第2章39 終わりの始まり
紫雷さん。
四島列島での戦いにおいては敵として立ちはだかり、グレゴリアス襲撃戦においては共に街を救う為、志を同じくして戦い、そして戻らなかった人。
そう、紫雷さんは足柄さん……、隊長と共に戻ってこなかった人だ。
幸幸さんと共に、死体すら残らなかったと判断し、弔った人だ。
1000年以上先の未来で死んだはずの、大恩人。
その人が、今、目の前にいる。
なぜ、なぜ、なぜ。
なぜ、紫雷さんが、ここにいる!?
いるはずがないのだ。
紫雷さんが!
死んだはずの大恩人が!
ここに!
いるはずがないんだ!!
「……久しぶりに顔を合わせてみれば、こんなことで固まるほどに感情が豊かになったな。喜ばしいことだ。だが、それは戦場で命取りになるぞ!狐火!!」
鋭い雷撃が、刀を伝って放たれる。
夕日が沈む赤黒い空に、紫の一閃が空へと駆けていく。
何度も見てきた紫雷さんの大技、天雷閃。
この技を放つのは、紫雷さん以外に見たことがない。
なら、本当に?
この人は、紫雷さんなのか?
そうだと仮定した場合、なぜあいつを守るような行動をしているんだ!?
エロヒムに一撃を加えようとして現れた紫雷さん。
順当に考えるのであれば、エロヒムを守っているとしか考えられない。
正義感の塊だった人が、こんな奴に協力するだろうか?
……何か、理由があるはずだ。
再び刀を構え直し、紫雷さんらしき人と睨み合う。
呼吸、構え、その一挙一動全てが見たことがあるもので。
その動き全てが、目の前の紫雷さんが本物であることを裏付けていく。
これほどまでに似通っているのであれば、もう本物だと仮定して対処するほうが正しいだろう。
「紫雷さん!なんで……っ!!」
紫雷さんにこの行き場のない感情を吐き出そうとして、言葉が詰まる。
なぜ、生きているのか。
なぜ、エロヒムの味方をするのか。
なんで……そんな辛そうな顔をしているのか。
考えれば考えるだけ、思考がまとまらなくなる。
問いかけを考えているその間にも、紫雷さんはその鋭い斬撃を絶え間なく打ち続けてきた。
その洗礼された一刀一刀を、何とか必死に受け流していく。
当たれば必殺。
致命傷程度では済まされないその刃は、斬撃を放つたびにさらに洗礼され、力を増していく。
ただでさえ体力を消耗した状態でこの場に立っているのだから、素早く終結させないと自らの身が持たない。
対話は後だ。
今は、確実に攻撃できるできるタイミングを計って、一撃を入れるのみ。
紫雷さんの達人級の太刀裁きを、俺はかつて最後まで一度もしのぎ切れたことがない。
だがそれも、グレゴリアス襲撃戦までの話だ。
紫雷さんたちがいなくなって2年。
俺も怠けていたわけではない。
やれることはすべてやってきたつもりだ。
かつて打ちのめされた時と同じような太刀裁きで来るのであれば、対処法は考えてある。
紫雷さんは斬撃を飛ばす際、まんべんなく隙が無いように斬撃を飛ばしてくる。
様々な形から斬撃を飛ばすこともあり、振りかざす速度が少しだけ変わっているタイミングがある。
特に右上から右下に刀を振り上げる斬撃は、その後の動作につなげるときにわずかながらに隙が生まれる。
この斬撃が放たれたタイミングで、駆車で一気に距離を詰めて一撃を叩き込む!!
紫雷さんも俺の意図は大まかわかっているようで、なるべくその角度からの斬撃を放たないように意識して刀を振るっている。
意識してこれができるのだから、その強さには頭が上がらない。
それならば、こちらから誘い込むしかない。
左手に風華を呼び出して、風華の力を使って斬撃を避けながら魔法を詠唱する。
「切り裂け!!ウィンドカッター!!」
右手で魔方陣を展開し、膝付近を狙って複数の風の刃を飛ばす。
風魔法を使えるようになったのはつい最近、しかも風華がいるときだけだ。
この初撃だけは、絶対に対応できないはず!
変則的な風魔法に、紫雷さんは咄嗟に防御の構えをとった。
その瞬間に打って出た。
次の動作が発生する前に最短距離で一気に詰め、その胴体に向かって駆車を叩き込む!!
紫雷さんの目の前にたどり着いたとき、紫雷さんはまだウィンドカッターを防いだ形から持ち直していなかった。
いける!!
確信をもって、俺は刀を思い切り紫雷さんに向かって振りかぶった。
「ひろお兄さんは先ほどドルーナのほうに向かわれましたよ」
馬鹿面鳥にまたがって帰ってきたリナちゃん曰く、最終日ぎりぎりに何とかひろ君はパチェリシカに到着することができたみたいだ。
知らせを聞いたとき、私と春ちゃんはため息とともに胸をなでおろした。
というのも、私と春ちゃんはリナちゃんの宿で襲撃を受けた後、道中で出会った透、千里、翔人、林太同じ馬車に乗せられてパチェリシカに戻って来いとだけ告げられてとある山岳地帯で降ろされた。
食料も何もかも手薄な状態で突然始まった試験に混乱しながらも、ここまでだれ一人かけることなくこれたことだけが、本当にすべてに恵まれていた。
だが、戻ってくる道中でひろ君を一度も見なかったこともあり、はぐれてどうしていうのかだけがずっと不安だった。
その不安を2日前にパチェリシカにたどり着いたとき、ある人が解決してくれた。
名前を紫雷さん。
四島列島からお世話になっていた、グレゴリアス襲撃戦で命を落としたはずの人だ。
混乱と思考がまとまっていない中で、紫雷さんに告げられたのは一言。
「狐火は死んでしまうかもしれない」
理由は話してはくれなかったが、ひろ君が危険な場所に送り込まれたことだけは理解することができた。
そう言われていたひろ君が帰ってきたというのだ。
リナちゃんにひろ君にあってくることを伝えて、春ちゃんとともにドルーナへの道を駆け上っていく。
きっとひろ君も私たちの安否を心配しているはずだ。
向かった先が分かっているのであれば、会いに行くほうが早いはず。
そうしてドルーナの校門付近に近づいたとき、学園内からいくつもの稲妻が空を駆け上っていった。
同時に歓声が上がる。
これは、何の、誰のための歓声?
鼓動がさらに早くなる。
嫌な予感が体中に伝染して、体を突き動かす。
春ちゃんを置いてでも、私はその声のもとに急いだ。
「ひろっ……!!」
視界に飛び込んできたのは血しぶきと血だまり。
無残に切り捨てられ、体は痙攣し震えている。
そんな中心に彼がいた。
紫雷さんに切り捨てられた、ひろ君が。




