医科大学院生①~ハンサムな講師
医院に生まれた双子。
弟は院長祖父の期待に沿いエリートコースを歩み医学部を卒業し医科大学院生である。
外来に配属の新人ナースさんは看護教育のために附属病院が主催する研修を受けなければならない。
病院勤務の医師と違いナースは専門科が固定されているわけではない。
オールラウンドなプレーヤーが要求されていくようである。
「だからね総合病院の看護は嫌っ」
個人経営病院なら内科なら内科で転科はない。
「私達ナースは外来から病棟内科や外科までも詳しくならなくちゃ」
元来勉強が嫌いなナースさんたち。
普段の外来勤務だけでも覚えなければならないことがゴマンとあったのである。
看護を卒業して病院勤めの希望に総合病院を入れていた。
しかしである。
夢と現実の解離は激しくがっかりとしてしまう。
附属病院の運命は悪運がつきまとうのかもしれない。
大学としてナースはユーティリティな存在であることが望ましいのである。
新人看護研修教育にナースは気乗りしない。
お給料の中に研修も含まれると思うから我慢して長時間座っているのである。
研修を嫌がるナースは暗い顔をしてしまう。
とぼとぼっ
重い足取り
下を向き
病院最上階の研修室にゆっくり向かう。
同じフロアにいる外来耳鼻科と眼科のナース。同級生は待ち合わせして一緒に暗い気持ちで向かう。
ああっ~研修だって
嫌だなあ~
勉強は看護学校でしたのにね
もう頭には医学も看護も入らないもん
「退屈して研修中に寝たら講師の先生に叱られちゃうかなあ」
ああっ~
憂鬱さんだなあ
とぼとぼっ
学園の大学医学部附属病院の新人看護研修教育は各分野の医師や看護学校の教員が講師である。
各自専門性の高いテーマを定め数回研修講演を行っている。
本日から内科研修。
ナースさんは看護学校時代から内科学や外科学は範囲が広く複雑化されており苦手でキライだった。
「内科研修なんてつまんないもん。早く終わりにならないかなあ」
研修が終わったら仲良しナースで美味しいアイスクリームをラウンジに行きたいなあ。
内科医の講師は大学の名誉教授さん。
権威のある医学部教授の職を定年し学園の医学部に天下りしてきたオジイチャンである。
肩書きは立派なれど
お年寄りの話はなにかと眠たいだけだった。
「ナースの皆さんに申し上げます」
病院職員が名誉教授の欠席を告げる。
「名誉教授先生は都合により欠席でございます」
新人ナースはにんまりである。
本日の研修は休講だ。
嫌で退屈な内科研修はバツよっ!
喜んでしまう。
「つきましては…急遽ではございますが」
教授の大学(院)にお弟子さんがいらっしゃいます。
「申し訳ございませんナースの皆様。名誉教授の代講といたしまして大学院生の研究員の先生に来てもらいました。では先生宜しくお願い致します」
職員はさっと頭をさげると足早に退座した。
苦情の出る前に部屋を出たい腹である。
熟練の内科医教授と研究者の卵・大学院生とでは話の内容に大差がありそうである。
若造が講師?
がっかりである。
いえいえ
がっかりは研修が無くならないことにナースたちである。
「あらっ。どのみち研修はあるわ」
職員は逃げるように研修室を出る。
代わって背の高い白衣姿の青年が現れた。
エッ~!
研修会場は一瞬にしてざわめきである。
研修なんてうんざりのナースたちは口をポカンと開き固まる。
「ほっ本当!嘘みたいな」
目をギラギラ輝かせ白衣の大学院医学生に釘付けになった。
「嘘っ!ヤダァ~夢でしょう」
コンタクト着用のナースは目をパチクリしたまま信じられぬ光景を目の当たりである。
机に座ったナース
あんぐり口を開けたまま身動きできなくなっていた。
「急遽でございます」
名誉教授先生が研修に来られなくなりました。
「代わりに若輩者の私が内科学の本講義から受け持つことになります」
爽やかなイメージの大学院生は軽く頭をさげた。
研修ナースは全員がポォ~として内科学を聴講する。
よく響き渡る青年の講義。
どこぞのハーレムに辿り着いて快感となって耳に残る。
「以上です。研究課題内科学を終わります。いかんせんナースさんの研修講義は初めてですので」
解らないことがありましたら
「遠慮なく質問をしてください」
爽やかな講義は終わった。
翌日の附属病院の外来担当ナースは例外なく異変がおこっていた。
朝からカルテ整理は間違える。
患者さんの名前を読み間違えたり。
診察室の次に行くレントゲンや臨床検査の指示を言わなかったり。
「ねぇナースさん大丈夫ですか。具合が悪いですか」
外来のナースたち。
耳鼻科も内科もそれぞれ大なり小なり患者さんにクレームを言われてしまう。
午前の外来診察が終わるとお昼休み。
外来担当ナースたちは仲良く職員ラウンジに向かう。
「フゥ~診察の患者さんに小言言われちゃったなあ」
自分たちではしっかりしているつもりでも間が抜けていた。
あのハンサムな大学院医学生を考えて物思いに耽けてしまうらしい。
「アッア~ン」
「背が高くてかっこいいわあ」
胸がキュッとしめつけられてしまうナースは年頃の若い娘さんでもあった。
ぽかぁ~んとして午前中の診察を過ごす。
雰囲気からのんびりさんなナースさんたちである。
「お昼は何を食べましょうか」
職員専用ラウンジに向かう。
同僚ナースらが互いに様子がおかしいことを気づく。
「どうかしちゃったのかな?体調が悪いのかしら」
風邪ひいたの
生理痛?
「ううん。たいしたこともないんだけど」
上の空でナースたちは返事を繰り返す。
"あのハンサムな大学院生に恋煩い!"
ナースらは各々好きなランチをラウンジのメニューから注文する。
「あたたっ困ったなあ」
内科ナースは仲良くラウンジにきたものの美味しそうな定食類を眺めても空腹感がない。
恋煩いで胸がつっかえて食欲がわかないのである。
「ごめんなさい。私食べたくない」
若いナースのことである。
ダイエットしているの?
だったらサンドイッチなどの軽食でお腹を満たさないと。
「ううん心配してくれてどうもありがとう。本当に何も食べたくないの」
いっぱいだわっとポンポンお腹を叩いてみせた。
あらっお昼をスキップ(食べない)で大丈夫っ?
同僚ナースたち。看護業務の苛酷さを考えると"大盛りランチ"を空腹の勢いでかき込みましょうである。
「うんごめんなさいね。次はランチに誘ってくださいね。私はジュース一杯で充分よ」
同僚らはランチ食券を買い求める。頭がくらくらしていても食欲は別物である。




