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気付くと、窓から見える空には墨が落とされていた。


「大変!すいませんリクさん、私一度読み始めると時間を忘れちゃうんです。私がリクさんにもたれかかっていたばかりに。」

「いや、どうせ宿で読むかここで読むかの違いだから構わない。」


慌てて立ち上がり頭を下げるアンナにリクは微笑みかけた。


「でも、弟さんが待っているんでしょう?」


その言葉にリクが一瞬驚いた顔をする。

しかし、すぐにいつもの眠そうな顔に戻るとアンナに質問をした。


「それも噂話からかい?」

「そうですよ、クール系と元気系の2人の王子様が街に来たって女の子たちの噂になってますよ。」

「まだこの街に来て数日しか経ってないというのに。」

「女の子たちの情報網をなめないほうがいいですよ。良いことも悪いこともすぐに広まりますからね。」


これは悪いこと、無責任に女の子に手を出したりをするなと伝えているのだろう。

もちろんリクにその気は毛頭ない。

なんせリクは一目惚れしたあの娘にぞっこんで次会った時にはどんなイタズラをしようかと考えるほどなのだから。


「でも、お兄さんの方はギルドの受付嬢に心惹かれていて、弟さんの方はエルフに興味があるとの噂も聞いていますから大丈夫だとは思いますが。」

「そうか。」

「噂とは関係なしにリクさんは大丈夫だと思っていますが。本好きに悪い人はいませんからね。」

「君こそ変な人にちょっかい掛けられないか俺は心配だが。」

「ご心配ありがとうございます。」

「ずっとここにいても迷惑だろうし、今日は帰るとしよう。少ししたらまた来る。」

「はい、またおすすめの本を用意しておきますね。」

「ありがとう、お休み。」

「おやすみなさい。」


リクはアンナと別れ宿屋に戻った。

予想に反してリクが宿の部屋を見てもソラはまだ帰っていなかった。

そのうち帰って来るだろうと先に夕食を食べて待っていたが、なかなか帰ってくることはなくリクは一瞬不安になるもカミナがいるから大丈夫だろうと先に寝床に就いた。


次の日、窓から差し込む朝日にリクが目を覚ますがソラは結局昨日は帰ってこなかったようだ。

ソラは何事もめんどくさがりやり始めるのは極端に遅いが、一度やり始めるとなかなかやめようとしない癖がある。

そんなことを思いながらふとベッドの横の机を見ると折りたたまれた一枚の紙が置かれていた。

それを取り上げると裏面には「お兄さんへ」と書かれていた。

リクの事をお兄さんと呼ぶのは今のとこ一人しかいない。

リクは手紙を開く。


「ソラは預かった。」


誘拐犯と言っていることが同じであった。

しかし、カミナと一緒にいるのであれば大丈夫だろう、とリクは自分のすべきことをするために宿屋を出発した。



朝のギルドはそこそこ騒がしかった。

リクが扉から入ってきたことで冒険者たちはさらに騒然となる。

しかしリクは気にせずEランク以下の受付から一番近い机に座りウェイトレスにおすすめで温かめのものを、と頼んだ。

リクがすぐに受付に行かずに席の一つに座ったのはミミュレットの受け持つEランク以下の受付に少しばかり人が並んでいて、ミミュレットが忙しそうに受け答えしていたからだ。

そこにウェイトレスがホットミルクを持ってきた。


「ありがとう。」

「いえ、これでよかったですか?」

「構わないよ。」


リクがほほ笑みかけチップを含めた代金を渡すと、ウェイトレスは頬を少し赤くして下がっていった。

そのミルクをゆっくりと飲みながら受付のミミュレットを見守る。

E、Fランクの冒険者に対し忙しそうに、しかし楽しそうに笑うミミュレットに心なしかつまらなそうにリクは背もたれに体を預けた。

それに気付いた横の受付のエリーネが小さく笑っているのはリクには見えていないだろう。


それから30分ほどしてミミュレットの前から消え、ミミュレットが深く息をついたところでリクと目が合った。


「おはようございます、リクさん。」


ミミュレットから挨拶を貰ったところでリクは立ち上がり受付まで歩いていく。


「おはよう、ミィ。」

「何度言われても慣れないものですね。」


リクがほほ笑むのにミミュレットもほほ笑み返した。


「今日はどういった御用で?」


一瞬見せた疲れたような表情も、すぐに消すと可愛く笑いを浮かべいつもの言葉を出す。

流石はプロだ。


「依頼を受けようかと思ってね。」

「はい、かしこまりました。どういったものがいいでしょうか?」

「俺には何があるかわからない。」

「そうですね、大きく分けると討伐、採取、調査、警護、などがあります。」

「討伐で余っている物はあるかい?」

「少々お待ちを。………あっ、ゴブリン討伐ならあります。北部の森での依頼となります。報酬は」

「報酬の事はどうでもいい。それで頼む。」

「わかりました。では、手続きをするのでギルドカードをお願いします。」


ミミュレットが笑いかけるのに、リクは一瞬固まった。


「ギルドカード、どこにやったかな?」

「リクさん、もう失くしたんですか!?」


ミミュレットたちを見守っていた客や横のエリーネからクスクスと笑いが出る。

リクはズボンのポケットを探し、尻ポケットを探し、胸のポケットを探ったところで一瞬動きを止めそこからギルドカードを取り出した。


「あった。はい。」

「はい、手続きをしますね。そういえばリクさん、ゴブリンは首輪を討伐証としているのは知っていますか?」

「ああ、今知った。」

「はい、了解です。」


ミミュレットはリクのギルドカードを受け取り水晶玉にかざし魔力を流しているようだった。


「出来ました。北門の門番さんにギルドカードを見せてください。帰って来た時も必要ですので失くさないでくださいね。」

「了解、いってきます。」

「いってらっしゃい。」


ミミュレットの笑顔に、リクは微妙な笑顔を返すとギルドを出発した。


北門に行き門番にギルドカードを見せると通してもらえた。

その際に、ゴブリン討伐に行くのだが北部の森はどこか、と聞くと門からすぐのところの森が北部の森だと教えられた。

門をくぐるとそこにはすでに森が広がっていて、森の位置を聞いた意義は消え失せた。


森の大きさはわからないがとりあえず討伐対象を探そうと歩き出す。

木漏れ日に目を細め、木に何か傷などが付いてないか地面に足跡などが付いていないかを見ながら。

前の世界にいたころからの癖となっている消音歩行を使う。

音が全くなくなるほど上手なわけではないが気を付けておくことは良いことだろう。

先日戦った盗賊たちの強さから、リクの能力があれば大抵の事は大丈夫だろうと予想できるがどこでフラグが建っているかわからない。

万が一、リクには倒せないほどの強敵が現れた場合一撃を貰う前に逃げなければいけない。

そのためには足音を極力出さないのは必要なことなのだ。


「魔物大全はこの森にゴブリンが生息していることは記してあったが、この森のどこら辺に居るのかまでは無かったからな。」


誰もいないが説明口調でつぶやく。

下草は自由に伸び、シダやツルが絡みつき、道などもちろん無い中をかき分けて進んでいく。


そして、何分歩いたか分からなくなってきた頃、リクの耳に小さなうなり声のようなものが届く。

リクはさらに注意して足音を消しそちらへ向かった。

木の陰に隠れ姿勢を低くして目だけを出してそれをうかがう。

緑色の体に尖った耳、ぼろぼろの服に木の棒やこん棒。

亡くなった冒険者の装備を奪い装備していることもあるらしいが基本的に知能は高くない。

魔物大全に書いてあった通りだ。

そのまま魔物大全にあったのを思い出していくと、ゴブリンの適正ランクはF、一小隊である5匹ならEランクパーティー4人で十分勝てる。

今リクの前にいるのは5体のゴブリン。

これを一人で倒せればEランクパーティー以上の実力があると証明されるわけだが、リクには楽勝だろう。


リクは低木に身を隠しながら、切り株の近くに集まるゴブリンたちに近づいていく。

5m程まで近づいてもゴブリンたちは気付く素振りさえ見せない。

いつまでも隠れていてもいけないとリクは姿を見せる。

流石は野生ということか、がさがさと音を立てて姿を現したリクに一瞬で自分たちの武器を取り出し威嚇を始めた。

ギャアギャアと喚いているがリクに魔物の言葉はわからない。

自分たちを見ながら動かないリクが弱いやつとでも思ったのか一体が飛び掛かる。

それをリクは鷲掴みにすると腕を引っこ抜いた。


「腕は細いな。直径は5㎝程度。血は緑色なのか。」


今もリクが腕を引っこ抜いたゴブリンは痛みでさっきよりもうるさく叫び、周りのゴブリンたちは突然の事に頭が追い付いていないようだ。

しかしリクはそんなことお構いなしに鷲掴みしていた一体をそのまま握りつぶしてしまった。

他のゴブリンたちはそれに恐怖し逃げ腰になるがリクがそれを許さなかった。

一瞬で間合いを詰めると二体のゴブリンを鷲掴み持ち上げる。


「体重は8㎏といったところだな。」


そしてリクはゴブリンたちを一度見ると地面に叩きつけた。

ぐしゃぐしゃになった塊をゴブリンたちも見る。

それを見て残されたゴブリンの片方は目から水を流し、木の棒を振り上げると奇声を上げてリクに突っ込んできた。

それを軽々と持ち上げ後ろに投げ飛ばす。

飛ばされたゴブリンはそのまま木に叩きつけられて動かなくなった。

そしてリクが最後の一匹はどうしようかと顔を上げると恐怖におびえた顔で座り込んでしまっていた。


「恐怖心はあるのか?仲間を思う気持ちもあるようだが。アンナに教えないとな。」


リクはゆっくりと歩いていき最後の一体の頭を掴み持ち上げる。

その瞬間だった。


「ギュィエアァァァ」


ゴブリンが遠くまで響く鳴き声を上げた。


「これが仲間を呼ぶ声だな。俺も手伝ってやろう。…ギュェヤァァァァァァ!!」


体の小さなゴブリンの何百倍もの大きさの声で便乗した。

声の大きさが大きすぎたのか手の中のゴブリンは耳から血を流し動かなくなっていた。

この声の大きさならかなり遠くまで聞こえたはずだ。

街まで届いてるのは確実だろう。


と、そこでリクは魔物大全のあるページを思い出す。


【―――は、なわばりに入ってきた者に対し通常のゴブリンたちの数百倍の鳴き声で威嚇する。また、自分が他の―――のなわばりに入りなわばり争いを宣戦布告する場合にもその鳴き声をするようだ。】


リクはふざけて自分でフラグを立ててしまったのである。


少しづつ大きくなりつつある唸り声。

ザッザッ、と草木をかき分けこちらに近づいてくる足音たち。

普通の冒険者にとっては死の迎え。

しかしリクは微笑んだ。


「グギュアアァァァアアァァ!!!」


リクよりさらに大きい音が響く。

ゴブリンキングのお出ましだった。


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