第一話:イケメンは滅ぶべし
キラキラと輝く金色の長い髪に、クリッとしたつぶらな青い瞳を持つ可愛らしい容姿をした少女──否、少年は大きな溜息を吐いていた。
「何を、どうしたらこうなるんだよ」
その声は些か震えていて、よく見たら表情は絶望の二文字で埋まっている。
少年の名は、神宮伊織。とある夏の日に、学校の授業中に居眠りをして起きたら少年になっていた、なんとも不憫な少年である。
普通なら、この状況に絶望や困惑位はするだろう。しかしこの男、普通ではないのだ。
目を覚まし、状況確認の為に池を見て思ったのは、たった一つ。
──男なのに女みたいな容姿かよ!! 誰だよこんな容姿にしたの? 今いる場所がどうこうじゃない!オレは容姿を、この容姿を!! もっと男らしくして欲しかった!!
今の自分の容姿(主に顔)に対する不満のみだった。困惑などない。今いる場所など、どうでもいい。
容姿に対する不満だけ。ただそれだけなのだ。
ジッと池を見つめ、深い溜息を吐く。
──せっかく姿変わるなら、ムキムキとかで良くね? なんで女顔なんだよ誰得だこれ。
そんな事を、考えながら。
伊織という人間はチョロい上に、単純である。
知らない人に話しかけられ、騙されそうになること──計十五回。知らない人に自分の住所を教えそうになること──計六回。
どれもこれも、彼が相手を信頼する動機は一つ。[お菓子をくれたから]である。
その時、伊織の話を聞いた者達は、察したのだ。
──あ、こいつチョロい上に単純だ。
……と。
それからというもの、伊織は周りにいる友人(主に一人のある友人)に、何かあった時は首根っこを引っ張られ、そのまま引き摺られるという事を繰り返していたのだ。
そして今の今まで伊織に何も無かったのは、一重に運が良すぎた為である。
だがしかし、伊織にも信じない存在とやらはいたのだ。
「おや、こんな所に迷い込んだ狐が……」
ジャリ、と小石を踏む音に反応して、ばっと後ろを振り向く。
そこには、風で靡く銀色の髪に、美しい顔立ちの男が立っていた。
その男は普通の女子達が見ると騒ぎ出しそうな程に、イケメンだった。
──い、イケメン……だとぅ!?
ドシャァン!! と、伊織の体に大きな電流が走る。
そして思いきり口元を引き攣らせ、イケメンを見つめた。
実は伊織、大のイケメン嫌いである。
それはもう、[イケメンは滅ぶべし]と高価な筆でわざわざ書いた大きい半紙を部屋の壁に堂々と飾るくらいには、嫌いであった。
理由は単なる伊織の嫉妬、なのだが──その嫉妬は常人が考えているよりも遥かに、黒い事だけは確かなのだ。
そしてこの男、いかんせん恋愛運が皆無に等しかった。
ある時は、好きなクラスメイトの女子に告白しようと下駄箱で待機していれば、まさかまさかのイケメン男子と付き合っていることが発覚し、見事に失恋。
またある時は、人生初の彼女をイケメン男子に奪われるというなんとも可哀想である悲劇。
そしてまたある時は──と、言い出せばキリがないほどに、伊織はイケメンに対しては全く良い思い出が無い。
「貴女の名前を、教えてはくれないでしょうか?」
ニコリと笑い、イケメンは右手を差し出すが伊織はその手を振り払い、近くにあった木の後ろへと走り出す。
イケメンは振り払われた右手をジッと眺め、伊織の方を向く。
女子が見たら即胸を打たれるであろう、爽やかな笑顔をして、伊織の方へと歩き出した。




