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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第3章 犬山明日葉と学園
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第39話

 犬山の背中を追い、教室の前まで来ると、急に緊張してきた。


 私の役目は学園に潜入し、犯人を見つけ出し暗殺の場を整えることだ。


 潜入捜査をするうえで最も大事な事、それは疑われずに懐に入り込むことだ。その為にはこのファーストコンタクトが大事になる。

 ここからは与えられた身分を演じなくてはならない。私はNESTの護衛だと、自分に言い聞かせ、気持を作る。


「エリちん立ち止まってどうしたんすか?」と、扉を前に立ち止まる私に、背後から話しかけてくると、「緊張してるんすか?」と、続けた。


 そうです。緊張しています。


「最初の挨拶は緊張するもんすけど、女は度胸っすよ」

 そう言うと、背後から手を伸ばし、扉に手をかけた。


「えっ、まだっ――」

 静止する言葉もむなしく、扉は勢いよく開かれた。


 まだ心の準備が出来てないのに。


「ちょっとごめんっすよ」と言い、私の横をすり抜け教室に入っていき、教卓の前まで歩いていくと、「みんな注目っすよー」と、注目を集め、私を手招きした。


 気持を作っている時間なんてなかった。


 入り口で立ち尽くしている私に視線が集められ、思わず顔を伏せてしまった。

 目立つ潜入捜査なんて聞いたことない。

 目立たず、ひっそりと調べていくはずだったのに……。


 中々入ってこない私に、「エリちん早く来るっすよ」と、犬山が呼びかけてくる。


 えーい。女は度胸だ。


 意を決して顔を下げたまま教室に踏み込んだ。

 NESTの護衛としての挨拶は出来ていないが、勢いで乗り切ろう。


 そう決め、顔を上げようとした瞬間……体を殺気が包み込んだ。


「……ッ!」

 思わず足が止まった。


 背筋にはぞわぞわと悪寒が走り、体が重くなり、その場にひざまづきそうになる。

 ウサギが獅子に爪で押さえつけられたときのような、暴力的な圧力を感じた。


 私の体を恐怖が支配し、心臓の鼓動が早くなり、足ががくがくと震えだす。


 息がしにくい。

 呼吸ってどうするんだっけ? 


 息を吐くことはできるというのに、吸うことができない。

 苦しい。


 ここにいたくない。

 一分一秒でも早くこの場を離れたかった。


 恐い。


 間違いなくいる。この中に殺人鬼が。


 顔を動かさずに、視線だけを左に送った。


 椅子に座る、五人の少年少女が見えた。


 誰だ。誰がこの殺気を放っているのだ。

 殺気の出所を探ろうと、感覚を研ぎ澄ませようとした……瞬間、体が急に軽くなった。


 殺気が消えた?


「どうしたんすか?」と、犬山が何事もなかったように聞いてきた。


 どうしたって、とてつもない殺気を感じただろうに、何を言っているんだと思ったが、私の口から出た言葉は、「……えっ」だけだった。


 犬山だけではない。

 少年少女も急に立ち止った私に、何事かと、怪訝な目を向けていた。


 誰も気にしていない?


 いや、違う。


 誰も気づいていないんだ。

 今の殺気は、私一人に向けられた殺気だ。


 しかし一人だけに殺気を向けることなど可能なのか? 

 

「顔真っ青っすよ。そんなに緊張していたんすか?」


 心配したように、犬山が私の背中に手を添えてく。

 手を触れた瞬間、私の鼓動の強さと早さに気づいたんだろうか、猫目を見開き私を見つめてくる。


「大丈夫です。挨拶の内容が飛んじゃって、少しパニックになっただけです」

 無理やり笑みを作り、犬山の横を通り過ぎる。


 一歩ずつ歩きながら、呼吸を整える。


 大丈夫だ。

 もう呼吸は出来る。

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