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カミラギ・ゼロ~神螺儀・零~  作者: Sin権現坂昇神
第一章 邂逅-かいこう-一番
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第13話 杏 一十三 後篇

ここから始まる犬太と一十三(杏)の逆襲劇をお見逃しなく・・・さあ起承転結の転もいよいよ終盤。第一章の終わりも近いので、ここからはノンストップ!

(きゃあ!)

 体重をかけて飛び上がった一十三の体はヘリの跳んでいた高さのさらに上を越えた。杏は風を感じながら「気持ちいい!」と歓喜を上げ、一十三は仰天(ぎょうてん)してあまりの高さに顔を(おお)い隠した。

《なんだ?高いとこ苦手か?》

(・・・うん、早く降りてよ!)

《ふーん、しょうがないなあ・・・よっと》

 杏は少し残念がってそのまま下に下りた。その高さから落ちたはずなのに、地面に着く衝動は普通の高さから着地したような衝撃なのだ。

「どういうこと?」

《ん・・・とね、俺は兎みたいにどこでもぴょんぴょん跳ねるんだ》

「・・・跳躍力(ちょうやくりょく)が凄いって事?」

《ん?・・・・難しいことよくわかんないけど、つまり傷が治るだけじゃなくてうさぎみたいにぴょんぴょんできるってこと》

(へえ・・・・もしかして兎の妖精的な?)

《・・・・違う・・・・ような、違わないような・・・俺もよくわかんねえんだ。ずっと月にいたからな》

(え・・・月?)

 一十三はこの言葉に一番驚いた。

《そんなに驚くことか?》

(いや・・・だって月だよ!・・・わたし遠くからしか見たことないから)

《ああ・・・んじゃいつか一緒に見ような》

(・・・いいの?)

《ん?・・・行きたいんじゃないのか?》

(・・・行きたい・・けど)

《そんじゃ、決まりだな!》

 杏は一十三の体でサムズアップ(親指を上につき上げてほかの指を握る形)をした。

 その時、バールを二刀流した昂が一心不乱に振り回してきた。杏はひらりひらりと風のように(かわ)し、昂の目の前から大きく跳んで後ろに回った。

《背中が留守ってるぜ!(背中がお留守だぜ!)》

 杏は笑みを浮かべながら昂の背中を取った。そしてそのまま片腕を掴んで思い切り背負投を食らわした。

「うわあああ!」

 昂は情けない声を上げながら数十メートル先まで弧を描いて飛んでいった。そして(むご)い音を放ち着地した。多分背中から落ちたことで脊椎(せきつい)の骨が何本かいったのだろう。

《一本取ったぞ、見たか桜!》

(まだ生きてる・・・)

 一十三の言う通り昂は骨が折れた体を無理やり動かして起き上がった。だが背骨の骨が折れていたことで上手く体勢が取れない。このままでは死んでしまうと思った昂は、懐から携帯電話を取り出し何かを呟いた。そして不敵な笑みを浮かべた昂はこう言った。

「もうお前らは終わりだ・・・はっはっは」


―ドサッ


 昂は(こと)切れた。多分死んではいないはずだが何か心残りがある。

 と思ったその時、グランド上に続々と逃げたはずの取り巻きと見たことのない緑色の服を着た新勢力が犬太と一十三を取り囲んだ。

(これは・・・)

《まだいやがったか・・・俺もまだまだ物足りなかったんだ!》

(ちょっとまって・・・どんなに強くてもこんな数を一人でなんて・・・)

《やってみなきゃわからねえだろ・・・・こい!》

 そして第二ラウンドが始まった。

《おらららららららおらあああ!》

 最初は一十三の怒涛(どとう)の攻めを見せた。だが相手は大人数でさらにバールや金属バットや(かな)(づち)、そのほとんどが長くて固い棒のようなものばかりだ。どんなに長いジャンプでも着地する場所に()く取り巻きが棒で攻撃してくる。さすがの一十三も少し面倒くさい感じが伝わってくる。

(もう犬太君と逃げようよ・・・危ないよ・・・)

《犬太・・・あ、そういえば!あいつどこだっけ?》

(え・・・・それはあっちだけど)

 杏は突然急いで犬太のいる方に走り出した。

(どうしたの?)

《今あいつボロボロだろ?もしこいつらがまだ犬太に攻撃するってことも》

(!・・・犬太くんが危ない!)

 杏の思っていることがやっと伝わったようで、一十三の不安が一気に沸き上がってくる。

 犬太のほうを見ると既に取り巻きに囲まれ、更なる暴力を受けている痛々しい犬太の姿が目に入った。

(早く!)

《あいよ!》

 一十三は犬太に群がる取り巻きを華麗な回し蹴りで一掃(いっそう)すると、犬太は再び意識を取り戻した。

「俺・・・は・・・」

(犬太くん!)

《大丈夫か?》

「お前・・・何で」

(杏、早くここから離れなきゃ!)

《・・・》

(杏!)

《・・・それは無理な相談だぜ・・・》

 杏は苦虫を噛むような顔で周りを見渡していた。そう、既に周りには大勢の取り巻きが獲物を見るような目で一十三たちを取り囲んでいた。まさに台風の目のように。

「早く・・俺を置いて・・・」

「ダメ!・・・・ダメだよ・・・」

 一十三は泣いていた。もうどうしようもない状況で何か方法はないか考えながら。確かに犬太が言ったように置いていけば逃げ切る方法が一気に広がるだろう。だが一十三には絶対してはいけない方法であり、それをすれば一十三の存在が崩れ去ってしまうことは目に見えているから。

(犬太くんを助けたい・・・!)

《そんなに助けたいのか?・・・・うーん、助けられなくはないけど》

(え・・・本当?)

 (わら)にも(すが)る思いで杏にすがり付く一十三に(いぶか)しげに口を開いた。

《俺の唾液(だえき)は傷を治す力があってさ・・・・()めて治すけどいいのか?》

「え・・・・ええ・・・・」

 一十三の思考は一気にピークに達した。もちろん不安などというマイナスな気持ちなどではない。

『杏が自分の体を使って犬太を舐めて傷を治す』

この文章で一十三の今までの苦悩が吹っ飛んた。自分の体で犬太を舐めるのを見る自分を想像してみてはどうだろう。恥ずかしさで軽く胸が張り裂けるレベルの(いき)だ。それが今一十三が(おちい)っている事態なのだ。そしてピークを越えた一十三の思考は新たなる境地へ向かっていった。そして一十三はある答えを出した。

(私の左ポケットのハンカチに唾液を乗せて吹いてみてはいかかでしょうか)

《?・・・まあそれならいいけど》

 ぐちゃぐちゃ考えた結果一十三の震える口から出た答えだったが、杏も他人を舐めるという行為はできればしたくないのだろう。一十三の意見に賛同してくれた。

 早速取り出したマグロ柄ハンカチに唾液を垂らす。そして一十三の指示した通りに一番ひどい部位にそのハンカチをつけた。この行為だけでも結構堪(こた)えるもので、たじろぎつつも部位を見るためにちらりと指の隙間から透かして見ながら伝えていた。ハンカチをつけた部位はみるみる傷が治っていく。骨でさえも一瞬にして修復していった。

「身体の痛みが・・・・」

次々と治っていく体に驚きを隠せない犬太。

(本当に治っていく・・・)

 一十三も犬太と同じ反応を見せた。杏は「どうだすげえだろう」と自信を取り戻していくのがわかった。

《わかっただろ、俺の凄さ!》

(うん・・・凄いよ・・・杏)

 そしてハンカチを付ける行為を繰り返していき、遂に全快した犬太の体。試しに腕をひと振りすると筋肉や骨、神経の感覚が蘇っていく。

「まじかよ・・・・桜、お前・・・すげえ奴だな」

《へへっ・・・そうか・・・・まあ俺は杏だけどな》

「杏?・・・んなことはどうでもいい・・・・さて」

 周りの取り巻きを眺めて笑みを浮かべて言った。

「こいつら何人倒せるか勝負しようぜ、桜」

《ハハ・・・それいいな。やろうぜ犬太!》

「んじゃ」

《行くか!》

「《はああああああ!!!》」

 杏と犬太はこの四面楚歌(しめんそか)(二人)の窮地(きゅうち)に、歓喜の声を上げ(にじ)みでた狂気や殺意が本能として二人が戦場に羽ばたいた。

 二人はまさに嵐と嵐。風と風が取り巻きを巻き上げ吹き飛ばす。武器など無用、暴力などさせない。させる前に弾き飛ばす。総勢数百人相手に完全に二人のフィールドと化した。

「・・・・すごい」

一十三は見入っていた。私じゃ絶対犬太くんをあんな笑顔にできない。自分がこんなところでじっとしていることしかできないことに、置いてけぼりにされていることに大いに後悔した。

 ふと犬太を見ると元気にあらぶっていた。

(犬太くんがあんなに元気なのも杏のお陰なんだよね。・・・)

 犬太が元気で飛び回る姿を喜ぶとともに、自分の無力さに絶望した。

《なんだよそれ、お前のお陰で俺がこんなに遊んでられるんだぜ。少しは胸張()れよ!》

(でも私じゃなくてもよかったってこと・・・だよね)

《そんなわけねえぞ!俺が誰でもこんな力使うわけねえじゃん!》

「・・・え」

《俺はお前だから乗り移ったんだ。俺みたいな奴が他人に興味持つってすげえことなんだからな!そんなにしょげるなよ・・・こっちまでやる気なくすぞ》

 言葉通りに若干(じゃっかん)勢いが落ちた。

(・・・(はげ)ましてくれてるの?)

《ん?・・・んまあそんな感じかな・・・励ましたことないからわかんなかったぜ》

(クスッ・・・ホント変な妖精さん)

《なっ、妖精じゃねえっていってんだろうが》

 一十三の調子が段々良くなってるのを感じて、杏の勢いもまた上がる。

「桜!あと十人だ!」

《おう!分かったぜ(桜じゃないけどな)》

(でも犬太くんから見れば私じゃないかな)

《ああ、そうか。そうだったな・・・ってなわけで最後の追い込みだ!》

 犬太と杏は今まで体力の(おとろ)えを知らずにラスト十人相手に更なる力を(みなぎ)らせて襲いかかった。相手はたった二人にここまで圧倒されるとは思わなかったので呆気(あっけ)に取られたまま二人の猛攻(もうこう)を受けることになった。

取り巻きA「なんだよこいつら・・・」

取り巻きB「化物かよ・・・」

取り巻きC「俺たちの出番が」

取り巻きD「人間のレベル超えてる・・・」

・・・

・・

 最後の最後にまた更なる疾風(しっぷう)怒濤の(あめ)(あられ)。取り巻きたちは舞い上がり(かま)(いたち)に切られたように、どこからともなく台風の目の中で切り刻まれていく。もちろん二人は武器など使ってはいない。杏も多少跳躍力や力が向上したとは言え、犬太の足元にも及ばないがそれでもお互いがお互いをフォローし合っているため弱点が見つからない。

取り巻きE・F「「うわああああ!」」

 捨て身で武器攻撃してくる相手も嵐の前ではねずみ同然。最後には同じように取り巻きは空の上に飛んでいった。

(何で初めてなのに犬太くんと息が合ってるの?)

《?・・・ああそれはな・・・・お前の気持ちの問題なんだ》

(え・・・?)

《だからお前が犬太を想えば想うほど凄いコンビネーションが発揮されるんだ》

「へえ・・・・私そんなに想ってたんだ・・・」

 一十三は自分が犬太を好きだということをまだ理解していたないので、杏の言葉の意図がよくわからなかった。

「いっくぜラスト一人!」

《それは俺んだー!》

取り巻きG「もうやめてくれー」

 情けない声を吐きながら取り巻きは二人の同時攻撃を見事に受け地面に突っ(つぷ)した。

杏と犬太の楽しそうなこと。一十三が杏に嫉妬してしまうのも分かる。杏は大きく動くのが好きで、アウトドアはやっぱりサッカーやバスケが大好きらしい。

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