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第四十五話 『転機』

 この街に住み着いてからもう一年以上がたっていて、もうそろそろ二年過ぎようとしている。


『旅人』を開業し、常連の方たちができて、親友もできた。


ここ最近、そんな親友が少々悩みを抱えているような気がしていた。


しばらくの間は何も変わらないような日常を過ごしてきたのだが……二、三日前からアサカの様子が変わってきているのだ。


「どうしたもんかね……」


「こっちがどうしたと聞きたいんだが……」


 喫茶店終了後の掃除中、ため息をつくアサカに俺は怪訝な表情で問いかける。


ルノは買出し中のためここにはいないため、完全に二人の状況……都合がいいからこのまま話を聞いてしまおう。


「ん? ああ、そうか、お前は中等部の教師だからよく知らないのか」


「そんなことを言うってことは、高等部のほうでなんかあったのか?」


「実習っつうかな、生徒でチームを作って実際に探索をさせるテストがあるんだよ」


「へぇ、それで?」


「探索計画からチームの作成まで全て生徒が行うわけで……いろいろ考える必要がでるわけだ」


「なるほど」


「卒業前の最後の実習の試験だからさ、自分がどれほどのものか大きな指針になるから嫌でも考えないとな」


 何気なく出された卒業と言う単語に俺は若干眉を動かす。


以前のサナちゃんたちの中等部卒業からもうそんな時期になったのだと若干の感慨深さを持つ。


そんな感慨を思いながらも、アサカが受ける実習に関して分析を行っていく。


「前衛はアサカで良いとして……後は後衛の魔法が使える人間と、中衛になるアシストのできる人間……それから、探索技能を修得している人間が必要になるか」


「ああ、誰かが技能を修得しているとしても俺含めて最低三人はいるな、そうそういい人材はいないだろうけど」


 一人ですべてのことが出来る人間なんてそうはいない。


ソロで行くことの多いレスカさんやルノと二人の俺たちの方が異端なのは重々承知している。


学生ともなれば一人で幾つものことがこなせないことはむしろ当然のことであり、だからこそ戦士科や魔法科、技能科といった役割ごとの科に分かれているのである。


そして、そういった実際の探索を行う実習であれば可能な限り優れた生徒が欲しいと思うのは当然のことであり、おそらくは大量の交渉が行われているのではないかと予想できた。


「しかし……アサカなら考えなくてもいろんなチームに呼ばれているんじゃないのか?」


 手合わせしたときのことを思い出せばアサカは決して弱くないと断言できる。


学生と言う基準を考えれば十分過ぎるくらいだし、ともすれば現役の探索者たちを相手取ることも別段不可能なことではないだろう。


特に武器とそれに付随する射程距離、戦闘スタイルという点でアサカを越えるような学生はほとんどいないだろう。


だからこそ、アサカに誘いなどがかからないということはないだろうと予想している。


「まあ……な」


 そしてアサカもその点に関しては否定しない。


とはいえ、その言葉の歯切れは悪かった。


「そっちで問題があるのか?」


「ああ……お前もお察しの通り、誘われてはいるんだ……問題は、どちらの方向性で行くかってことなんだよ」


「方向性?」


 あまり思っていなかった言葉に俺は疑問符を浮かべる。


直前のどちらという言葉に関しては別に問題はない、二つのグループのどちらがいいかを悩んでいるだけだから。


だけど方向性などという単語が出てくるとなればそう単純な話でもないのだろう……続けられるアサカの状況説明を詳しく聞き、今回の話の全容を把握していく。


通常の実習であるならば、特に問題はなかった……面倒なことになってしまうのは、今回が学園で最後の実習であるからだった。


この学園を卒業するということはつまり、大半の卒業生はそのまま探索者として活動をし始めるということである。


当然、一人ではできることも限られてくるためチームを組むことになる。


大抵は卒業生同士で組むことになるのだが、中には現役の探索者のチームに入れてもらえるチャンスも少なからず存在している。


さすがは探索者の街と名高いこの街の学園の卒業生であるからして、新戦力として注目しているチームはそれなりの数がある。


そんな中で基準とするべきはやはり学園で出される成績である。


もちろん学園での実習と本当の実戦では大きく違いはあるものではあるが、学園内部での情報というのは中々に外に流出しにくく判断材料は多くない。


そう言った状態であるからこそ学園の成績、それも最後の実習はかなり本格的であるためデータとして参考にするのであれば、その成績はかなりの比重がかけられることになる。


「だからこそ……方向性か」


 そんな重要な実習であるため、そこで好成績を残そうと学生の中でも実力者たちは同じく実力者同士で集まってチームを作ることが多々ある。


中には非常に仲の良いチームを抜けてそちらのチームに加わるといったことも決して珍しくないということらしい。


アサカも実力のあるチームに誘われ、同時にいつも一緒にいるメンバーとも誘われている。


成績か、チームか……そのどちらを優先して誘いに乗るかという悩みが、今回の方向性ということらしい。


理想的なのは上位の実力があり、仲が良いことなのだが……今回はそれに当てはまることがないからこそ悩みの種となってしまうのだ。


また、どちらのチームも強引な勧誘はしておらず、アサカの選択にゆだねていることもアサカの悩む原因となっているのだろう。


「そりゃまた難儀な二択をせまられているな」


「そうなんだよ……」


 幸先の良いスタートを切ることができるか……それを考えれば非常に大きな選択肢であると言えるだろう。


悩むなと言うほうが無理なことであるし、直接の関係者ではない俺が言ったところで無責任としか言えない。


俺たちは掃除をそっちのけにして、近くの椅子に座って頭を悩ませる。


「とりあえずは……お前はどっちに惹かれているんだ?」


 結局はアサカにとってしたいことを優先することが一番だと俺は思う。


だからこそ、そう聞いたのだが……対するアサカは渋い顔を見せている。


「それは……それがわからねえから悩んでるんだよ」


「ふぅ……ん、なるほどね」


 歯切れの悪い、進展のないことを示す回答になってしまったものの、その一方で俺は小さな引っ掛かりを感じていた。


なんとなく、ほとんど直観ではあるのだが……アサカは既に行きたいのがどちらであるのか決めているようにも感じたのだ。


それを自覚しているのかしていないのかはわからない。


気づいていない、もう片方を気にして踏ん切りがついていない……そのどちらかではないのか、そう予想した。


「一つ聞くが、上位グループの面々との相性はどうなんだ?」


「問題はないな……苦手な奴はいないし、メンバーの能力や戦い方に関しては大体知ってるってところだ」


「連携に関しては基本的には問題がなさそう、と」


「そだな……まあ、マイナスになることは無いだろ」


 アサカの話し方からして上位チームのメンバーといつも一緒に過ごしているだろうチームとの親密度では大きな差があることは間違いないだろう。


それでもマイナスになることはないと言っている辺り相性自体は実際悪くはないのだろう……というより、そうであるならこんな大事な実習で誘ったりはしないだろうから当然の話ではあるのだけれど。


「けどまあ、間違いなく強いぞ……お前から見れば俺たちなんてまだまだだろうけど、俺がいつものメンバーで挑んでも勝てるとは到底言えねぇ」


「強さに関してはお墨付きか……変わらないのならいつものメンバーで行けと言うところだが……」


「ま、俺のチームのメンバーは決して強いわけじゃないからな……」


「そうなのか?」


「まあな、強さと友人は比例しないのよ」


「そりゃそうか」


 仲が良ければ強い……そんな道理が通じるほど世界は甘くない。


一つの要素であることは間違いないが、それだけが全てと言えるはずはない。


しかし、だとすれば少し不味いのではないだろうか?


「アサカがチームから抜けた場合……チーム自体が結構ヤバイんじゃないのか?」


「そうだな……自画自賛になるがチームの要は俺だってことは言える、特に前衛に関しては俺が大きな比重になっていたな」


 チームというものには必ず核となる人物が存在している。


それは率いる力を持っている人物であったり、純粋に実力のある人物もそう、あるいはチームのムードメーカーである場合だって考えられるだろう。


アサカを考えればどれも該当するであろうが、特に二つ目が大きいのだろう……単純に戦力が抜けることにより今まで取れていた行動がとれなくなる。


「けど……それを考えたら、お前がそのチームを見捨てるとは思えないんだが」


「ああ、まあ否定はしないけどさ……そんな同情みたいな理由で選ぶなら叩きだす、そんなことを言われてしまってな」


「……なるほど」


 確かにそう言った理由での残留は少々嫌だという気持ちはわかる。


見方を変えればこいつらは俺がいなければダメだからというようにも見えるのだ。


そう見ている奴がいないとしても、同じに位置に立って行動を共にしたいと考える者もいるだろう。


このチームじゃなければアサカはもっと良い成績が取れただろう……嫌でも想像してしまうことであり、何よりもそれが痛い。


それがしこりとなり何かしらの問題が起こることも決して考えられないわけではないから。


それらのことを考えれば心情的な部分では一緒にいたくても……安易にそうはできないということなのだろう。


「んで、厄介なのはここからでよ……アイツらに言われてからよく考えていくと、上を目指したい……そういった思いがあることも否定はできないんだよな」


 アサカの言うことは普通ならば問題ではない、探索者であるなら向上心はあってしかるべきであろう。


とはいえ、それにより問題が複雑化していることに少々頭が痛くなるが……その悩みは持っているべきだろう。


心情で考えた時、それは間違いなくいつものチームに傾く……そこに仲間の言葉と、そして小さくともある自分の思いが天秤に乗る。


同時に理で考えた時、先を考えると上位チームで結果を出したことがいいのが明白でありそれもまた天秤に乗せられる。


そうした結果が今のとても不安定な均衡状態……だからこそさっき俺がどちらがいいのか聞いた時、答えようとして……しかし、結局わからないという言葉で濁したのだろう。


「どうしたものか……」


 この不安定な均衡は、俺が手を出せばどちらにも傾くように感じられる。


一押し、俺がどちらかについて言えば、迷いながらも決心はつくだろうというのは想像できる。


言い換えれば、今アサカのこれからに関して俺は思うようにできるということでもある。


「こんな重い選択肢よこしやがって……」


 沈黙してそのままの状態にしたり、あるいは別の誰かに丸投げすることも可能であろうが……さすがにそれはしたくない。


この場がお開きになるとすればルノが帰って来た時だろうから、タイムリミットも近いだろう。


「よし、一個一個整理して考えようか、とりあえず俺が気になったことを抜き出していくぞ?」


「あ、ああ」


「一つ目、今回の試験が今後に左右されているためこういう悩みが起こっている」


「そうだな、こんなことが起こるのはこの試験だけのはずだ」


 今やっているのは決まっている事実、前提条件の確認でもある。


逆に言えばそれらの前提条件を崩す何かがあればアサカは即決できるわけである。


「二つ目、上位グループに目立った問題は見られず、組めば高い評価を得られるだろう」


「少なくとも挑戦する内容の時点でいつもとは違うことになるだろうな」


 純粋なスペック差、これに関しては覆しようも無いだろう。


実現できるから上を目指したいという選択肢が生まれ、それが悩む原因になっている。


「三つ目、アサカのチームはアサカが抜けることで評価が下がる……いや、この場合は正当な評価になるってところか?」


「いや、さすがにそこまでは……一応前衛の要とはいえ俺が一から十まで指示しているわけじゃねえし」


「なるほど、じゃあ次も違うか、四つ目、アサカのメンバーはアサカに依存している」


「それは無い」


 あるいは、とも考えていたそれをアサカは即座に切って捨てた。


「俺がいない探索も問題なく達成しているし、そもそも、それなら来るなとかじゃなくて是が非でも俺をチームに引き込むだろう?」


「だな、じゃあこれは違う、と」


 当てはまってくれれば話が早いのになぁ、と若干思いながらもアサカの友人たちがそんな人間でないことに安心もした。


「それじゃ五つ目、アサカの気持ちは放っておけないと上を目指したい」


「ああ……まぁ、そうだな」


「そして六つ目、前者の気持ちではこっちに来るなとメンバーに言われている」


「ぐぅ……」


 俺の言葉でアサカが机に突っ伏した……その反応を見る限り、やはり仲間のいるチームにいたいと思っているんだろうな。


だけどアサカの心情ズバリを言い当てられているものだから戻るに戻れず、さりとて上位チームもまた魅力的と。


とりあえず、この部分をはっきりさせるべきか。


「単刀直入に聞くぞ、ここまでの話をして、自分がどっちが良いのかわかったか?」


「……………………そうだな、俺はやっぱ仲間と馬鹿やりたいと考えてる」


「そっか」


 俺は頷き、アサカの本音を聞き出せたことで少しの安堵をする。


ほんの少しだけ、上位グループのほうならもう少し楽なのにな……などと考えるが、それを表には出さない。


「一応言っておくが、卒業後のスタートダッシュを考えた場合、その選択肢は外れだと思うぞ」


「ぐ……」


 卒業生だけで構成されたチーム……多くの学生はそうなるだろう道で、同時にそれだけ多くのチームが生まれるということ。


当然、それは大量に生まれた新チームの一つでしかなくて、信用であったり資金面であったりは現役のチームに比べれば低くなるのは当然のこと。


駆け出しで収入源もまともに無い、自分の装備を整えるだけの金銭すら危うく、チーム全体の活動資金など早々作れない。


だからこそ、既に活動している探索者の人やチームにスカウトされることが学生卒業者にとって最も有効な手段である。


主にアサカの先輩であるコーダさんのように学園の卒業者の関係でそういうスカウトは行われやすく、当然そのスカウトには卒業時の成績が大きく左右されることになる。


「お前の未来のためなら、上位チームに行くことを俺は勧めるよ」


「ヒサメ……」


 アサカが複雑な表情で俺を見る。


理性では俺の言っていることを正確に理解しているのだろう、納得としかし同時に拒否の意思をその顔に浮かべていた。


「とまあ……ここまでが普通に考えた際の結論だ」


「え?」


「ここからは裏技……一つ目の前提を打ち崩した場合の話だ」


 今回の試験が今後に左右されている……この前提を打ち崩すということは、今回の試験で今後が左右されないということになる。


普通に考えればそれはありえないことであり、アサカもまた反論する。


「いやいや、ありえないだろ、確実に評価は影響するって!」


「確かに評価の影響はあるだろうな……だけど、そんな影響に関係なく今後を歩むことができれば、それは左右しないということだろ?」


「は……どういう意味だ?」


 つまり、今回の成績に関わらず一定の道に進むことができるのなら、その成績がどうなろうと知ったことではない。


そういう考え方をした場合、いくつかの選択肢が生まれることになる。


「たとえば一つ目の選択肢だが……卒業後に探索者にならない」


 この問題は探索者になろうとしていることから発生している問題である。


だったら探索者にならなければいくら評価が低くても一切の問題がない。


「待て待て待て、言いたいことはわかったがそれは却下だ!」


「わかってる、けど、そういう方法もあるってことを理解してもらえればいい……まあ、ここからが本番だな」


 二つ目が、実力でのし上がること。


何らかの方法で学生時の成績以上の力があることを示し、それが目に留められればスカウトの可能性もある。


例えば、実力主義のチームで団員と力試しといった選考方法に乗るのがこの方法となる。


「ま、これの欠点として卒業生以外の在野にも腕の強い奴がいるから学生は取られにくい、そもそも試験時に力を出していればいいという問題が出ること」


 だから、結局のところチームにはアサカに手間をかけたという負い目を与えることになるため使うことが出来ない。


ただ、これで納得してもらえるのならアサカの実力も考えて一番やりやすく確実な方法である。


「なるほど……じゃあ、とりあえずこれで話をつけられればいいのか」


「そうだな……これで駄目だった場合、三つ目の方法ぐらいしかないだろうな」


「三つ目?」


「うちの従業員であることを利用した繋がりによるチームへの加入」


 『旅人』の客の中にはレスカさんやゲインさんのような一線級の探索者が常連としている。


中にはコーダさんのようにアサカと近しい人もいるのだ、アサカが頼み込むなり俺が口ぞえすればおそらくだが問題なく加えてもらえる可能性は高い。


無論実力がなければそのままチームに残ることは難しいだろうが、アサカならよほどのことがない限りは問題ないだろう。


「一番楽な方法だな」


「無論、デメリットもあるぞ」


 コネなどの利用による加入は傍から見れば実力を度外視されたもの。


実際にはそれだけの実力はあるのだとしても、それを知らない人間からは通用しない。


特に俺の立場は基本的に喫茶店のマスターからの紹介であるためさらに胡散臭さは増大していしまう……こういう時は立場が恨めしいな。


個人的に言わせてもらえば使えるのならば遠慮せずに使えといったところではあるし、基本的な探索者としての思考も似たようなところだろうが……やはりそう思わない者もいる。


現役の中でも相当なチームへ加入できれば、同じく狙っていた者たちからすれば横からかっさらわれたようなもの、妬みや恨みなどのいらない問題が起こることも決してないわけではない。


「楽だが若干角が立つ……できれば最終手段くらいのつもりでいてくれ……俺が考え付いたのはこれくらいだ」


「了解……すまん、いろいろと参考になった」


 そう言ったアサカはどこか迷いが晴れたよう顔をしていた。


この表情ならばもう大丈夫だろうと小さく安心しながら、俺はアサカに聞く。


「ならいいさ……それで、どうする気なんだ?」


「仲間と馬鹿やるさ、理由はお前に出してもらったのを参考に自分でも考えてみるよ」


「そっか……なら、掃除を再開するか」


「げ……了解」


 掃除そっちのけで話をしていたから当然作業は終わっていない。


近くに立てかけていたモップを渡せばアサカは若干嫌そうな顔をしながら受け取った。


「ただいま!」


 それとほぼ同時にルノが買出しから帰宅した。


時間ギリギリ、どうにか間に合ったようだ。


「あれ、まだ掃除終わってないの? 珍しいね」


「ああ、ちょっと色々あってな」


 ルノの疑問に軽く答えて俺たちは掃除を再開した。


面倒くさそうに掃除をするアサカだったが、話を聞く前よりは若干顔が明るくなったようにも見える。


多少なりとも力になれたのなら良かったと思いながら俺もモップを動かすのだった。




 その後の話であるが、結局考えに考えた結果アサカはこんなことを言ったのだそうだ。


「卒業してからしばらくはヒサメの店を全力で手伝うことにしてるんだ、アイツにはかなり世話になってるからな、少しくらい恩を返していきたいんだ」


 聞いた俺は唖然、だけどアサカとしては本気で俺の店を優先するらしい。


「ヒサメにしても、探索中常時店にいられる奴が欲しいんだろ? 卒業すればそれも可能だからな」


 この言葉には思わず納得せざるを得なかった。


確かにこちらとしては渡りに船の話ではあるが、これからのアサカの人生に影響するため簡単には頷けない。


「勿論、ヒサメが店にいるときは探索にも行かせてもらうさ、別に探索者を丸々投げ捨てるわけでもない、それにヒサメが『大迷宮』を探索し終わればそれも終わりだしな」


 前提崩し一つ目の探索者を辞めるというのを、こう改変して使ってくるとは思えなかった。


その上で二つ目を達成するための鍛錬と実績作りを欠かすつもりはなく、最悪ここの客と仲良くなれば三つ目も可能である。


今すぐは無理にしても『大迷宮』を踏破、正確には世界移動の方法を見つければ問題も解決する。


かなり長い話し合いをすることになったが、こちらにも魅力的な提案であったため結局はアサカの提案をのむ事になった。


アサカには感謝の言葉しか浮かばないが、さすがに面と向かって言う気にはなれず、こうやってお茶を濁す。


「ま、代理店長の仕事が出来るくらいには扱かないとな」


「げ……でも、そうだよな……はは」


 アサカの引きつった顔に笑いながら、俺たちはよろしく頼むと拳をつき合わせるのだった。






 喫茶店『旅人』、従業員の給料が上がったとか上がってないとか。

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