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ナナシと呼ばれた魔法使いが、神に拾われ魔王と恐れられるまで  作者: こいち


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第68話 少女は、恐怖の輪郭を越えはじめる

リブたちが、恐怖を胸に西へと運ばれている頃――

少女はようやく、“キャンバス”の扱い方を掴みかけていた。

自分の許容範囲――キャンバスに対して、

魔力量という名の絵具を、必要な分だけ置く。

ただ、それだけのこと。

少女は、目の前を流れる色を、静かに見つめる。


(この世界では……こうやって、力を扱うのか)


不思議と、腑に落ちた。

この世界に来て、どれくらいの時が経ったのだろう。

最初は、混乱ばかりだった。

目を覚ましたときに見たのは、

ねっとりと絡み合う赤と紫の空。

だがリブは、空の色は普通だと言った。

それが余計に、少女を混乱させた。

けれど――

慣れてしまえば、どうということはない。

この世界の魔法も、きっと同じだ。

理解しようとするより先に、身体が覚えていく。


「……できる」


小さな火の玉を、少女は岩へと放った。

暴発はしない。

力は、きちんと指先に留まり、

過不足なく、狙った場所へと届く。

――制御できている。


「………うん」


やはり、ベガの言葉は間違っていなかった。

必要だったのは、才能でも、膨大な力でもない。

慣れ。

そして――恐怖に向き合い、それを越えようとする意志。

少女は、静かに理解する。

自分に、足りなかったものを。

それに気づいてから、キャンバスの大きさそのものに怯えることはなくなった。

今では、かつての自分を思い返し、

「ああ、こんなものに怯えていたのか」と、心のどこかで、かすかに笑える。


「すごいね。さすがだ」


背後から、拍手の音が聞こえた。

門の外で活動できる人間は、商人か冒険者だけ。

冒険者のタグを持たない少女が、ここに立てている理由は、ひとつしかない。

ベガーーー

この男がいるから…。


「オレが認めただけある」


「あっそ……」


昨日の一件(変な女3人に絡まれて)以来、

少女は彼の顔を見るのも、言葉を交わすのも、少し煩わしくなっていた。

さらに…一度でも目を合わせれば、

彼の瞳は、熱を帯びて揺れる。

期待を含んだその視線が――ひどく、面倒だった。


「なんだか、素っ気ないね」


「そう……?」


ベガは、真っすぐに少女を見る。

だが少女は、その視線に気づかないふりをして、再び、魔力の色を見極める。


「……そういえば。得意な色は、見つかったかい?」


即席の笑顔。

話題を変えるための、不自然な軽さ。

少女は答えず、近くの岩に腰を下ろした。

得意な色――それは、魔法の系統。

遠距離を得意とする魔法使いにとって、

近接戦は、致命的になりやすい。

だからこそ、自分に馴染む魔力の“色”を知ることは重要だった。

ベガの場合は、赤。

炎を認知し、操り、焼き尽くす。

しかも彼は例外だ。

身体能力も、魔力量も、常に高水準。

隙がない。


「どうだい?」


「……分かんない。まだ……分かんない」


「そうか。そしたら――そろそろ、一人で狩りの練習もいいんじゃないかな?」


「狩り……?必要ないよ。もう、冒険者じゃないし」


「じゃあ、登録する?」


「しない」


「もったいないな。こんなに強いのに」


「身分証が必要なんでしょ。説明も面倒。いいよ」


「そこはオレが、ちょちょっと――」


「あんたに、恩を売りたくない」


「……強情だね。そういうところ、好きだよ」


「わたしは、そういう不真面目なの、嫌い」


素直な言葉は、ときに相手を傷つける。

少女は、そのことを――よく知っていた。


「……でも、一人になりたいのは、本当だから」


風に紛れるほど、小さな声。


「腕試し……いいよ。一人で、魔物を倒してみる」


前へ進みたい。

変わりたい。

その瞳には、恐怖ではなく、自信に近い光が宿っていた。


「いいね。じゃあ、約束しよう」


ベガは、穏やかな声で告げる。


「テイムしてる魔物は使わない。ちゃんと、自分の力で倒す」


「……分かった」


強く、うなずく。


「レディの目標は…ロックライノ。この辺によくいる魔物だよ」


ロックライノ。

岩と同化し、背に硬い外殻を持つサイ型の魔物。

見つけるのも、倒すのも、容易ではない。


「冒険者でもないレディが魔物を倒すのは規約違反だけど……オレの名前で通すよ」


ベガは軽く笑う。


「遠くで見守ってる。何かあったら、すぐ呼ぶんだ」


「……呼ばない」


ベガは、そっと少女の頬に触れた。


「気をつけて。いってらっしゃい」


その視線が、うるさくて。

少女は顔を背け、そのまま岩の奥へと歩き出した。

恐怖の輪郭は、もう――越えはじめていた。

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