11 発見
◯ 11 発見
しかし、ここはアストリュー並に、というかアストリュー世界よりものんびりと時間が流れている気がする。取り敢えずはネラーラさんとテレサさんに、ここでの女性の動きというか行儀を教わっている。神官らしい人に話を聞いたり、こっちでの流儀を教わっている。
「確かに浄化のお力をお持ちですので神官としての修行に入りましょう。まずは傷を治す力等、色々とありますが、大神殿に上がる程には修行が必要です」
でっぷりとしたお腹の中年の神官は、トロ爺さんと変わらないくらいのエロ視線を投げ掛けてくる。僕は既に付いていく気をなくした。今日は近所のというか、ヴァリーの故郷のオアシスである深青のオアシスにある神殿にて信仰を広めている神官に、宮殿に来て貰っての顔合わせだった。
「あら、一旦あちらに行ってお力の種類と強弱を見て頂くのではなくて?」
テレサさんが神官のエロ視線に小さく悪態をつき、疑いの眼差しで睨んだ。
「ええ。ですがお力が安定するまでは面倒を見なくてはなりませんからな」
そんなくらいではひるまずに、更に鼻の下を伸ばした神官がフヒヒと笑った。背筋がぞっとした。
「あらまあ、嘘はいけませんわ。私の姉も神官をやっておりますが、まず最初に大神殿に上がってお力を見て頂いた上で、修行の方向を決めるはずでしたわ。この事は報告させて頂きます」
ネラーラさんが毅然とした態度で神官を睨んだ。その視線だけで凍り付きそうなくらいの迫力を持っていた。そのまま宮殿の従者に目配せをした。
「あ、いや、そ、のようなことは……」
慌てふためき出した神官は、言い訳を考えようと必死なようで脂汗を滝の様に流していた。既に後ろに下がりつつ逃げ出しそうな状態だ。
「私にそのような虚言は通じないと思いなさい。無礼者!」
直ぐに部屋に傾れ込んで来た宮殿内の兵に囲まれた後は、何処かに連れられて行った。
「申し訳ありませんわ。あの様な神官がここの深青の宮付きの神官責任者として在籍しているなど、あってはならないこと。人が変わったと聞いてましたが……被害者が出ているやも知れないと思うと虫酸が走ります! 早急に神殿内部をっ徹底調査して頂戴」
僕に向かって謝り、頭を撫でて慰めてくれた。が、直ぐに振り返って怒りを爆発させながら大事な命令を下していた。
「で、ですが……」
「神を冒涜しているのはどちらだと? 心に問うて見なさい」
「はっ!! 畏まりました」
ネラーラさんの一言で、使命を全うする一人の戦士が出来上がっていた。さすがヴァリーのお母さんだ、カッコいい。惚れ惚れするよ。きっとテレサさんもこれを受け継ぎそうな気がする。
「神殿の位置は何処ですか? 怨念が溜まってないか見に行きましょう」
「まあ、ピピュアちゃん。大神官様並みのお力を持っているのね?」
テレサさんが目を見開いて驚いていた。
「さすがです。ではお出かけの準備を」
別でこちらでの従者の動きを教わっていたダラシィーが付いて来てくれるので安心だ。女性従者がこっちでの長い目のドレスから外に出る服へと着替えの手伝いをしてくれて、ネラーラさんと共に出かける事になった。
サラッとした布地で作られた衣装は体に着かず離れずで、下は膨らんだ裾をきゅっと絞った衣装だ。鼠の王国にこんな感じの服を着た姫がいた気がする。へそ出しは無いので露出は控えめだ。後は上から日よけのベールを被れば完成だ。
ヴァリーが御家騒動で逃げ込んだ東の塔に着いた。これが神殿?
「この塔はその昔、神々が憩いの場として、ここのオアシスをお創りになった時の名残りなのです。他の神殿とは少々おもむきが違っていて寛ぎの場としての施設としての役割の方が大きいのです」
武装した兵士に囲まれながら進んで行けば、そんな説明を受けた。
「そうだったんですね」
オアシスから引いた水が中庭を流れ、睡蓮のような花が浮かんでとても綺麗だった。戦いの後は既に無くなっていて、塔の先端も綺麗に補修されていた。ちゃんと見れば癒しの気がさりげなく建物全体に定着しているというか、清浄な地の気と水の気が混ざっている感じだ。
水の中の霊気を使っての浄化や治癒の方法があったけど、ここなら楽にそれが出来るはず。砂粒一つにも力が籠っているのだと感じられる。昔には分からなかった事が今なら分かった。
しかし、心配した通りに邪気に覆われている場所がある。これ以上は近寄らない方が良い。というか、邪神か悪神かの気配だ。押さえて入るけど、こんな中にいるから余計に分かる。
「ネラーラさん……」
「どうされました?」
僕は引き返す事を勧めた。ダラシィーには闇のベールを渡し、僕はラークさんに連絡を取った。建物の門を出た瞬間にネリートさんとセーラさんが走ってくるのが見えた。宮殿の転移装置から駆けつけたのだと思う。
「来て早々に見つけるとはさすがだ」
「ネラーラよ、兵達をもっと下がらせよ」
その命で直ぐにネラーラさんは連れてきた兵士達を下がらせ、塔を囲む様に陣型を取った。
「神官達を中庭に集め、固まらせるぞ。洗脳されているなら逃す訳にいかん!」
ダラシィーと作戦を取り始めたセーラさんは、建物の内部を3D映像で示している。
「ここに潜入するとは灯台下暗しか……」
そう言いながら、結界を張り巡らし始めた二人は既に戦う気で、闘志を燃やし始めていた。
「アッキ!! 待たせたなっ!」
二人から少し遅れて来たのはポースだ。
「ポース! 来たんだね」
「勿論だ。緊急の呼び出しがあったら来ていいと、ガーラジークが言ってたからな。早速とは穏やかじゃねぇが、どうなってやがる?」
と、再会を喜んでいたら、兵が神殿に入ったのを聞いたのか状況を見に外に出ようとしていた悪神が、二人の守り神の結界に慌てて攻撃魔法をぶつけて穴を開け始めたみたいだった。とんでもない轟音が響き始め、既にダラシィーが邪神達を相手に戦い始めていた。そこに死神達が加勢にやって来て、結界を維持しているセーラさんに挨拶もそこそこに走りだした。
直ぐに僕はベールの強化をし、セーラさんとネリートさんに引き継ぎの準備が出来た合図を送った。結界の維持は僕達でやる事になる。ビアラマ隊に周りを警戒してもらいつつ、ベリィーヌーヴには中庭の神官達を影縫いで逃亡を防いでもらっている。僕のベールを被ったダラシィー、ネリートさん、セーラさんはいつも連携しているおかげか、良い動きをしている。他の人が付けて素早く動く自分のベールの動きを把握出来る様になっているお陰で、戦況をポースと一緒に見ながら勉強もしていた。
「五人もいると塔が崩れないか心配だね」
意外と多い悪神の数に驚くしかない。こんな清浄な力の場所で、何故、潜伏していたのかわからないくらいだ。
「壁の強化は出来るんじゃないのか?」
「そうだね。やってみるよ」
紀夜媛とバッタ部隊と一緒に塔の壁を覆う様に結界の一部を動かしておいた。しかし、幾ら外側の壁を強化しても中の柱が全壊したら全部内側に崩れ落ちるのだ。半分以上が瓦礫となった建物の前で、捕まえた悪神と邪神に満足そうなセーラさんとネリートさんには、歴史的建造物の保存と言う概念は頭にはないと思う。
まあ、確かに悪神やら邪神を放置する事を思えば、こんな箱物の事なんて二の次三の次で良いのは分かる。僕の努力は無駄に終った。いや、塔の崩壊での死人が出なかっただけ良しとした。中に生き物がいないのを確認して結界を解けば全壊になった。最早何も言うまい。
「それで慰み者になっていた者達を、町の宿屋の地下で発見したからネラーラよ、確と支えてやってくれぬか」
「お力及ばず申し訳ございませんでした」
唇を噛んで悔しげに頭を下げたネラーラさんは泣いているみたいだ。
「いや、我らも同罪だ。神殿の腐敗等、世の末と思われても仕方ない。彼女達、いや、あー、綺麗どころは揃っておるからそっちもよろしくな?」
顔を上げたネラーラさんは空いた口が塞がってなかった。分かるよ。僕も涙が止まるくらいにビックリした。ダメだこりゃ。おこぼれに預かっていた神官達と、気付いていながら他の神殿に連絡をしなかった神官達は分けられ、処罰が与えられる事になっている。刑罰はかなり重い。
後で分ったのは、気が付いて大神殿へと向かおうとした神官を見せしめの様に殺し、それを仲間である神官に砂漠の何処かに埋めに行かせて脅しを掛けていたのが判明した。恐怖支配で疲弊した神官達は言われるままに動く人形となっていたという。
そんな人達は罰を受けつつ、心のケアと悪神達との対峙を避けつつ連絡を取る為の勉強をして行くみたいだ。要は修行だ。町の人達との信頼関係を築いていれば、そんな状態からでも打開策はあったのだから奢り高ぶった気持ちが引き起こした事だと二人の守り神は厳しかった。
「ふん、我らの呪いで精力は子供並みか死にかけの爺くらいに落ちたはず。生まれ変わったとてしばらくは効果は続く」
「永続させれぬのは悔しいの、何とか力をつけれぬのかと思うぞ」
「…………」
守り神の何げない会話でここでの女性が強い訳を、思い知りました。悪神に呪いを掛けるなんて、怜佳さんくらいだと思っていたけど違った。女神の方がこういった力は強いのかもしれないと、しっかりと頭の中に刻んでおいた。




