表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第2章 十鳥日向子と依頼
20/153

第19話

 中は狭く、壁沿いには棚が設置されていて、その中には、コーヒーの豆の袋や、サイドメニュー用の缶詰、日向子さん用の缶コーヒーのストック等が置かれていた。


 等と言ったのは、喫茶店業には使わない、大量のナイフや、拳銃、銃弾も置かれているからだ。

 喫茶店で使用する物品よりも、殺し屋家業で使われる、ナイフや銃弾の方が棚を占有していた。

 このバックヤードに入るのは初めてだったので、思わず辺りをキョロキョロ見回してしまう。


 そこで私はナイフの列に置かれた、一つの白い木箱に視線が止まった。ダンボールなども棚に置かれていたが、木箱はこの一つだけであった。


「なんだろう……」と、呟き手を伸ばしてみる。

 木箱に指先が触れる。

 肌寒いバックヤードに置かれていた為か、箱はひんやりと冷たかった。


 両手で掴み、箱を下ろそうとしたとき、「殺すっていただろうが」と、日向子さんの怒鳴り声が聞えた。


「……ッ!」

 どうやら響さんが覗こうとしたみたいだ。


 私は慌てて、箱を戻し、制服を掴み取る。


 早く着替えないと、覗かれるか、響さんの死と言う結末を迎えそうだった。


「急がなきゃ」と、着替えをし始める。


 中学校の途中で、この世界に飛び込んできていたので、制服は久しぶりだった。

 上着を脱ぎ、懐かしい気持で、白シャツに着替え、ブレザーを羽織る。


 サイズはぴったりだった。

 袖丈も、肩幅も、何から何まで採寸したかのようにぴったりだった。


「……」

 なぜピッタリなんだ?


 響さんが用意したといっていたが、私は響さんにサイズは教えていないし、そもそも自分でも知らない。採寸などしたことないのだから。


「……」

 考え出すと恐そうだったので、私は考えるのを止めた。


上を着終えた私は、黒のパンツ――この場合のパンツはズボンのことだ――を勢いよく脱ぎ、急いでスカートに手を伸ばす。


「……えっ?」っと、思わず声がでた。

 これを履くのか……。


 手に取ったスカートの丈は短く、履いてみたら太ももが露になる長さだった。


 今時の高校生は、こんな短いものを履いて歩いているのか?


 普段パンツスタイルの私としては、未知の領域だった。

 履くのが恥ずかしかったが、これを履かねば潜入することもできない。


「……よし」

 意を決して履いてみる。

「……ッ!」


 丈は膝上十センチほどで、露になった太ももがスースーした。

 今時の高校生は、こんな短いものを履いて歩いているのか!

 恥ずかしさのあまり、思わず顔を手で覆ってしまう。いや、覆うなら顔ではなくこの太ももか……。


 すると、コンコンと扉がノックされた。


「おーい。着替えは終ったかな? そろそろ響くん死んじゃうよー」

 私の知らないところで、日向子さんと響さんの死闘が繰り広げられていたらしい。


「あっ、今終るので、待っててください!」

 私は慌てて、靴下を履き替え、ローファーを履き、リボンをつける。


リボンの付け方は分からなかったが、この学園の制服は、ワンタッチで取り外しできる物だったので、簡単に付けられた。


 最後に紙袋の下に置かれた、バレッタを手に取る。


「うん?」

 バレッタには紙が挟められていた。


 その紙には『七つ道具その三』と、書かれていた。

 制服を七つ道具の一といっていたが、この様子だと七までありそうだった。


 バレッタを手に取り、眺めて見る。

「あれっ、これって……」

 眺めて見るまで気づかなかったが、このバレッタには秘密があった。


 七つ道具と言うのも、あながち本当かもしれない。


 私は備え付けられた鏡を見ながらサイドの髪を止め、髪形を整えると、脱ぎ散らかした服と靴を紙袋に乱雑にしまう。


 扉の前に立ち、チラリとスカートを見る。


 やっぱり短いな……。


 響さんにセクハラ発言されるのを覚悟し、扉に手を伸ばす。


 フーッと息を吐き出し、意を決して、店内に戻る。

 カウンターを抜けると、日向子さん、響さん二人の視線が来る。


 顔が、かぁーっと赤くなる。コスプレをした様な気恥ずかしさを堪え――コスプレをしたことはないが、きっとこんな感じだろう――ゆっくりと二人に近づいていく。


「おぉー」っと、日向子さんから歓声が上がる。


「似合っているよ」と、携帯電話のカメラを私に向け響さんが言う。


「撮らないで下さい!」

 スカートの裾を引っ張り、少しでも太ももを隠そうとしながら怒鳴ると、響さんは、「JK記念なのに勿体無いな」と、渋々携帯をしまう。


 JKって言うな。おっさんか。


 私が怪訝な目を向けると、響さんは私を下から上に舐めるように見ると、「あっ!」っと、声を出した。


 何か可笑しなところがあったんだろうか?


「エリちゃんダメだよ。シャツのボタンは上二つは外して、リボンを緩ませるのは常識だよ」


 そんな常識聞いたことはないぞ。


 それに、「二つも開けたら、胸元が露になるじゃないですか!」と、拒否すると、「あはは」と響さんは笑った。


「エリちゃんには露になる胸なんてないじゃ――」


「それ以上喋らないでください」

 胸を両手で隠し、響さんを睨みつける。


 胸がないわけない。胸は……多少はある……。

 うん……多少は……ね。


 あれっ? なんだか泣きそうだ。


「まぁまぁ」と、ここで日向子さんが仲裁に入ってくれた。

 同じ女として、私を庇ってくれるんだろうか?


 そう思っていると、思いも依らない言葉を発した。


「女子高生に関しては、響くんが一番詳しいだろうし、潜入するためにも、参考にしたほうがいいよ。エリちゃんだって、潜入がばれたら困るでしょ?」


 潜入がばれるのは、一番避けたいことだった。


 私は渋々、リボンを緩め、ボタンを二つ開ける。


 そもそも女子高生に詳しい三十代ってどうなんだ? 

 通報レベルのものではないのか?


「うんばっちり。これで応法学園の御坊ちゃん、お嬢様の中に入っても、違和感ないね」


「本当に大丈夫ですか? 変じゃないですか?」

 響さんは無視し、日向子さんに視線を送り聞く。


「うん。問題なしだよ。その格好にこの七つ道具その二を合わせれば、ばっちりだね」


 いつの間に持ってきていたのか、後ろの椅子に置かれていた、茶色のバックを取り出した。


 それは皮製の薄い通学カバンだった。


「指定のカバンがあるんですね」

 カバンの中を見て見ると、お弁当箱らしき袋と、ノートとペンが入っていた。用意周到だった。


「そうなんだよ。安全のためとは言え、その厚さじゃ、入るお弁当箱を探すのも、一苦労だったよ」


 指定カバンがある理由として、安全のためと言う理由の意味が分からず、「安全と言うと」と、質問をする。


「この大きさなら、持ち込める武器もある程度限られるでしょ?」


 カバンをもう一度見て見る。大きさはA4ノートが入るくらいで、厚さは十センチないくらいだろう。


「因みにエリちゃんは、武器は何を準備してきたかな?」


 椅子に置いておいたリュックを手に取り、中から二本のナイフを取り出した。


「初歩の斬術くらいしか使えないので、持ってきているのはこの二本だけですね」

 私はグリップまでシルバーに染め上げられた、バタフライナイフを日向子さんに見やすいように掲げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ