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ゴブリンキングをあっさりと打ち倒した次の日。

リクは図書館に来ていた。

ソラは相変わらず帰ってこないが、カミナに修業を付けてもらっているだけらしいから大丈夫なのだろう。


「おはよう、カンナ。」


右腕だけで十数冊の分厚い本を持ちながら受付で本を読んでいるカンナに話しかける。

それに気づいたカンナは本は閉じずに顔を上げる。

しかし、話しかけた人物に気付くと笑顔を浮かべて本を閉じた。


「おはようございます、リクさん。もう全部読んじゃったんですか?」

「いや、まだ全部は読んでいない。今日から一週間は暇になってしまったからな。」

「ゴブリンの王様と戦った時の怪我ですよね。」


その言葉に、リクの眉根がほんの少し上がる。


「昨日の事だったのだが、何でも知っているのだな。」

「噂話が聞こえますので。」


言い方に少し違和感があったが、誤差の範囲なのだろう。


「それで、今日は何を?」


カンナは首を傾げる。

一言少ない気がする。

しかし、先ほどの事も併せてこの娘の性格なのだろうと思い、リクは思考を脳の片隅に投げ捨てた。


「宿では少しばかりうるさいからな。静かなところで本を読みに来た。」

「そうですか。じゃあ、この前のソファで読みましょうか。」


そう言って、カミナは受付台の上の数冊の本を持ち上げ、受付から出てきて歩き出す。


「受付はいいのか?」


リクがカンナの背に、率直な質問を投げかける。

それに、カンナは上半身だけで振り返ると答えた。


「えぇ、大丈夫です。元々今日は私の番ではないので。」

「そうか、ならいい。」

「ふふっ、リクさんは誠実さんなのですね。」


誠実さんとは何なのか。


「いや、小心者なだけだ。」

「冒険者は少し臆病なぐらいが丁度いいみたいですよ。」

「そうか、それならよかったよ。」


先日と同じソファまでたどり着いたリクは、愛想笑いを浮かべながら座る。

その愛想笑いはとても上手く、カンナには見ただけでは見破ることが出来ないほどだった。

カンナもリクの隣に座る。


「リクさん、どれを読みました?」

「魔物大全と植物大全は少し読んだ。この町、ウェルミュレ付近の魔物と植物の種類は一通り覚えた。」

「この辺りだけといってもかなりの多さですよね?全部覚えたんですか?」


カンナは目を丸くする。


「ああ、一通りは覚えているつもりだ。」

「ふあぁ、リクさんはやっぱりすごい人なんですね。」

「そんなことは無いさ。俺よりもすごい奴なんていくらでもいる。弟とかな。」

「弟さん?」


カンナはまた首を傾げる。


「あぁ、俺もあいつみたいになりたいよ。」


またしても、リクは愛想笑いのようなものを浮かべる。


「リクさんはリクさんなんですから、弟さんと違っていてもいいと思いますよ?」


そんなリクにカンナは微笑んで見せる。


「そうかもしれないな。」


それでもリクの愛想笑いは剥がれなかった。


「そんな時は何も考えず、物語を読むのをおすすめしますよ。」


カンナは切り替えたのか、リクが借りていた本の山の中から一冊の本を引き抜いた。

その際、山が倒れそうになったのをリクはほぼ無意識に支えてあげていた。


「物語を?」

「えぇ、一章だけでもいいのでぜひ。」

「そうだな、どのみち一週間は暇なのだからな。読んでみようか。」


カンナから本を受け取る。

すると、カンナは満足そうな顔でまたリクの隣に座りなおした。

その時、ふと受付を見ると司書らしき人が座っているのが見えた。


その後、リクは静かに受け取った一冊の本を読んだ。

英雄ガンタの冒険。

たしかこれは図書館の蔵書ではなく、カンナの私物であったはずだ。

今それはあまり意味をなさないが。

あえて言うなら、内容がどんなに不快であっても破り捨てたりは出来ないということだろうか。

図書館の本もそう簡単に破りはしないが。


内容はというと、前世、前の世界にあったファンタジー小説とほとんど変わらなかった。

英雄譚。

サーガ。

他にも呼び方はあるのだろう。

ある村の平凡な男の子がある日、力に覚醒し、魔物に襲われそうになったヒロインを助ける。

それからは少年は冒険者を目指す。

目覚めた力を使い、次々と依頼をこなしランクを上げていく少年。

そんなある日、魔物が大量発生して少年は単騎飛び込んでいく。

少年は戦場の真ん中で、今まで一度も使わずに秘密にしてきた極大魔法を放つ。

魔物はそのほとんどが消え去り周りは荒れ地と化す。

しかし、そこに立つのは少年だけではなかった。

その者は、後に魔王と呼ばれる者。

この世界に五人しかいないと言われる、魔物たちの王の一人。

それを相手に、少年は魔力を大量消費した体で挑む。

しかし、魔王はそんなに簡単に倒せるようなものではなく。

少年はクレーターに体を埋め込んで意識を手放す。

それに怒ったヒロインは魔王に挑むも容易く無力化され拉致される。


そして、少年は青年に。

怒りと悔しさを背に、魔王城へと乗り込む。

激闘の末、魔王を打ち倒しヒロインを救出。

国民に愛された勇者は魔王城を基に新しい国を作り上げた。

それをオルカ―ヌ帝国という。

今でもオルカ―ヌ帝国は栄えているらしい。


「ありがとう、面白かった。」

「え?あっ、は、はい。すいません。」


リクはいつの間にか肩にもたれかかって寝ていたカンナの腕を軽く触って起こす。

カンナは慌てて垂れた涎を拭いていた。


「もう夕方か。今日もソラは帰ってこないか?そうだ、カンナ、銭湯に行かないか?」

「こんな時間からクエストですか?」

「いや、お風呂の方だ。」

「あぁ、銭湯ですか?それは、行きたいのですが。」

「なにかわけがあるんだな。」


今度はリクが首を傾げる番だった。


「その代わり、この図書館には私専用のお風呂がありますので、そこに一緒に入りましょう。」

「やはり俺は君が心配だよ。あまり男をみだりに風呂に誘うもんじゃない。」

「リクさんだって今一緒にお風呂に行こうって誘ったじゃないですか。」

「あそこは男女が別れているだろう。」


リクが呆れたときに出る癖である、目を細める癖が出てくる。


「聞けば、ほんの2メートル程度の一枚の壁だけじゃないらしいですか。その程度ならここで2人で入ろうと変わりません。」

「そういう物なのか?カンナがいいならいいのだが。」

「いいんです。さ、行きましょう?本も持って。」

「風呂の中でも本を?」


言葉が足りない癖がうつってしまったようだ。


「とにかく持ってくださいな。」


本好きなカンナの事だから何か意味があるのだろうとリクはそれに従い本を持ち上げる。

と同時に、腕を引っ張られ受付の裏へと連れていかれた。

すれ違い際、司書が下卑た笑みを浮かべていた気がしたのは気のせいなのか。


受付の裏には、書庫が広がっていた。

文字通り、所狭しと本が並べられている。

その一番奥まで来ると地下へと降りる階段が現れた。


「地下に?」

「私の部屋が地下にあるんです。そこにはお風呂もあるんです。」

「そうなのか。」


図書館の地下に自室があるなど聞いたことは無い。

異世界というのは、人の考え方もどこかずれているのだろうか。


カンナが階段を下っていくのでリクはその後を付いて行く。

少し下ると、一つの扉があった。

木製だ。

カンナはそれを開けて中へと入っていく。

リクも後ろについて中を見回す。


「意外に広いな。」

「そうなんですか?」

「ん?あぁ、ずいぶん広いと思うぞ。一人の部屋なのだろう?」

「えぇ、私一人の部屋です。あっ、紅茶を入れてきますので適当に座っていてください。あ、コーヒーもありますよ。」

「紅茶でいい。」


答えると、カンナはすぐに奥にある扉へと入っていった。

リクは大きなベッドに座り改めて部屋を見渡す。

かなり広いと言っていい。

平均的な家屋の部屋の4倍はくだらない。

これの他に風呂やキッチンなんかもあるのだろう。

部屋は、さすが女の子というべきなのか整理整頓はされている。

子どもなら三人は一緒に寝られるであろうベッド。

向こうの壁には大量の人形やぬいぐるみが置かれている。

それ以外にも、タンスやら机やら置いてあるがやはり広く全体を上手く使いきれていない感が出る。


そうやって、部屋を観察していたリクの元に、カンナがティーカップを載せたトレイを持ってくる。

リクはとっさに、流れるような動作でカンナからトレイを受け取りカンナをベッドに座らせた。


「あ、ありがとうございます。」

「いや、自分でも驚いているよ。」

「え?」


カンナは首を傾げる。

それに、リクは何でもないと答えた。


ベッド脇の机にトレイを置くと、一番近くにあったアンティーク調のイスを引き寄せそれに座る。


「部屋にお友達を招くのは初めてなんですよ。」

「そうなのか、友達を招いたりはしようとしなかったのか?」

「私、友達いないんです。」


カンナは少し下を向いてしまう。


「それはすまなかった。」


リクは素直に謝る。

しかし、カンナはそれほど気にしているわけではないようだ。


「いえ、大丈夫です。もう慣れてしまっているので。」

「いじめでも受けていたのか。」


リクはふと気になってさらに深いことを聞いてしまう。


「……聞きたいですか?」

「悩みは人に話せば楽になると聞く。嫌でなければ教えてもらえるかい?」


カンナは難しい顔をして一度紅茶に口を付ける。

そして、それを飲み込むと腕を伸ばしてリクの手を取る。


「じゃあ、聞いてもらえますか?」

「あぁ、もちろんだ。聞かせてくれ。」

「リクさんは、能力者については知っていますか。」

「魔法使いや魔術師とは違うのか?」

「似て非なるもの、ですかね。魔法使いや魔術師は魔力を使って魔法を使っています。ここら辺は魔法学の本に書いてありますので後で読んでおいてください。」


暗い顔をしながらも本を読むことを勧めてくるあたりこの娘は本が大好きなのか。


「簡単に言うと、能力者とは魔力を使わずに魔法に準ずる効果、またはそれを超える効果を出せる人たちを言います。でも、能力者というのは人間族には本当に少なくてあまり理解されていないんです。」

「そうなのか。なら俺も能力者の一人なんだろうな。」

「そ、そうなんですか?」


カンナが目を丸くさせて顔を上げる。


「俺も弟も、魔力は無いと診断された。だが、戦う力はある。」

「そうだったんですね。私も魔力は無くて、魔力を感じることは出来ないのでわかりませんでした。ゴブリンキングを倒したんだから、きっとすごい魔力の持ち主なんだろうって勝手に思ってました。」

「何でも知っていそうだから少し意外だな。」

「私にあるのはここにある本の知識と噂話だけです。」


カンナは紅茶に口を付けると、また少し俯いてしまう。


「私、実は昔少しいじめられていたんです。」

「いじめに少しも何もない。」

「そ、そうですよね。」

「あぁ、すまない。続けてくれ。」

「あ、はい。私、絶対収音の能力者なんです。」

「絶対収音?」


前世でもあまり聞かない能力だ。


「その建物内のほとんどの音が聞こえてしまうんです。内緒話、足音、衣擦れの音、心臓の音、呼吸音、筋肉の動く音。」


それが本当なら日常生活を送るのさえ辛いだろう。


「あまり意味はありませんが、耳栓はずっとつけています。」


そう言って、カンナはリクに耳を見せる。

そこにはゴム製の耳栓が着けられていた。


「あまり、意味は無いのか。」

「心臓とか、筋肉の音レベルなら聞こえなくなります。」

「そうか、小声で話した方がいいか?」


事情を聞いて、小声になってしまう。


「いえ、音が大きく聞こえるわけではないので。」

「そうなのか。」

「この能力で私は昔いじめられていました。」


カンナはトレイに紅茶の飲み干されたカップを置くと、思い出すかのように途切れ途切れ話し始めた。


早めに上げれたことを嬉しく思います。

誤字などがあると思いますので指摘していただくか、温かい目で読み飛ばしてください。

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