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凡人プロトコル  作者: 赤石ギルモブ
1/3

凡人によるプロローグ

後藤明道(ごとうあきみち)


性別 男

年齢 24歳

職業 自宅警備員

最終学歴 高校中退

年収 0円


これが社会が俺を評価する情報。


これだけで、社会は俺を評価して、切り捨てる。

そして、これだけあれば、俺が人生の負け組だとわかる。


決して、社会に不満があるわけではない。

全て、俺が選んで、決めた結果なのだ。

最初は神様を恨んだ、何でお金持ちの家に生まれなかったのか、何でイケメンに産んでくれなかったのか、なんで才能を与えてくれなかったのか、それこそきりがない。


でも違った。


そんな条件の人は数億人といて、ちゃんと大成功してる人間もいる。


例えば、今、目の前のテレビから流れている音楽番組で歌ってる、このバンド。

《ホープ・インズ・ピープル》の面々はそれぞれ家庭に問題があり、それでも努力を重ねて、今やこの日本でも知らぬ人がいない第一線のアーティストだ。


年齢は同世代、しかし、俺が呪った神様が決めてるスタートラインは俺より酷かった。


それでも諦めずに努力を続けた。


そして、俺は諦めた。


きっとこの違いが俺と彼らの違いなのだろう。


今からでも間に合うだろうか?


きっと間に合うはずだ。


だけど、俺はその一歩を踏み出せないでいる、日々の時間をただただ、怠惰に過ごしている、今までも、これからも……。


そう腐っていく俺の思考をまるで、認識してるようにテレビなかの《ホープ・インズ・ピープル》のボーカルは言った。


『私たちは、酷く惨めな生活をしてきました。 それでも、此処まで来れたのは、全世界の私たちの様な人に証明したかったからです!。 どんなに辛くても、どんなに苦しくても希望はあると。 それを証明するのが私たちの夢であり目標です。 もし、未だに踏み出す事の出来ない人がいるなら……まだ遅くない、踏み出す意思があるのなら、歩き出せ! 希望にむけて!』


喉から、苦笑いが出てしまう。

全国放送の生で、こんな痛い事を言ってしまうなんて、とんだ痛いやつだ。

案の定、番組のMCをしている大物タレントも苦笑いしていた。


希望、その言葉は、酷く甘くて、居心地のいい言葉だと思った。

それと同時に、酷く苦くて、居心地のわるい言葉だと思った。


それに向かって進むにつれて、今までの行動が報われていく甘さ。

それに向かって進むにつれて、自分の存在が肯定されて行く、居心地の良さ。

それに向かって進むにつれて、より一層遠くに感じる苦さ。

それに向かって進むにつれて、こんな日の当たる場所に居ていいのか?と場違いな、居心地の悪さ。


それらをきっと感じてしまう言葉だ。


「はぁ……何を真面目に考えてるんだ俺は」


決して大きな挫折を味わったわけでも、不幸に見舞われたわけでも、ない。

ただ、諦めただけの俺に、その言葉は不相応だろう。


「でも、まだ遅くない……か」


テレビ画面には別のアーティストがもう歌い始めていて、あのバンドはもういない。


「もし、時間を有効活用できていたら、俺も、あんた達みたいに、なれたのかな………」


その言葉は、誰にも聞かれる事なく、部屋を反響して消えていく。


希望、その言葉は今の俺には不相応だろう。

ひょっとしたら今から頑張っても、その言葉に相応の人間になれないかもしれない。


いままで、その場のノリや、格好を気にして適当に生きてきて、その結果、諦めた。


周りの言葉に耳を貸さずに、常に自分が誰よりも優れていると考えて生きてきた、そして、俺は自分の小ささに気づき、諦めた。


なら、今回は偉大なる先人の言葉を信じてみるのも悪くないか。


「遅すぎることはない………そうだよな」


そう言って、久々に部屋のカーテンをあける。

時間感覚をずっと締め切っていたため無くしていたが、今はお昼らしい。


一年ぶりに開けるそのカーテンからは太陽の光が差し込む。

ろくに片付けもしてない、部屋は足の踏み場もないほど、汚く、俺の心を映し出す鏡みたいだった。

その部屋にいま、太陽の光が差し込む。


部屋に脱ぎ散らかっている服から、適当にパーカーを取り出し、それを着ると財布を掴み取りバックに詰め込む。


「よし、いきますか!」


まずは履歴書を買うところから始めよう。


次は面接に応募してみよう。


受からないかもしれない、でも諦めない。


偉大なる先人は、言っていた。


『まだ遅くない、踏み出す意思があるのなら、歩き出せ! 希望にむけて!』


少し遅いかもしれない、でも。


それでも……俺はもう諦めない!。





家を出て、一番近いコンビニに足を運び、履歴書を購入する。

久々の日光は、いままで、逃げ続けた俺に罰を与える様に降り注ぎ、肌をジリジリと焼く。


7月も後半、太陽はこれでもかと自己主張を続けていた。


それにしても暑すぎるだろ、熱中症で倒れるご老人が多いのも納得だわ。


頭上で輝く太陽は何にも遮られることない熱を発しており、一刻も早く、クーラーの効いた家に戻りたいと思ってしまう。


そんな俺の帰路を塞ぐ様に、信号は赤になる。


おいおい、嘘だろ、なんでこのタイミングで赤になるんだよ。


仕方ないので、ボーッと立ったて信号が変わるのを待つしかないない。


たしか、この交差点を最後に渡ったのは2年前だったよな、その時は冬だったけど。


最後に外出したのは2年前の冬で、これもコンビニに行ったのが目的である。


それにしても、変わらねぇな、この辺り。


そう思いつつ、周りの景色を最後に見た景色と重ねる。

道路の歩行線が新しく塗り直されてる以外に、特に変化は見られない。


道路の反対側にはこの近くにある、俺の母校の制服に身を包んだ、部活帰りだと思われる女子がいて、その女子の制服の着崩し方を、昔とかわっていなかった。


ははは、これも伝統とか言うやつか?


懐かしい記憶が蘇る。

周りの人に合わせていた当時、自分をより大きく見せる為に、外見だけを変えて、自分より下の者を作り、そして、自分はより上の人間の顔色を伺う生活。

その時にクラスのトップカーストに居た女子もたしかあの着崩し方をしていたはずだ。


今にして思えば、本当にバカだよな俺。

クラスカーストなんて気にしないでも、学校を卒業したらそんなの無くなるのにな。

あの時はその空間が全てで、そして、その空間が永遠だと思っていた、そんなはずないのに。


思考を割いていると、異変に気付く。


反対側にいる、その女子はスマホを見ながら、移動していたため、赤信号に気づいていないのだ。


そして、間が悪い事にトラックが猛スピードで走ってきている。

よく運転席を見てみると、ご老人が突っ伏していた。


嘘だろ⁉︎ まさか熱中症でやられてるのか?


「おーい! そこの君! 車が来てるぞぉ!」


慌てて、女子高生に向けて叫ぶ。


「へっ?」


その声に気づいて、女子高生は顔をあげて、トラックを確認するが、猛スピードで向かってくるトラックの脅威に腰を抜かしてしまう。


「クソがっ!」


それを見て、俺は即座に走り出す。

ここ最近、まともに運動してこなかった体に鞭を打って足に力を込める。


間に合わないかもしれない。


走り出すのが遅かったせいで、間に合わないかもしれない。


諦めろ、もう遅い、今更なにをやっても無駄だ。


そう頭の中で声がする。


「それでも………」


それでも俺はもう。


「諦めないっ!」


トラックがもうそこまで迫っている。

足に力を溜めて一気に飛び、女子高生を吹っ飛ばす。


「キャッ!」


ドンッ!


俺の体にものすごい圧力がかかる。

それと同時に体からも、すごい音がする。

その圧力により吹き飛ばされた俺の視界には、青い空が見えた。


「キャーーッ!」


悲鳴が聞こえる。

どうやら、あの女子高生は無事らしい。


なんだ、間に合ったじゃないか。

流石、偉大なる先人だ、その言葉に偽りなしだな。

ハハハと笑おうとするが、代わりに口からは血の塊が出てくる。


遅すぎることはないなら、今の俺でも届くかな、希望に。


さらに輝き続ける太陽に手を伸ばそうとするが、力が入らない。


やっぱり希望は遠いっすは、偉大なる先人さん。


そう考えて、徐々に視界が消えていく。



こうして、社会が俺を評価する情報に1つ項目が増えた。


後藤明道(ごとうあきみち)


性別 男

年齢 24歳

職業 自宅警備員

最終学歴 高校中退

年収 0円

享年 24歳


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