第77話
「宮司様や来丸様も流石はNESTの殺し屋と言った技量ですが、愛瀬様は更にその上、青葉様では太刀打ちなど無理ですわね」
「愛瀬さんはそんなに強いんですか……鶴賀さんが愛瀬さんは自分と同じくらいの強さといってましたが、亜弥さんよりも強いんですか?」
その質問をした瞬間、私は質問を誤ったことに気づいた。
亜弥は眉をピクッと震わせ、妖艶な笑みを浮かべた。
「私が、愛瀬様程度に負けるとお思いですか?」
組んでいる腕に力が入っているのが、服の皴から分かった。
これは怒っているな……。
「思いません。さっきの動きで亜弥さんの技量は分かりました。
裏の世界でもあれだけの動きを出来る人はそうはいませんね」
私の周りにいる人外の人間達なら軽く行えるだろうが、ここは亜弥の機嫌をとるためにも、私は亜弥の太鼓を持った。
「そうでしょう」と、亜弥は組んだ腕を解き、前髪を掻きあげると、「私は神と言われる、姫路叡山の血族ですのよ。殺し屋風情に遅れをとるはずがありませんわよ」と、自信にみちた笑みを浮かべると、立ち上がりグいっと顔を近づけてきた。
「おちびさんも裏の世界で生きていくのなら覚えておきなさい、いずれこの街を治めるのは、姫路家が長女だと言う事を。神が誰なのかと言う事を」
まるで自分も神であるような、言い草だった。
犬山の話では姫路叡山の子は皆亡くなっているらしく、残されたのは姫路姉妹だけらしい。
つまり、いずれは長女の亜弥が――正しくはその婿だろうが――鳳凰會を率いる立場になると言うことだ。
だからこそ、この発言ができるのだろう。
真摯に語る亜弥の瞳は一点の曇りもなく、真実だと語っていた。
「お姉様、話が逸れております」
熱く語る亜弥に沙弥が声をかけると、「私としたことが、熱くなりすぎましたわね。失礼」と語り、椅子に座り直すと、「それで、どこまでは話しましたかね?」と、私に聞いてくる。
「青葉さんが犯人の可能性は低いと言う話までしましたね」
「そうでしたわね。私は不用意な拷問に、技量不足、この二点から青葉様を犯人から除外してもいいと考えておりますわ」
不用意な拷問の点に関しては私も納得した。
拷問とは何らかの情報を仕入れたいから行うものだ。
NESTの情報を知りたいならば、もっと上層部の人間に行なえば良い話しだし、こんな教室で行なわず、来丸が一人になる瞬間を探し、攫うなり、監禁し、じっくり情報をしいれば良い話だ。
他に十五人も殺す必要はないだろう。
けれど、技量の点に関しては鵜呑みにするわけにはいかないな。
鶴賀が言ったように強いが弱い事はあっても、弱いが強いなんていうことはないのだから。
青葉が本当はどの程度の力があるのか見極めない限り、結論を付けることはできない。
「青葉さんが犯人でないとするならば、誰が十六人もの人を殺したと考えているんですか?」
「簡単ですわよ。犯人は……」
亜弥はまた妖艶な笑みを浮かべ、「いませんわ」と答えた。




