凡人によるプロローグ
後藤明道
性別 男
年齢 24歳
職業 自宅警備員
最終学歴 高校中退
年収 0円
これが社会が俺を評価する情報。
これだけで、社会は俺を評価して、切り捨てる。
そして、これだけあれば、俺が人生の負け組だとわかる。
決して、社会に不満があるわけではない。
全て、俺が選んで、決めた結果なのだ。
最初は神様を恨んだ、何でお金持ちの家に生まれなかったのか、何でイケメンに産んでくれなかったのか、なんで才能を与えてくれなかったのか、それこそきりがない。
でも違った。
そんな条件の人は数億人といて、ちゃんと大成功してる人間もいる。
例えば、今、目の前のテレビから流れている音楽番組で歌ってる、このバンド。
《ホープ・インズ・ピープル》の面々はそれぞれ家庭に問題があり、それでも努力を重ねて、今やこの日本でも知らぬ人がいない第一線のアーティストだ。
年齢は同世代、しかし、俺が呪った神様が決めてるスタートラインは俺より酷かった。
それでも諦めずに努力を続けた。
そして、俺は諦めた。
きっとこの違いが俺と彼らの違いなのだろう。
今からでも間に合うだろうか?
きっと間に合うはずだ。
だけど、俺はその一歩を踏み出せないでいる、日々の時間をただただ、怠惰に過ごしている、今までも、これからも……。
そう腐っていく俺の思考をまるで、認識してるようにテレビなかの《ホープ・インズ・ピープル》のボーカルは言った。
『私たちは、酷く惨めな生活をしてきました。 それでも、此処まで来れたのは、全世界の私たちの様な人に証明したかったからです!。 どんなに辛くても、どんなに苦しくても希望はあると。 それを証明するのが私たちの夢であり目標です。 もし、未だに踏み出す事の出来ない人がいるなら……まだ遅くない、踏み出す意思があるのなら、歩き出せ! 希望にむけて!』
喉から、苦笑いが出てしまう。
全国放送の生で、こんな痛い事を言ってしまうなんて、とんだ痛いやつだ。
案の定、番組のMCをしている大物タレントも苦笑いしていた。
希望、その言葉は、酷く甘くて、居心地のいい言葉だと思った。
それと同時に、酷く苦くて、居心地のわるい言葉だと思った。
それに向かって進むにつれて、今までの行動が報われていく甘さ。
それに向かって進むにつれて、自分の存在が肯定されて行く、居心地の良さ。
それに向かって進むにつれて、より一層遠くに感じる苦さ。
それに向かって進むにつれて、こんな日の当たる場所に居ていいのか?と場違いな、居心地の悪さ。
それらをきっと感じてしまう言葉だ。
「はぁ……何を真面目に考えてるんだ俺は」
決して大きな挫折を味わったわけでも、不幸に見舞われたわけでも、ない。
ただ、諦めただけの俺に、その言葉は不相応だろう。
「でも、まだ遅くない……か」
テレビ画面には別のアーティストがもう歌い始めていて、あのバンドはもういない。
「もし、時間を有効活用できていたら、俺も、あんた達みたいに、なれたのかな………」
その言葉は、誰にも聞かれる事なく、部屋を反響して消えていく。
希望、その言葉は今の俺には不相応だろう。
ひょっとしたら今から頑張っても、その言葉に相応の人間になれないかもしれない。
いままで、その場のノリや、格好を気にして適当に生きてきて、その結果、諦めた。
周りの言葉に耳を貸さずに、常に自分が誰よりも優れていると考えて生きてきた、そして、俺は自分の小ささに気づき、諦めた。
なら、今回は偉大なる先人の言葉を信じてみるのも悪くないか。
「遅すぎることはない………そうだよな」
そう言って、久々に部屋のカーテンをあける。
時間感覚をずっと締め切っていたため無くしていたが、今はお昼らしい。
一年ぶりに開けるそのカーテンからは太陽の光が差し込む。
ろくに片付けもしてない、部屋は足の踏み場もないほど、汚く、俺の心を映し出す鏡みたいだった。
その部屋にいま、太陽の光が差し込む。
部屋に脱ぎ散らかっている服から、適当にパーカーを取り出し、それを着ると財布を掴み取りバックに詰め込む。
「よし、いきますか!」
まずは履歴書を買うところから始めよう。
次は面接に応募してみよう。
受からないかもしれない、でも諦めない。
偉大なる先人は、言っていた。
『まだ遅くない、踏み出す意思があるのなら、歩き出せ! 希望にむけて!』
少し遅いかもしれない、でも。
それでも……俺はもう諦めない!。
家を出て、一番近いコンビニに足を運び、履歴書を購入する。
久々の日光は、いままで、逃げ続けた俺に罰を与える様に降り注ぎ、肌をジリジリと焼く。
7月も後半、太陽はこれでもかと自己主張を続けていた。
それにしても暑すぎるだろ、熱中症で倒れるご老人が多いのも納得だわ。
頭上で輝く太陽は何にも遮られることない熱を発しており、一刻も早く、クーラーの効いた家に戻りたいと思ってしまう。
そんな俺の帰路を塞ぐ様に、信号は赤になる。
おいおい、嘘だろ、なんでこのタイミングで赤になるんだよ。
仕方ないので、ボーッと立ったて信号が変わるのを待つしかないない。
たしか、この交差点を最後に渡ったのは2年前だったよな、その時は冬だったけど。
最後に外出したのは2年前の冬で、これもコンビニに行ったのが目的である。
それにしても、変わらねぇな、この辺り。
そう思いつつ、周りの景色を最後に見た景色と重ねる。
道路の歩行線が新しく塗り直されてる以外に、特に変化は見られない。
道路の反対側にはこの近くにある、俺の母校の制服に身を包んだ、部活帰りだと思われる女子がいて、その女子の制服の着崩し方を、昔とかわっていなかった。
ははは、これも伝統とか言うやつか?
懐かしい記憶が蘇る。
周りの人に合わせていた当時、自分をより大きく見せる為に、外見だけを変えて、自分より下の者を作り、そして、自分はより上の人間の顔色を伺う生活。
その時にクラスのトップカーストに居た女子もたしかあの着崩し方をしていたはずだ。
今にして思えば、本当にバカだよな俺。
クラスカーストなんて気にしないでも、学校を卒業したらそんなの無くなるのにな。
あの時はその空間が全てで、そして、その空間が永遠だと思っていた、そんなはずないのに。
思考を割いていると、異変に気付く。
反対側にいる、その女子はスマホを見ながら、移動していたため、赤信号に気づいていないのだ。
そして、間が悪い事にトラックが猛スピードで走ってきている。
よく運転席を見てみると、ご老人が突っ伏していた。
嘘だろ⁉︎ まさか熱中症でやられてるのか?
「おーい! そこの君! 車が来てるぞぉ!」
慌てて、女子高生に向けて叫ぶ。
「へっ?」
その声に気づいて、女子高生は顔をあげて、トラックを確認するが、猛スピードで向かってくるトラックの脅威に腰を抜かしてしまう。
「クソがっ!」
それを見て、俺は即座に走り出す。
ここ最近、まともに運動してこなかった体に鞭を打って足に力を込める。
間に合わないかもしれない。
走り出すのが遅かったせいで、間に合わないかもしれない。
諦めろ、もう遅い、今更なにをやっても無駄だ。
そう頭の中で声がする。
「それでも………」
それでも俺はもう。
「諦めないっ!」
トラックがもうそこまで迫っている。
足に力を溜めて一気に飛び、女子高生を吹っ飛ばす。
「キャッ!」
ドンッ!
俺の体にものすごい圧力がかかる。
それと同時に体からも、すごい音がする。
その圧力により吹き飛ばされた俺の視界には、青い空が見えた。
「キャーーッ!」
悲鳴が聞こえる。
どうやら、あの女子高生は無事らしい。
なんだ、間に合ったじゃないか。
流石、偉大なる先人だ、その言葉に偽りなしだな。
ハハハと笑おうとするが、代わりに口からは血の塊が出てくる。
遅すぎることはないなら、今の俺でも届くかな、希望に。
さらに輝き続ける太陽に手を伸ばそうとするが、力が入らない。
やっぱり希望は遠いっすは、偉大なる先人さん。
そう考えて、徐々に視界が消えていく。
こうして、社会が俺を評価する情報に1つ項目が増えた。
後藤明道
性別 男
年齢 24歳
職業 自宅警備員
最終学歴 高校中退
年収 0円
享年 24歳




