7-5 消費税との接続(制度交差点)
7-5 消費税との接続(制度交差点)
派遣制度の拡張を語る上で、税制の存在を切り離すことはできない。ここで重要なのは、誰かが悪意を持って制度を組み合わせたという話ではないという点である。それぞれの制度は、それぞれ合理的な目的のもとに設計されている。しかし、制度同士が交差したとき、想定外の力が働く。
消費税制度は、事業者間取引における付加価値に課税する仕組みである。企業は仕入税額控除という仕組みによって、外部へ支払った対価に含まれる消費税分を調整する。ここで問題となるのは、同じ「労働力」であっても、その契約形態によって会計処理上の位置づけが変わる点である。
直接雇用の場合、人件費は給与として扱われる。給与は仕入ではない。したがって消費税の対象外である。一方、派遣契約は外注費として処理される。外部企業との取引として計上されるため、消費税の計算上は仕入に近い構造になる。
ここで企業にとっての合理的比較が生まれる。
・直接雇用による固定的人件費
・派遣契約による外注費
どちらも労働力を確保する手段である。しかし税務処理の構造が異なる。さらに前章までに述べた通り、派遣には雇用責任軽減という利点がある。解雇リスクを抑え、人員調整を柔軟にし、教育コストを抑制できる。
ここに税制が接続すると、合理性は二重化する。
企業は社会を壊そうとしているわけではない。単に会計上、法制度上、最適な選択をするだけである。しかし「税制 × 雇用制度」という組み合わせは、派遣利用をより魅力的な選択肢へと押し上げる。
重要なのは、派遣制度単体ではここまで拡張しなかった可能性であるという点である。税制との接続が、制度の選好構造を変えた。これは陰謀ではない。構造である。
制度は単独では機能する。だが、複数の制度が重なると、力は増幅する。派遣制度は労働市場の問題を解決するために生まれた。消費税制度は財源確保のために導入された。どちらも合理的な制度である。
しかし交差点において、企業の合理的選択は一方向へと傾く。
その結果、労働の契約形態は徐々に変化し、直接雇用は相対的に重い選択肢となる。これは感情ではなく、制度設計の帰結である。
本章で強調したいのは、「派遣が悪い」「消費税が悪い」という単純な図式ではない。制度が交差したとき、合理性は増幅される。合理性が増幅されたとき、社会構造は静かに変わる。
派遣制度の拡張は、雇用政策だけの問題ではなかった。税制との接続という見えにくい要素が、転換点を強化していたのである。




