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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第2章 十鳥日向子と依頼
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第30話

「ありゃありゃ、気づいてたんすか?」と、言葉とは裏腹に驚いた様子も見せることなく、平然と言ってきた。


「ええ。最初から気づいていました」


 テスト終了。つまりは私の実力を測っていたのだ。


 彼女は左手でナイフを振るっていたが、ホルスターは右足に着けていた。

 通常ホルスターは利き手側につけるものだ。

 つまりは犬山は右利きのはず。


 それなのに、左手でナイフを持っていたという事は、ハンデのつもりだったのだろう。


「ナイフを持つ手も、殺気もなかったですからね」

 そもそも、本当に殺す気だったのなら、私にナイフを取らせなどしなかっただろう。


「ふむふむ。観察力にとっさの反応は丸なんすけど、戦闘技能が今ひとつっすね」

 犬山によるテストの採点が行なわれた。


 

 任務を実行するだけの力があるかどうか見るため、依頼主が殺し屋の技能を試すこともある。

 力のない殺し屋に任務を依頼すれば、失敗するのが目に見えているからだ。


「あの十鳥日向子が仲介した殺し屋が来るって聞いて、楽しみにしてたんすけど、がっかりっす」と、落胆し肩を落とした


 テストの結果は不合格らしい。


「エリちん……歌波エリなんて聞いたことなかったっすから、どんな秘蔵っ子が来るのかと思ってわくわくしてたんすけど……がっかりっすよ」と、また肩を落胆した。


 短時間で、二度もがっかりさせてしまった。

 私が悪い事をしたような気持になってくる。


「あの……」と、肩を落とす犬山に話しかける。


 呼びかけられた犬山は顔を上げるが、表情は暗かった。


「私は殺し屋じゃなく、殺し屋のパートナーなんですよ。情報収集や殺す状況をお膳立てするのが私の仕事で、殺すのは……私のパートナー、刑です」


 慰めるように呼びかけると、犬山は目を見開いた。


「刑って、波原刑。正真正銘の十鳥日向子の秘蔵っ子と言われる、波原刑っすかッ」


 ナイフを握りながら、目を爛々と輝かせ近づいてくる。

 殺されかけたつい先程よりも、今のほうが恐い……。


「刑の事を知っているんですか?」


「当たり前っすよ。殺しの世界に生きる人間なら知らないはずないっす。二年前に突如現れた新星っすからね」

 更に一歩近づいてくる。

「知らないやつはモグリっすよ」


 刑がそこまで有名だとは知らなかった。

 どうやら私はモグリらしい……。

 三年近く頑張ってきたんだけどな……。


「同業者殺しで有名だった、殺し屋燕尾を初め、何人もの殺人鬼や殺し屋を葬ってきたと言われているじゃないっすか。それに噂では、上官殺しの異名を持つ弘前を殺したのも、波原刑じゃないかと言われているっすよ」

 弘前のことがもう知られているなんて、組織の情報収集力に驚かされた。

「これだけ大物を殺しているというのに、その姿を見たものがいないなんて、あの秤恵美奈の再来だとすら言われているんすよ」


「秤さんも有名なんですか?」と、良く聞く名前が挙がったので、聞いてみた。


「エリちん秤恵美奈を知らないんすか?」

 信じられないと、瞳に書きながら、私に言ってくる。


「いえ、響さんから名前は良く聞くんですが、もう引退したらしく、会った事はないんですよ」


 弘前の件でも、依頼を完遂できる腕利きの一人として名前が挙がったことだし、実力があるのは良く知っていたが、喫茶雛鳥でも会った事はなく、響さんに聞いても、「もう殺しはしないから、エリちゃんが会うことはないかな」と、聞かされていた。


 

 納得したかなと、犬山を見ると、体をわなわなと震わせていた。


 この反応はなんだ?


「響って、猫屋敷響。十鳥の片腕といわれる、斬翼の響っすか!」


「斬……翼……?」

 厨二患者の付けたようなネーミングに驚く私。


「知らないんすか? 十鳥の翼の三翼と、斬術の斬を絡めて、斬翼と呼ばれていたんすよ! 知らないんすか?」

 知らないのかと二度聞かれたことから、知らない人間はもぐりと言われるような、裏世界では当たり前の事なのだろう。


「えっと、日向子さんも、響さんも以前はNESTに属していたのは聞いていましたが、その十鳥の翼とかは初めて聞きました」


 正直に答えると、「マジっすか!」と、驚かれた。


「はい」

マジです。


「マジっすか!」

 二度言われた。相当驚いているようだ。


「私がこの世界に入って三年なんですが、実際に働き出したのは刑と組みだした二年前からなので……まだ知らないことも多いんですよ」


「うちも三年すけど、先輩達から聞かされているっすよ。組織とフリーの違いなんすかね?」


「確かにそれはあるかもしれませんね。今まで組織と関わるような仕事をしてこなかったので、聞かされていなかったのかも知れないですね」


 多くの仕事をこなしてきたが、ほとんどは殺人を犯した裏の世界の住人の始末や、弘前のような密売人の処理だった。


 納得したのか、犬山は腕を組み、「なるほど」と、呟く。


 ちなみにナイフを握ったまま腕を組んでいるので、腕を今にも切りそうで、ハラハラした。


「ちなみにエリちんはNESTの社長の名前は知ってるっすか?」


 NESTは表の顔として、人材派遣会社をやっていて、ホームページも作られているので知っていた。


鷹弓妃弓(たかみひゆみ)社長ですよね」

 鷹弓社長はホームページに載っていた写真では、三十代の落ち着いた、穏やかな女性のように見えた。落ち着きのない三十代の日向子さんとは大違いだ。


「当たりっす。じゃあ前社長は知ってるっすか?」


「前社長は分からないですね……」と、答えながらも、なんとなくは予想していた。犬山の話し振りを考えると……。


「前社長は十鳥日向子っすよ」


 驚きはなかった。


 やっぱりか。

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