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「すみません、お騒がせしてしまって。次からはこういった公共の場では揉め事は避けるようにします。」
「いや、喧嘩を売ったバスカーが悪いのだ。それに君たちはバスカーを攻撃したわけではないからな。」
ギルドマスターの待つ席に戻ってすぐリクが謝罪を入れるがギルドマスターはあまり気にしてないようだった。
それよりもソラのスピードに驚いてないようなのが不思議でならないが。
ソラ程度の速度だったら他にもいるのか。
ギルドマスターでさえ動きが見えなかったというのはやめてほしい。
「しかし、君たちを冒険者に誘っておいてよかった。あれほどの速さと力。記憶を失う前も冒険者か暗部でもしていたんじゃないかと疑うほどだよ。」
「暗部?」
ソラが気になった単語を復唱する。
「暗部とは、どこかのギルドのマスター、または国の王の直属の部隊のことを示す。正式名称を暗刃部隊という。」
「俺の知ってる暗部とは違うんだな。」
ソラは興味を失ったように机に突っ伏した。
「君たちを将来私の暗部に招待したいよ。」
「雇用状況にもよりますが、僕はなれるほどの実力になったらぜひ招待してみたいですね。」
「俺はパスする。」
「わかった、リク君は覚えておこう。しかし、ソラ君のように暗部の招待を断る方向で話を進める者は初めて見たよ。」
そう言って、ギルドマスターはさわやかに笑った。
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。このウェルミュレの街のギルドのマスターをしているフリンドルだ。あらためてよろしく頼む。」
フリンドルが手を出したので2人はそれぞれ握手を交わした。
「さて、どの話からしたい。冒険者についてか、私からの依頼についてか、先ほどのバスカーについてか。リク君はミミュレットの事でも知りたいかな?ソラ君はエルフの事を少し教えようか。」
「冒険者とミィの事についてはミィから聞きます。」
「エルフの事も自分で見に行くからいらないな。」
2人の発言にフリンドルは少し驚いたような顔をしてから続けた。
「では、依頼について話そうか。依頼は、私とチームを組んである洞窟の調査に行くというものだ。」
「未開地ですか?魔物がいるのですか?」
「……実は、盗賊らしき者たちががそこに入っていったという報告を受けている。」
「らしき者たちって曖昧だな。」
ソラが机に伏せながら顔だけを前に向け言う。
「そうだな、正確にはギルドで指名手配されている者ととても似通った顔の者を見たという報告だ。」
「では、僕たちがついていったら危ないんじゃないんですか?」
「大丈夫だ、今回は調査だけだ。本当に盗賊たちだった場合、後日制圧隊が組まれることになっている。」
「そうですか、わかりました。一つ質問をいいですか?」
「なんだ。」
「指名手配を捕まえたら何かあるんでしょうか?報奨金でも出ているんですか?」
「そうだ。今回行く洞窟に居ると思われる盗賊には金貨20枚の報奨金が用意されている。」
「兄貴、金の単位とかもうわかるのかよ?」
「いや、わからない。」
「そ、そうか。銅貨が10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚となっている。相場で言うと銀貨1枚でりんごが一つ買える。」
この世界にもりんごがあるのか。
「じゃあ、そいつはりんご2000個分の価値しかないんだな。」
「言い方が何とも言えんがソラ君の言うとおりだ。」
その時、3人の座る机にミミュレットが近づいてきた。
手には2枚のカードを持っているようだ。
「お二人さん、お待たせいたしました。あなたたちのギルドカードです。どうぞ。」
ミミュレットは笑顔で2人にギルドカードを差し出す。
「ありがと。」
「ありがとうございます。」
なので2人も自然と笑顔を返していた。
周りの視線がさらに痛くなったことをリクは気付かないふりをした。
ソラはまず気付いてさえいなかった。
ミミュレットは他人の視線などには慣れているようだった。
「ギルドと冒険者についてはもうマスターから聞いちゃいましたか?」
「いいえ、ミィから聞こうと思ってましたから、教えてもらえますか?」
「は、はい、説明いたしますね。」
ミミュレットはまた頬を真っ赤に染めている。
受付の方から、ほらね、とつぶやく声が聞こえた気がした。
そこで、ミミュレットが立ちっぱなしなのに気付いたリクはミミュレットが話し出す前に声を掛けた。
「ミィ、座ってはどうですか?」
「はい、失礼します。では、説明に入りますね。」
「よろしくお願いします。」
「よろしく~。」
ミミュレットはリクとソラの間の空いた席に座ると話し始めた。
「先ず、冒険者は全員生体情報などがギルドに保管されています。しかし、盗賊に懸賞金をかけていることからもわかるようにそこから居場所を特定したりは出来ませんので安心するとともに、盗賊などにはならないようにしてください。」
「俺はミィが世界を敵に回さない限りは大丈夫かと。」
「もぅ、茶化さないでください。」
「俺の場合は世界が俺の敵にならない限りは何もしないかな。」
「逆転の発想か、さすが我が弟だ。」
「何もよくないですよ。」
「大丈夫ですよ、いざとなればミィだけは俺が助けますから。」
「それは嬉しいですが、そのいざにならないことを祈ります。」
話がそれてきたあたりでフリンドルが3人を注意する。
「こらこら、話がずれてきているぞ。」
「あっ、すいません。話を戻しますね。」
「大まかにでいいよ。」
ソラが机に伏せながら言う。
それにミミュレットはリクの方を向いた。
「そうですね、冒険者の事は少し知っている気がするので大まかにで大丈夫です。」
「はい、わかりました。」
不思議そうに首を傾げながらも説明を始めた。
「冒険者にはギルドへの貢献度によってランク分けされています。下からF,E,D,C,B,Aとなっており、F,Eランクを初級、真ん中2つを中級、AとBを上級と呼ぶこともあります。初級、中級、上級と上がるにつれて色々な権利や特権が与えられます。国と国の間にある関所での納金義務が無くなったり、高ランク冒険者しか入れないようになっている場所への立ち入りが許可されたりなどです。」
「なるほど。ギルドマスターになるには?」
「え?」
「なれないわけではないんでしょう?」
「ええ、まあ。Aランクの状態で本部から要請が来るか、本部に申請して受理されればなれます。」
「リク君、それは私に挑もうということかな?」
「それもいいかもしれませんが、違いますね。暗部はマスターの暴走を止める役もあるのではないでしょうか?その場合、マスタークラスの実力が必要でしょう?それにマスターに何かあった時に後継人がいた方が何かと楽でしょう?」
「それは私が倒れるかもしれないということか?まだまだ若い者たちには負けんぞ。」
「最悪の事態を予測しておくことは大事かと。」
「…………君は本当にギルドマスターになるかもしれないな。今すぐにでも暗部に引き込んで直接私が鍛えてやりたいほどだ。」
フリンドルのその言葉にフロアは一瞬騒然となる。
あの堅物のマスターが人をほめたぞ、だとか、あの青年は何者なんだ、だとか。
あの兄弟2人とも綺麗、かっこいいだとかの声も届く。
それを聞いてミミュレットは少し慌てていた。
「あの、この先の説明はどうしましょう?」
「もういいでしょう、ありがとうございました。弟もそろそろ暇をしているので。聞きたいことができたらまた聞きに来ますよ。これで会いに来る理由ができました。」
「は、はい。では、失礼します。」
そう言って、帰ろうとしたミミュレットにリクが声を掛けた。
「ミミュレットさん、初対面の人にあだ名で呼ばれるのはやはり嫌だったでしょう。すいませんでした。」
「いいえ、むしろその苦手な敬語をやめてください。」
「ばれていたのか。頑張ってはいたんだが。じゃあ普通に話すとしよう。改めてよろしくミィ。」
「はい、よろしくお願いします。」
ミミュレットは頬を赤く染めると少し嬉しそうに受付に戻っていった。
「出発は明日の朝7時とする。北門まで来てくれ。」
「わかりました。遅れないようにします。」
「マスターになるには時間も守れないといけないぞ。」
「そうですね、了解しました。」
「依頼の前金として一泊分の宿泊費を渡しておこう。」
「ありがとうございます。」
その後、2人はやることもないし、何かをやる金もないしということで適当な宿を借りてくつろいでいた。
「兄貴、そういえばギルドでなんで冒険者という職業がある前提で話が出来ていたんだ?兄貴の事だから異世界だからギルドがあるだろうというような浅はかな考えではないんだろ?」
「そこまで気付いて気付かなかったのか。門番との会話を思い出せ。外に出ていこうとする冒険者はほかっておけ、と言っていただろう?」
「そう言えばそんなことを言っていたような気がするな。よく覚えていたな。」
「俺は今、今までの人生の中で一番冴えている。まるでもともとこの世界に来た時のために脳の記憶容量を開けておいたかのようにな。」
「そりゃ、よかったな。」
「お前だってそんないい能力持ってんだろ。」
「そう、そこなんだよ。なんで異世界転移できるとだけ言われていたもので転移した後に能力を得られたんだ?」
「そうだな、俺もそれは疑問に思って少し考えた。あの魔法陣に元から能力を得る印が刻まれていた可能性と、魔法陣とは別にこちらでなんらかの要因により能力を得た可能性があるな。」
「まず、魔法陣だった場合、転移できたってつぶやいた人はどうなってるんだよ。」
「それは、あえて隠したか、その場に2人以上いて元の世界に残された人がつぶやいたのかもしれない。」
そこまで言うと、2人はそろって頭を抱えてベッドに寝転がる。
「知恵熱で倒れそうだ。明日は暴れるというのに動けなくなっちゃたまらない。」
「分かってるのか、ソラ。場所は洞窟だ。俺は援護には入れんぞ。」
「なんでだ?」
「まだ力の加減も出来ないのに洞窟を崩してしまったらどうする?」
「確かにそうだな。じゃあ、兄貴はマスターが何かしようとしたら止めてくれよ。1人でやってみたい。」
「わかった。それで、さっきの問題は考えてもわからないからこの世界で好きに生きながら探してみるといった方向でいいな?」
「了解だ、今日はおやすみ。」
「おやすみ。」
そして、2人は眠りについた。
次の日の朝、予想以上に早く起きることができた2人は集合時間の10分前に北門に到着した。
しかし、そこにはすでにフリンドルとミミュレットが待っていた。
「おはようございます、マスター。」
「おはようございま~す。」
リクは穏やかに、ソラはあくびをしながら挨拶する。
その様子を見てマスターとミミュレットは微笑んでいた。
「ミィも付いてくるのかい?」
「いいえ、皆さんのお見送りに来たんです。」
「それは嬉しいね。」
ミミュレットが微笑むのに合わせてリクも微笑んだ。
「マスター、洞窟にはどれくらいでつくの?」
このイチャイチャしてる奴らはほおっておけとソラはフリンドルに質問する。
「馬で行って感づかれるのが怖いからな、歩いていくことになっている。歩いて5時間ほどだ。」
「了解。その距離を走り続けられるかまだ分からないからな。能力を使うのは洞窟についてからでいいか。」
「そうだな、大事な時に使えないのは避けたいからな。」
いつの間にかミミュレットとの会話が終わっていたリクが話に入ってくる。
「とりあえず、出発しよう。調査だけだ、作戦などではないが予定を歩きながら説明しよう。」
2人はフリンドルに続いて歩き出すと今日の予定について聞いた。
朝の7時に出発。
12時頃に洞窟付近に到着。
早く終わればそれでいいが14時頃まで調査を行い、19時には帰ってくるようだ。
ちなみにこの時に質問して初めて2人はこの世界の時間が一日24時間だということを知った。
時々木の陰からこちらを見ているゴブリンの様な者たちを無視して歩いていくこと5時間。
ついに問題の洞窟にたどり着いた。
洞窟は森と生い茂った草木に隠れるように口を開いていた。
「洞窟の周りには見張りなどはいないようだな。」
「では、内部に見えにくい罠が張られていると思っておいた方がいいですね。」
「そうだな、気を付けて進んでいこう。」
そして、3人はゆっくりと特に足元を確認しながら奥へと進んでいく。
中は整備されているということもなくでかい穴を掘ってそのまま使っているようだ。
横幅も高さもかなり有り、馬車が同時に二台は入ってこられるほどだ。
日の光が届かないところまで進むとぽつぽつと壁に掛けられた松明が現れだす。
この先に何かがいることは確定した。
その時だった。一番先を行っていたフリンドルが何かに引っ掛けたようにバランスを崩した。
その瞬間兄弟は動き出した。
「右だ!」
「マスターを守れ!」
ソラの声にリクはフリンドルを優先させろと叫ぶと自分は地面にうずくまるように伏せた。
右から飛び出してきた何かはリクの服を貫くが、リクの背中にはじかれて止まる。
ソラはフリンドルの横で数本の矢を持って立っていた。
「マスター、けがは?」
「いや、無い。ありがとうソラ君。」
矢を適当に投げ捨てながらソラは答えた。
「それよりここからが本番でしょ。」
ソラと言う通り、洞窟の奥からからからと音がかすかに聞こえてくる。
「兄貴、大丈夫だろ?マスターを頼むぞ。」
「頼まれよう。」
リクもフリンドルの前に出ていく。
「何をしようとしている。」
「マスター、これから起こることは夢です。気にしないでください。」
「何を……」
フリンドルがまた同じ質問をしようとしたところで奥からいかにも盗賊といった服装の者たちが現れる。
「やはり、盗賊がいたというのは本当だったか。」
「あれは!ウェルミュレのマスターだ。だがたった3人だ、数でつぶしちまえ!」
「行くぞ!」
「うおおぉぉぉぁぁ!」
盗賊たちが三人に向かって走り出す。
「ソラ、24人だ、覚えておけ。」
「了解。」
リクに答えるとソラは姿を消した。
それと同時にソラは盗賊の集団の後ろに現れ、盗賊の一人が地面に倒れる。
それに盗賊たちが足を止める。
「何が起きた!?」
「おい、グランツェ、どうした。」
「1人消えたぞ気を付けろ!」
ソラの動きが見えていない盗賊たちは騒然となる。
まさか自分たちの後ろにいるとは思ってないのだろう。
「こっちだよ。」
ソラの声に驚いた盗賊たちはこぞって後ろを向く。
敵は正面にもいたというのにそんなので大丈夫なのだろうか?
「くそ、なんでこんなところに空間属性の魔法使いがいるんだ。」
盗賊の一人が言う。
なるほど、空間属性の魔法使いは瞬間移動じみたことができるらしい。
「ソラ君にだけ任せておいていいのかい?」
こういう場合は自分も行くと言って飛び出しかけたところをリクに止められるというのがよくある場面なのだが、フリンドルは違うようである。
「大丈夫ですよ。僕も弟も根は戦闘狂なので、自分一人でやると決めた戦いに横やりを入れられるのは嫌いなんですよ。」
「そうか、わかった。」
そう言うと、フリンドルはその場に座る。
リクは一瞬驚いた顔をしたがすぐにいつもの穏やかな顔に戻るとその横に座り込んだ。
そのころ、ソラは2人が座ったのを見て小さくうなずいていた。
全く動かないソラを疑問に思ったのか盗賊の一人がソラに近づく。
近づいてきた盗賊は剣を振り上げる。
その剣が振り下ろされようとした時、ソラはもう一度能力を発動した。
その瞬間、ソラ以外のすべての速度が低下する。
振り下ろされていた剣も何秒たっても落ちてくる気配はない。
「前回使用から約3分。能力のクールタイムは今のとこ3分以下か。」
つぶやきながら歩いていくソラ。
剣を振り上げている盗賊を抜き去り際に顔を横に押す。
ソラは文字通り目にも止まらぬ速さで動いているため、軽く押しただけでもすごい威力となるのだ。
「これで2人目だからあと22人か。」
押した盗賊を無視して団体の方へと歩いていく。
ソラの動きを追えている者はいない。
いや、よく見るとリクは目でだけ追えているようだ。
ソラはそれはいいやと盗賊団の方向に向き直る。
「さて、どうしたものか。」
ソラは正直飽きていた。
異世界に来るに至ってこの能力を手に入れたのだから少しは対抗できる者がいると思っていたのだが、盗賊団にはいないようだったからだ。
とりあえず、手当たり次第に頭を地につけていく。
最後の1人になった時、ソラは色々吐かせる要員が必要だったと思い出す。
最後の1人になったためこいつにするしかないのだが。
困ったソラはリクの方を向く。
すると、リクはしっかりとこっちを向きながら立ち上がりかけていた。
「さすが兄貴だな。」
ソラは笑みを浮かべるとその1人を掴み、リクに向かって投げ能力を解除する。
その瞬間、盗賊たちは地面に顔面をめり込ませ沈む。
リクは高速で飛んできた盗賊の1人を掴むとすぐさま膝を踏みへし折った。
「あああああぁぁぁ!!??」
一瞬のうちに吹き飛ばされ足をへし折られた盗賊が悲鳴を上げる。
しかし、リクはそんなことまったく気にしていない。
「ソラ、捕虜を捕まえるなら先に逃げられないようにしておけ。」
「してなくても兄貴がやってくれるんだろ?覚えてたらやるよ。」
「俺が見えない位置から投げるのだけはやめてくれよ。」
「はいは~い。」
答えるとソラはリクの横まで歩いてくる。
「マスター、こいつはどうしましょう?」
「そ、そうだな、ギルドで預かってもいいかな?」
「ソラ?」
「自分たちの宿代もないのに一人増えてたまるか。」
「そうだな。お願いします、マスター。でも1つ最後に。」
「殺すのだけはやめてくれよ。」
「ははっ、そんな僕は無差別ではありませんよ。」
リクはフリンドルに笑い答えながら足を押さえて悶絶している盗賊の横にしゃがみ込む。
「おじさん、団長だったりする?」
「ひー、ち、違う!命令されて仕方なくなんだ。命だけはせめて。」
「そのセリフこそが命を落とすフラグなんだがな。まぁ、いい。団長じゃないなら用はない。」
そう言うと、リクは盗賊の襟首をつかみ上げフリンドルに渡す。
「弟がどれほどの力でやったのかはわかりませんがほとんどはまだ生きています。回収するならなるべく早くおねがいします。」
「わかった。今すぐ来させよう。」
フリンドルは左ポケットから石を取り出すとそれに話しかけ始める。
「聞こえるか、カミナ。そうだ、洞窟の件だ。回収班と一緒に頼む。」
2人に相手の方の声は聞こえないが回収班というのが来るらしい。
「よし、予定ではすぐに帰る予定だったが変更する。回収班が来るまで待機、回収作業終了後、一緒に帰還とする。」
「りょーかい。」
「了解です。1つ、2ついいですか?」
「もちろんだ。」
フリンドルが盗賊を座らせ自分もその場に座るので、2人もその前に座る。
「回収は暗部の仕事なんですか?」
「ははっ、暗部の噂さえも知らないんだったな。回収班は暗部とは別だ。前も言った通り、暗部はギルドマスターの直属部隊だ。もっと危険な任務や敵の時に同行する。そんなことはあまりないし、無い方がいいのだがな。」
「そうですね、暗部は非常時の特殊部隊ってことですか。」
「だいたいそうだな。因みにこれから来る1人はその暗部の1人だ。」
フリンドルがその1人の正体を言った瞬間、2人の頭には電流が流れたようだった。
フリンドルの正面、すなわち2人の後ろにいつの間にか人が、それも団体がいたのだ。
2人は一瞬で10m以上の距離を取ると、同時にファイティングポーズをとる。
しかし、その体からは闘気は出てこない。
「なかなかいい反応だろう?」
「えぇ、ですが恐怖に負けて気迫が消えてしまっている。」
2人は声が出せずにいた。
フードを被り、マントを羽織り顔の見えない者たちが8人。
その前に腰にレイピアを下げた女剣士がいる。
その女剣士は剣の柄に手を掛けてもいないのに2人の膝を震わせるのに十分なほどの闘気を放っていた。
「カミナ、あの子たちは敵じゃない。」
フリンドルがカミナに声を掛けるとカミナは闘気を収める。
と、同時に2人は片膝をつき長い息を吐く。
「どうだ、暗部はすごいだろう。」
フリンドルは笑うが、フリンドル自身はさらに強いのかと思うと2人は戦慄した。
その後、すぐに回収作業が始まった。
回収班が散開して縄で盗賊たちを縛っていく。
「カミナさんは何か魔法を使うんですか?」
いつもあまり自分からは話さないソラがカミナに話しかけている。
「あの、あまり言いたくないのですが。」
「え?」
「カミナ、こいつらはあのことも知らない。大丈夫だ。」
「そうですか、なら、教えましょうか。私は空間魔法使いです。」
「やっぱりか。かっけぇな、兄貴!」
「そうだな。ソラも空間属性って言われていたが、現れる予兆も無いとはな。」
「え?」
自分たちで勝手に盛り上がる2人にカミナは疑問符を浮かべる。
「言われていた?」
「見せた方が早いかもしれないですね。マスター、さっきの弟の動きは見えていましたね?」
「私では追いつけないがな。」
「僕もです。ソラ、見せた方が早い。」
「了解。」
ソラは立ち上がると少し距離をとる。
「行きます。」
ソラが言うと、ソラの体が消えた。
リクがカミナを見ると、目を丸くして驚いているようだったが黒目はせわしなく動きソラの動きを追っているようだった。
少しして、ソラは3人の前に現れる。
それを確認するとカミナは立ち上がり言い放った。
「私の弟子になって。」