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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第2章 十鳥日向子と依頼
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第37話

 薬殺。薬を使い殺すということだ。


 今回の事件では全員刃物で殺されているので、死因は刃物による刺殺か斬殺だろうが、薬剤を使い動きを止めることもできる。


「ご名答っす」と犬山は答えると、推理を披露し出した。

「例えば無味無臭の睡眠薬を飲ませて、みんなが寝たところをナイフでぐさり……」と、犬山は突如口を紡ぐと、「ってそれはないっすね」と、自身の推理を否定した。


「無理ですかね?」


「例えばエリちんは、クラスメイトみんなに飲み物を配りだしたら飲むっすか?」


 飲まないだろうな。さすがに怪しすぎる。


 同じ鳳凰會傘下の生徒ならともかく、他の組の生徒は飲むことはないだろう。


「それなら、強力な麻酔を室内に散布すれば、一瞬で眠らせることも出来るんじゃないですか?」


「面白いっすけど、そんな強力な麻酔は存在しないっすし、証拠が残ってしまうすっよ」

 私の頭の中では、スプレー缶のようなもので薬剤をまくところを想像していた。


「缶とかなら、バックに隠せるんじゃないですか?」


「容疑者六人は全員、荷物チェックを受けているっすよ。誰も缶どころか薬品も、血の着いた凶器も、濡れたタオルやハンカチも持ってなかったんすよね」


 手荷物検査を受けたとなると、薬殺説は難しそうだった。

 それにしても血のついた凶器や濡れたタオルとはどういうことだろうか?


 疑問は持ったが、重要そうな事と思えなかったので、私は話を流した。


「みんなが口に入れなくちゃいけないようなものなら、胃の中に証拠が入って完全犯罪達成なんすけどね」


「司法解剖はしないんですか?」


 胃の中に薬物が入っても、解剖すれば見つかるのではないか?


「表に出せない事件っすし、組に監察医はいないっす。闇医者では毒物や薬物の検出は難しいっす。それに、今回は刃物を使って殺しているっすから、解剖を行なおうともしなかったす」


 裏世界は表の世界の影響を受けない。

 つまり司法の介入はないと言うことだ。


「薬物を飲ませる方法が判明すれば、青葉を疑うことも出来るんすけど、うちは別の事が気になるっすね」


「別の事というと?」


「生き残った理由っす」


 生き残った理由?

 ダメだ私の推理力では、犬山の言いたいことが分からなかった。


 相槌を打つだけの、名探偵の助手のようになってきた。

 推理を披露する犬山に、「凄い」、「さすが先生」と言ったほうが良いのか?


 とりあえず、「と、言うと?」と、聞いてみる。


「事件が起きた時、青葉は一人、図書室で本を読んでいたらしく、アリバイがないんすよ」


 一人で図書室にいたとなると青葉が一番怪しく感じてきたが、親族や恋人の証言が当てにならない点を考えると、疑わしさはみんな一緒か。


「唯一、一人でいた事を考えると、うちは青葉生き残ったのは偶然じゃなく、必然な気がするっす」


「それは犯人だからと言うことですか?」


「違うっす。犯人は最初から、青葉を殺すつもりはなかったと言うことっす」


 殺すつもりがない? 

 十六人の人間を殺したと聞き、私は初め猟奇殺人が起きたと考えていた。

 手当たり次第皆殺しにしたと。

 けれど犬山の考えでは、青葉だけは初めから、殺す対称に入っていなかったということになる。


「それは、何故ですか?」


「うーん。今話してあげたいんすけど、ここから先はエリちんに先入観を持たせそうなんで、エリちんが青葉と話してから、うちは伝えるっす。時間も限られてきたっすからね」


 そう言われ私は視線を時計に落とす。まもなく一時間目が終る時刻だった。


 犬山の口ぶりでは青葉が生き残った理由に、犯人を探し出す手がかりがあるように感じた。

 もしかしたら犬山には犯人の目星がついているんじゃないのか?


「犬山さんは……犯人が誰だと考えていますか?」

 時間もないので率直に聞いてみる。


「それはうちの口からは言えないっすよ」


「どうしてですか?」

 犯人が分かれば、事件は解決する。


 殺人鬼がいなくなれば、平穏が訪れるというのに、犬山は話そうとはしなかった。


 ただ、「察してくださいっす」と、言うだけだった。


 察する? 

 犬山が犯人の名前をいえない理由とはなんだ?


「さて、そろそろ教室に向うっすかね」と言うと、「最後の容疑者の紹介をしたら」と、続けた。


 最後の容疑者という言葉を聞き、私は察した。

 忘れていたが、犬山も容疑者だったのだ。

 犬山の言葉に従い犯人を殺しても犯人を殺しても、依頼者は納得しないだろう。

 亡くなった生徒の在籍している組も納得はしない。


 私は私で犯人を捜さなければならないのだ。


 犯人探しを一人で行なう覚悟をし、「お願いしますと」と、最後の容疑者に言った。

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