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カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第一章 邂逅-かいこう-一番
12/222

第12話 貴神高鬼-タカガミコウキ-

一十三と犬太の裏で動く一十三の父『桜統一郎』と小学三年『貴神高鬼』の話。まさに黒の組織的なポジションを持つ彼らはどんな目的で動き出すのだろうか・・・

「!」

 とある住宅マンションの091号室の寝室。そこで彼は目を覚ました。時計を見ると、深夜(しんや)零時(れいじ)四十分(よんじっぷん)丁度(ちょうど)一十三(ひとみ)(あんず)融合(ゆうごう)した時間である。

「・・・ついに始まったか・・・」


挿絵(By みてみん)

 彼の名は【(たか)(がみ)高鬼(こうき)】九歳。高鬼は今までずっと(いじ)められていた。玩具(おもちゃ)にされ、暇潰(ひまつぶ)しにされ、ストレスの()(ぐち)にされ・・・。最近親のノートパソコンを(のぞ)き、『いじめ』という言葉を知った高鬼は、調べれば調べるほど自分が虐められている立場なのだと自覚した。そして高鬼は、その立場から一刻も早く()け出したいと思った。

 だがどの方法を考えても、どれも自分には不可能であった。全体主義の世界である以上、自分がどんなに模索(もさく)しても、一人では絶対に(かな)わないのだと確信したのは、今から一年前のことであった。

「こんな世界じゃどう足掻(あが)いても無駄た。じゃあどうすればいい?」

 少年は考えた。しかしいい案が(まった)く思い()かばない。



―そんな少年の家にある日、五十代くらいの黒いスーツ姿の初老の男が訪ねてきた。丁度その(ころ)、高鬼以外の家族は買い物に行っていて家にはいない。なぜ高鬼だけ家に残ったのか、それは下校時間に毎日いじめが行われたため、他の生徒より一時間も(おそ)く帰るからだ。家族はそれについて一切聞くことはない。(いな)、そもそも両親は、実の子供である高鬼にはなんの興味もない。理由は一つ。高鬼の兄【(たか)(がみ)(ごう)()】十歳に全てを(そそ)いだからである。兄は天才肌の持ち主であり、貴神家の希望の星であった。高鬼などに注ぐ時間などあるわけもない。両親は高鬼に最低限のものを(あた)え、それ以外の全てを兄に(ささ)げてきた。結果、高鬼に対し『寄生(きせい)(ちゅう)』という名称(めいしょう)(さげす)み、兄からは『人間(ひと)もどき』と言われずっと笑われてきた。

 そんな貴神高鬼に対し、初老の男は頭を下げてこう言った。

「今君に()しいものをあげよう」

 そう言うと、どこからか持ってきたダンボール箱を少年に与えた。ダンボール箱を突然(とつぜん)(わた)され(あわ)てる高鬼に、初老の男は「軽いから問題ないよ」と言って玄関先まで置いてくれた。高鬼は「親に見つかったらどうしよう」と(おび)えていると、初老が高鬼の頭を()でて言った。

「物自体は小さいから大丈夫。君にとってとても力になる道具だ、存分に使ってくれ。お金も必要ない。箱はこちらが頂こう」

 高鬼は(おそ)る恐るダンボール箱の中身を取り出すと、現れたものは手のひらサイズのカメラだった。

「これ・・・」

「使い方はこれを読んでくれ。私はもう帰るから、何かあったらこのメモに連絡(れんらく)するといい」

 初老の男は名刺を渡し、そのまま家を去って行った。高鬼はそういえばまだ名前を聞いていなかったと思い、玄関のドアを開けて見渡したが、もう男の姿はどこにもいない。仕方なく名刺をみると、こう書かれていた。


人間(にんげん)救済(きゅうさい)組織(そしき)『NBT(名前募集中)』社長・(さくら)(とう)一郎(いちろう)

挿絵(By みてみん)


 人間救済組織?

 初めて見た名前だ。だが救済ということは僕を助けてくれるのだろうか。この牢獄(ろうごく)から。だが高鬼は、初対面の相手に(もら)った(あや)しげなカメラを使うことはなかった。理由は金銭も受け取らず、物を与える人間ほど怪しい者はないからだ。カメラはそのまま自分の勉強机の(たな)に入れたまま、数か月の時が()ぎた。

 そして女子の転入生がやってきて、いつものように虐められて帰ってきた時、丁度電話が鳴った。またこの時も両親も兄もいない。高鬼一人の時だった。高鬼は早速電話を取ると、出てきたのは一年前にカメラを渡したあの男の声だった。高鬼も随分(ずいぶん)(むかし)のことだったので(わす)れていたはずだったが、何故(なぜ)かあのカメラとあの男の顔が(いま)だに忘れていなかった。あのブツブツの顔、大柄(おおがら)な外見、そして優しい目つき。少しずつ昔の情景を思い出していった。

「君が帰ってくるのを待ってたよ」

 一年前の時と変わらない声。だが高鬼は警戒心を(ゆる)めることなく、(きび)しめの口調(くちょう)で言った。

「・・・何の・・用ですか?」

「そうだったね。それよりも君のクラスで転入生が来たはずだ」

 何故知っている?いや、近くに住んでいるのだろうか。そう言えば一年前も、高鬼のことを知っている口振(くちぶ)りだったのを高鬼は思い出した。

「・・・はい」

「それは私の(むすめ)だ」

「・・・それが?」

 高鬼は一瞬(いっしゅん)(おどろ)いたが、だからどうしたと思い淡々(たんたん)と答えた。が、統一郎のその後の言葉に、高鬼は戸惑(とまど)うことになる。

「君のカメラで()ってくれないだろうか」

「・・?どうして」

「そのカメラは所有者を選ぶ。そして君が選ばれた。だからそのカメラを(あつか)えるのは君だけなんだ」

「撮ってどうするの?」

「それは・・その時が来てから教えよう」

「・・・撮るだけでいいの?」

「ああ、撮るだけでいい。後は君の好きな用途(ようと)で使えばいい。彼は君に使われるのを望んでいるはずだ」

「・・・カメラの気持ち分かるの?」

「道具には生き物同様命がある。心もある。(ちが)いもある。そのカメラにもね」

 高鬼はふとダンボール箱を開け、カメラを取った。するとカメラの下から(うす)っぺらい一枚の説明書がひらりと落ちた。高鬼はそれを取ると、適当に読み始めた。

「ふーん、説明書を見たんだけど、間違えて撮った時の消した方がわかんないんだけど」

「そうだね。残念だがそのカメラに削除(さくじょ)機能(きのう)はない。唯一(ゆいいつ)あるとすれば撮られた者が死んだ場合だけだ」

 〝死〟という言葉に一瞬(いっしゅん)だけ反応した高鬼だったが、他人の命など関係ないと思い無視した。

「そう・・・ならいいや」

「君の健闘(けんとう)(いの)るよ」

「うん。もう目的が見つかったから、後は準備するだけだよ」

「ああ、後は頼んだよ、貴神君」

 高鬼はもう一度説明書を読み、ある決断をした。

このカメラに撮られた人の夢を(あやつ)ることが出来る。そしてもう一つの力があって、撮られた者は一定数を統一することができる力が(いちじる)しくアップする。つまり撮った人を神様的存在に操作することができるということだ。

(そして(ぼく)自身(じしん)がその神様を操る『真の神様』となる。いじめられる立場の僕が神様になる・・・)

まさにスッポンから月になるように・・・高鬼はカメラを見た。何の変哲(へんてつ)もないただのカメラ。だが統一郎が言うように、本当にただのカメラではないのだろうか。いや、今の高鬼にとってそんなことはどうでもよかった。

(僕が神様になっていじめをなくすことができるかも知れない・・・)

 高鬼の眼光(がんこう)が決意の(かたまり)に変わった瞬間だった。



―そして今、高鬼は夜の道を()けた。そして学校の近くまで辿(たど)()くと、素早(すばや)く赤い炎の中にいる一十三を撮った。

―カシャッ

 一十三を撮ったカメラを持つと、一十三の行動や思考が手に取るように分かった。一十三は僕と同じ虐められる側の人間だ。もし僕が神様になれば救えるだろうか。

だがその前に一十三は変わった。杏の力によって・・・

 高鬼はカメラ()しで感じ取ると、自分のことのように喜んだ。

 いじめという凶悪(きょうあく)犯罪者(はんざいしゃ)果敢(かかん)に立ち向かう一十三を高鬼は応援した。

 一匹(いっぴき)(おおかみ)である【大原(おおばる)(けん)()】はいつも僕を助けてくれた。だが助けただけだ。それだけじゃあいじめは無くならない。僕が変わっても何も変わらない。ならばこのカメラを使おう。このカメラを使えばいじめを無くせるかも知れない。犬太もその時救えばいい。きっと僕に感謝するはずだ。


・・・そう、いじめられっ子が世界を変えるんだ!


 高鬼は不敵(ふてき)な笑みを浮かべて、心の奥底(おくそこ)(さけ)んだ。


統一郎の思惑と貴神高鬼の思惑が合致した時、カメラの力は途轍もない力となって未来の地球に大きなダメージを与えることになる。それはまたいつか書き残すであろう・・・

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