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医科大学院生②~ナースの憧れ

券売機の前に数人揃ってナースや女子事務員らが並ぼうとする。


うん?


そこに颯爽と背の高い青年が現れた。今は医師白衣ではなく背広姿である。


背筋を伸ばした格好はかなり大人っぽく見え好青年である。


ラウンジは附属病院の医療職と事務職員ばかり。


「あらっちょっと」


見掛けない顔の(ひと)ね。


ナース同士互いに顔を見合せてみる。


「誰かしら。映画俳優かしら?」


入院患者さん?


事務職も固まってヒソヒソとやる。


「ハンサムね。誰かしら」

背の高い男性は券売機の前である。


どこを押せば好みの食券が出るのかなっと首をひねりながら思案している。


見るからに病院のラウンジは初めてという風情である。


どことなく初々しさも感じ取れた。


ランチを待つナースや若い女子事務員。


背後から眺めてはかっこいい男性の噂である。


「なんか若そうね。ドクターかしら。職員ラウンジに来ているというと附属病院関係だろうかしら」


患者さんが職員ラウンジに紛れてきたとは違っているようである。


「トレンディドラマの俳優(医師)はたぶんあんな感じだわっ」


遠目にナースらは憧れを抱いてしまう。


外来担当のナースたち。


青年が昨日の講師の大学院生と気がつかない。


まさか他の大学院生が背広姿で附属病院をうろうろしているとは夢にも思わないのである。


ひとり寂しくジュースを飲むは内科のナースである。

広い職員ラウンジ片隅のティールームにポツリと座る。仲良しの外来ナースらもランチが済めばこちらにお茶をしにやってくる。


それまで待とうか


「アアッ~」


溜め息をひとつ


"ラウンジの外"を眺める。

附属病院の庭なんか眺めても嬉しくないなあ


手持ち無沙汰。


携帯を取り出しカチャカチャと暇潰しする。


ポシェットの口を開ける。

ふぅ~


携帯つまんない


朝からナースには気力というものが失せていたのかもしれない。


何をしてもダメではないか。


気力のないナース


ため息ばかりである。


「ねぇねぇちょっと見て」

あそこにいるのは研修講義のドクター?


外来のナース。ラウンジで大学院生を発見する。


いい男はどこにいても目立ち女の子の視線を集めるのである。


白衣もかっこよかったが背広もなかなかの着こなしである。


「ねぇ誰かひとりさぁ」


勇気を出してくれない


"ドクター一緒にランチしませんか"


「聞いてっ。アアッん気になるわあ」


遠目に見てもハンサムである。見れば見るほどかっこいい青年である。


ランチを頬張る横顔などは映画の俳優やテレビタレントにどことなく似ている。

「トレンディドラマの俳優やタレントに似てる?ヤダァ~私もそう思っていたのよ。瓜二つに見えてよ」


トレンディ(医療ドラマ)の主人公がそこにいるようである。


その他にいるナースにも大学院生はわかりキャアキャアと騒がれてしまう。


噂をするのはランチするナースだけではなかった。


若い女子事務員さんも。


通りすがりのおばちゃんナースもである。


「隣り合わせテーブルの事務員さんに聞いたのよ」


あのハンサムさんは


ドクターなの?


何科?


事務員ならわかりそうなものでしょ?


「附属病院の職員名簿は事務員が作成するんだから」

知って当然でしょ!


「ごめんなさいね。事務員だってすべての医療職員らを把握しているわけではないわ」


それはむしろ


医療の現場さんの看護職に聞きたいわ


「あらっ嫌だぁ」


ランチを食べるだけの大学院生はわけのわからぬ謎のハンサムボーイに祭り上げられてしまう。


好青年な大学院生はそんな騒ぎは露知らずである。


さっさとランチを食べ終わるとスクッと席を立とうかとする。


「ヤダァ~ラウンジからいなくなっちゃう。引き留めて一緒にお茶したいなあ」

病棟ナースや女子事務員はどうしても素性が知りたくなる。


ナースという医療職は誰しも疑問符は残さず即決したいのである。


謎のハンサムはラウンジからティールームにいこうかとした。


「あっあっ!(お茶するわ)」


ナースは食べかけのランチを前にしたまま口をあんぐり開けた。


「失礼します。(隣席を)よろしくて」


ティールームではボサッとしている内科ナースは背後から声を掛けられた。


「あっハイッ」


心地よいオーディコロンの香りとともに聞き覚えのあるやさしい声である。


クルリと振り向いた。


アッ! 


ナースは飛び上がらんばかりに驚いた。


アッア~ガァ~


横に…


憧れが来た


ティールームの横の席に


乙女の胸がどっくんとトキメクのである。憧れの"大学院生"がいるではないか。


「こんにちはっ。確か君は研修教育を受けてくれたナースさんだよね。担当は内科だったね」


よいしょっと


ハンサムな大学院生は美形内科ナースの横に座る。


(はた)から見ると"美男美女"の組み合わせ。


お似合いのカップルという二人にも見えなくもない。

「昨日の内科研修の講義はいかがでしたか。僕は内科教授の指導される大学院生なんですね。人前で話しをすることは初体験で」


あれだけ若いナース(女の子)の前で講義は照れくさいなあ。


大学院生は照れてしまい本音を話した。


朝に教授が体調を崩されて電話が掛かってきた。


「すまないなあ。学園のナース研修教育を代わりにやってくれたまえ」


医科大学院生は優秀な人物である。


名誉教授の信頼は当然に厚いのである。


「それはたいへんでございました」


代理講師となられたので研修ナースは喜んでいます。


「ナースが喜んで?」


うん?


怪訝な顔をしてしまう。 

国立大医学部を優秀な成績で合格しそのまま首席卒業をしている。


医師免許合格して学部卒業。しばらく時間に余裕あるからと医科系大学院に進学し医学研究に没頭したかった。


大学院進学は当初アメリカの医科大留学をしたいと志望する。


そんな折りに幸いなことに指導を受けた教授から院に残り研究を手伝っ欲しいと頼まれたのである。


名誉教授からの鶴の一声は将来大学に残って出世する可能性を秘めている。


「大学は講義を医者になるために一生懸命聴いてはいたけど」


日夜努力して医学を修得したのはよいが。


若いナースを前に内科学研究を披露することは奥手であり苦手である。


「僕の研修講義を聞かれていかがでしたか。僕はろくろく下準備もせずにお話をしてしまって」


慌てしまい言いたい内容の半分も講義できなかったと受講生ナースに反省する。

謝られたナースは大学院生のオーデコロンのきつめな匂いに心地よくなってしまう。


"このドクター先生は遠くで見てもハンサム"


ましてや息のかかるような隣席に座られたら


"横顔はトレンディドラマの俳優によく似てる"


ナース研修教育ではそのトレンディさを見せて若い娘の"ハート"をバキューンと射抜いてしまった。


「君は内科の担当さんだよね」


"あらっ嬉しい。研修出席者の名簿から私をチェックしてくれている"


"私が可愛いナースだから覚えたのよ。イヤ~ン!そんなことないわ"


内科担当ナースはひとりだけ。内科医としてなんとなく親しみがわいていたのだ。


憧れの大学院生に当てられた気分になる。


「附属病院の泌尿器というと。君はマユミ先生の担当になるのか」


女医マユミ?


いきなりマユミの名前が出てしまいポカ~ンとしてしまった。


「ねぇねぇどうして?」


外来のナース仲間は合点がいかない。新米の内科ナースだけが俳優顔負けの大学院医学生と仲良くティールームでデートをしているなんて。


「なぜなの。妬けるわね」

ねぇねぇ


「ひょっとしたら兄と妹なんかじゃあなくて」


赤の他人ではなくてよ


いやっ今時の男は若い女の子が好きなだけよ


わいわい騒ぐ小賢しい雀のごとく。


女だけの集まりナース軍団。


そこに女子事務員が割って入る。


「わかったわよ。あの(ひと)はね」


ナース研修教育の内科教授の教え子と教えてくれた。

「内科教授って。医学部定年退官されたあのオジイチャン先生でしょ」


てっことは…


内科教授は国立大医学部卒業生。学園に名誉教授として天下りしている。


「えっじゃあ~大学院のドクターさまはあの国立大学の医学部卒業生なの!」


有名難関大学医学部である。


卒業生ならエリート中のエリートではないか。


背は高く彫りが深くてハンサム。


「非の打ち所のないお医者さまではないですか」


後ろ姿を拝見するだけでナースたちは垂涎ものとなっていた。


ハンサムな大学院医学生はどんな男だろうか。


18歳の女の子。


内科外来ナースたちが一目惚れし恋に落ちたハンサムボーイである。


都心の生まれは医系で両親とも内科の開業医。


生まれは双子の兄弟。二卵性の"兄"がいる。


江戸時代まで遡ればお城の主治医"薬師(くすし)"を務めている。司馬遼太郎の歴史小説にその先祖の名前が登場し活躍している。


曾祖父にあたる先代は学園に大学医学部創設の運動に尽力していた。


大学附属病院としては功労者のひとりであった。


双子の兄弟はお受験を経て国立大附属小学校に入学。

中高も双子は揃って誰もが知る有名進学校に進む。


成績のよい弟はひたすら勉強に打ち込む高校生。兄は残念ながらドロップアウトしてしまう。


弟は祖父や父親も卒業した難関国立大医学部受験に邁進するため常に学年トップの成績である。


勉強に次ぐ勉強の努力は実り見事希望する大学の医学部へ。


ストレート合格を勝ち取る。


医学部に合格しても手綱を弛めることもなくさらに学習意欲を燃やしていく。


"僕は祖父や父母のような名医になりたい"


他の同級生は入学と同時に遊んでだらけるのだがエリートは違っていた。


「あのぉ~先生は」


内科ナースはティールームで大学院生の話しにポォ~となってしまう。


インテリ医学生らしく話はためになることばかりである。医学全般から専門の内科学まで時折ユーモアをまじえ駆け出しのナースに分かりやすくである。


話術は巧み。


難しい内科学さえも飽きさせはしない。


「ナースさんも内科担当だからね。初診の患者さんが内科に来るので所見は大切だ」


内科ナースさん。しっかり看護お願いいたします。


「休憩時間も終わりだね。内科外来は受付フロアにあるんだよね」


学園の附属病院はまったく縁がなかったからよく知らない。


「せっかく研修教育で講師を勤めるのでこちらの学園附属病院を見学してみようかと思うんだ」


ハンサムはにっこりと微笑む。


ナースはにっこりされて顔がひきつけを起こしそうになってしまった。


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