7-1
7-1 導入:悪意ではなく合理が作った制度
第7章では、派遣制度を単なる労働問題として扱わない。
これまでの章では、派遣制度が少子社会の構造にどのような影響を与えてきたのかを整理してきた。しかしここからは少し視点を変える。派遣制度を「問題」としてではなく、「転換点」として捉え直す。
まず最初に確認しておきたいのは、派遣制度が悪意から生まれたわけではないという点だ。
国家が未来を破壊しようとしたわけではない。企業が社会を不安定にしようとしたわけでもない。労働者もまた、何かを壊そうとして選択したわけではない。
それぞれが合理的に行動した。
国家は経済環境の変化に対応しようとした。企業は競争の中で生き残るため、効率的な手段を探した。労働者は生活を維持するため、その時点で可能な選択をした。
つまり、誰かの悪意によって制度が作られたのではない。
合理の積み重ねによって、制度は形成された。
しかしここで重要なのは、合理的な選択の積み重ねが必ずしも望ましい結果を生むとは限らないという点である。
制度は単独で存在するわけではない。複数の制度が交差し、影響し合い、予期しない方向へと社会を動かしていく。ある制度が合理的に導入されたとしても、別の制度と組み合わさったとき、その意味は変わる。
派遣制度も例外ではない。
当初は合理的な解決策として成立した制度が、他の制度や環境変化と交差することで、社会構造に大きな変化を生み出した。
本章では、この交差点を見ていく。
派遣制度は単なる雇用形態ではない。それは雇用責任、労働アクセス、企業行動、税制、技術進化など複数の要素が交差した地点に存在している。そしてその交差点こそが、日本社会にとって大きな転換点となった。
ここで改めて強調しておく。
本章は誰かを責めるためのものではない。
制度の設計者を断罪することでもなければ、企業の行動を倫理的に評価することでもない。必要なのは、善悪ではなく構造の理解である。
合理的な選択が積み重なった結果として、なぜ現在の状況が生まれたのか。
そして、その転換点はどこにあったのか。
派遣制度は、その中心に位置している。
次では、制度誕生の背景にあった「労働力アクセス問題」から見ていく。
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