱い私はここにいてはいけないのだ。
「各ギルドマスターに伝達しろ。まずは各々の戦力を共有し、3ギルドで構成された部隊を形成。それぞれで各方面の貴族連合の集団を討て。手段は問わない」
「りょ、了解!!」
バタバタと伝令兵がかけていく。
普段静かな外の広場も、この異様な伝令と空気に充てられて大騒ぎになっていた。
怒号の声が様々なところから響き渡り、ガチャガチャと金属音が響き渡る。
忌み子と怪鳥は人を乗せ空を飛び、水瓶をつかさどる魔女はあくびをしながら指揮を執り、顔を赤くしたブルは血気盛んと言わんばかりに咆哮し、このあわただしく混乱した空気を貴族連合への殺意へ塗り変えていく。
各々が抱く感情がこの広場で混濁し、伝播していく。
1部隊はあのメンバーでどうにかなるだろう。
ならあとは、第5席の対処だけだ。
「ウィッカ、いるんだろう」
「……ここにいますよ、リーダー」
部屋の隅から音もなくウィッカはナタリーの前に現れた。
だが、そこに普段の彼女らしさはなく、顔は少しこわっばって緊張していた。
「なんだ、君らしくない。せめていつもみたいに笑ってくれよ。それとも緊張してるかい?」
「今、そんな冗談を言えるなんて、さすがはリーダーです。……そのメンタル、ちょっとうらやましいなって思います」
「なに、くぐってきた修羅場が人より少し多いだけだ。……それで、姫様たちは今どうしてる?」
「……ユーリュがアストリアのメンバーを何人か向かわせたようです。ひとまずは大丈夫かと」
「それを聞いて安心したよ」
報告をする際も強ばりが取れないウィッカの頭をワシャワシャと撫でる。
「ちょっ…!せっかくセットし直したのに!」
プンスコと音が聞こえてしまいそうな怒り方をするウィッカ。
それを見て思わず笑ってしまう。
「こんな時にこんなことで笑わないでくださいよぉ……」
「いやなに、かわいいものが見れたなと思ってね。……少しは肩の力が抜けたかな?」
「もぅ……。でも、ありがとうございます」
まだ顔自体は少しこわばっているものの、肩の力は抜けたようだ。
「ウィッカ。サーシャが戻り次第私たちは別行動をとるよ」
「……一応確認ですが、本当に向かうんですか?」
「あぁ、もちろんだ。……我々3人で第5席と接触するぞ」
もう、止まれない。
止まることはできない。
進むことの強さを、私は100年前に教えてもらったから。
「行くよ、ウィッカ。天秤に裁けない事はないんだ。……全て、私に任せなさい」
だから示す。
絶対的な力を持つものとして、ライブラのリーダーとして、この戦局をコントロールして見せる。
彼が残してくれた、この命とこの世界を守るんだ。
他の中核メンバーに指揮を任せ、もう後戻りはできないことを感じながら、私たちはサーシャと合流するために走り出した。
一方、洋一たちと別れたセリナたちは、謎の集団の襲撃にあっていた。
「何よ!こいつら!!」
「頭を落としても襲ってくるぞ!?不死身か!?」
「サーシャちゃん!イクティオ!どいて!クーちゃん!!喰らいつけ!!」
クーちゃんを召喚し竜形態に変身させた後、不死身の人型の化け物へとぶつける。
クーちゃんは頭なく動くその体を真っ二つに嚙みちぎり、地面へとたたきつけた。
だが、そうまでしても体は分裂し、地面をはいずるようにこちらへと迫ってくる。
生命として破綻したこの謎の敵。
「姫様!ここは撤退するべきです!!ただでさえ危険な死の森の中で、よくわからないこいつらと戦う必要はありません!!」
イクティオの言う通りだ。
生命活動に必要な部位を切り落とし、切断しようとも襲ってくる敵をまともに相手をするほうが馬鹿らしい。
「総員、撤退準備!ルミナスに向かって後退します!サーシャちゃん!追跡されないようにクオーツでかく乱を!宗次さんは進行が遅れるように炎の壁を作ってください!」
「「了解!」」
各々がそれぞれ与えられた役割を遂行していく。
だが、それ以前にセリナは焦っていた。
こんな展開知らない。
歴史を変えてしまった?
だとしても、バタフライエフェクトが起こるのがあまりにも早すぎる。
……まさか、私以外にも歴史を変化させようとしている誰かがいる?
可能性は捨てきれない。
現に、死んでいたはずの彼女と私は対面している。
本来たどるべきはずだった歴史からは、すでに大きく逸脱しているはずだ。
であるとするのならば、この変化を起こしているのは私以外に誰なのか。
かつての仲間たちだろうか?
それとも……根源たる一か?
「姫様!逃げる準備ができました!行きましょう!」
イクティオが私に声をかけ手を私に差し出した。
その手をつかみ、私たちは走り出す。
行先の見えなくなった混沌へ向かって。
誰も知りえない、未来への一歩を踏み出した。




