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15.密告

 

 ブロムのところで働いていた従業員は皆長い付き合いだった。そのため別れとなると、皆しみじみとしていたが、一人だけどこか一歩引いた感じで冷静な男がいた。


 その男は、他の従業員と別れると、一人ある場所に向かった。


 それはタルグリン商会だ。ここは酒の取り扱いが豊富で、自分たちで酒造りまで行っている大手の商会だ。

 男は商会の中に入ると、受付でこういった。


「大至急、タルグリンさんに伝えたいことがある」


 本来であればアポもなしに商会長であるタルグリンに繋ぐことはしないが、その男とこの商会はそれなりに付き合いがあることは受付嬢も理解しているため、そのまま案内した。


「タルグリンさん、ようやくだ! ようやく親方は店を閉めることを決めた!」


 商会長であるタルグリンはブロムに対して声をかけていた男だ。


「ほう、ようやくですか」


「ああ、これで、俺の借金はチャラになるんだよな?」


 この男はタルグリンから莫大な借金を抱えていた。その借金を帳消しにするという約束で男は様々なことをやらされていた。


「ええ、もしうちの商会で囲うことができたら、追加のお金を上げましょう。だから、それまで協力しなさい」


 タルグリンは気分良さそうに男に対して言った。追加のお金がもらえると聞いて男もうれしそうに笑った。


「それで彼はこれからどうすると?」


「それが田舎に引っ込むとか……」


「それはいつ?」


「そこまでは……」


「そうですか」


 内心では使えない男だと思ったが、まだ使い道はある男なので、余計なことは言わない。


 そして、ブロムが田舎に引っ込むまでに話をつけなければいけないと、自分のスケジュールを手帳で確認する。


 ふとある考えが浮かんできた。


(本当に彼は田舎に引っ込むのでしょうか?)


 ブロムは酒造りしかしてこなかったドワーフだ。自分がいくら邪魔をしても誘っても受けることはせず、頑固に自分のところで酒を造り続けた。最後に会った時も、心が折れているような感じはなかった。そんな頑固者がすべてを捨てて田舎でのんびりするなんていうイメージが湧かなかった。


(嘘をつく理由は……?)


 もしタルグリン商会以外のところで作るとしても、それは嘘をつく理由にはならない。しかし、他の町で酒を造るとなれば、領主に目をつけられる可能性がある。もし別の町に行くのであれば、領主に目をつけられる前に夜逃げのように去ってもおかしくはない。


 そこまでの推察はできた。しかし、確証がない。


「ホーミック、今すぐ酒造店に戻って、こっそりとブロムが何をしているのか見てきてください」


「はい?」


「何もなくても今日一日ぐらいは見張っていてください。それでもし何かおかしなことがあれば、すぐに私のところに来てください。いいですか?」


「は、はい!」


 タルグリンはホーミックに指示を出した。


「嫌な予感が当たらなければいいですけど……」


 タルグリンは自分の考えの確証を得るためにホーミックを使った。これが無駄なことだと願って。






 再び酒場に戻ってきたホーミックは、指示通りこっそりと裏口に回った。中の様子をうかがうべく、耳を澄ませていると親方と弟子の会話が聞こえてきた。


「それで親方。タケルさんのところに行くのに何持っていけばいいですか?」


「向こうが色々用意してくれるから、旅に必要な最低限のもので大丈夫だ」


(旅!?)


 田舎に引っ込むと言っていたが、それのことを言っていたのか。しかしそれなら弟子までついて行く必要はない。ホーミックは何か様子が変だと思い、引き続き耳を澄ませることにした。


「なんかちょっと楽しみになってきましたね。親方はどうですか?」


「俺もちょっとわくわくしている。あいつの作ったブドウ食ってみただろ。あれはいいブドウだ。だから、俺はあいつとなら最高の酒を造れる。そんな気がするんだ。」


(最高の酒を造る!?)


 ホーミックはマズいことになったと若干顔が青ざめた。


「なんか久々に元気な親方の顔を見た気がします」


「はっ、うるせー! さっさと準備を済ませろ。もうここには戻ってこねーんだから忘れ物すんじゃねーぞ」


 これはタルグリンに伝えなければと思ったホーミックは、再び裏口から出ようとする。


 しかし、足元に置いてあった酒瓶に足が当たり、カランっと音が鳴ってしまう。


(まずい!)


「あれ、今なんか音がしたような……」


 弟子が音がした裏口の方に向かう。すると、そこには倒れた瓶を直しているホーミックがいた。


「あれ? ホーミックさん、どうしたんですか?」


「いや、ちょっと忘れ物をしてしまってね。でも、大丈夫。もう取ってきたから」


「そうですか」


 ホーミックは居たことがバレるのが隠せないと判断し、開き直って堂々とした。これまでもこの店でさんざん色々なことをやってきた。それでも尻尾を掴まれなかったのだ。今更これくらいのことではバレないと判断した。


「では、私はこれで」


 そう言って立ち去っていくホーミックを弟子はただただ見送るのであった。






 ホーミックは走ってタルグリンのところに向かう。商会にあるタルグリンの部屋に入ってすぐにホーミックは切り出した。


「タルグリンさん、不味いことになった!」


 タルグリンはホーミックが部屋に入ってきた時点で、嫌な予感が的中したことを確信した。


「うちの親方はどっかよその町に行って酒を造るみたいだ」


「やはり、そうですか……詳しい話を聞かせてください」


 ホーミックはすでに旅の準備をしていること、もうここには戻ってこないことなどあの場で聞いたことをすべて伝えた。


 叶ってほしくない予感が的中してしまったが、タルグリンは焦らない。


「よくぞ、ぞの情報を私に伝えてくれました。もうあなたは帰っていいです。あとは私の方で何とかします」


「あ、あの、借金の方は……」


 帰れと言ったのに、帰らないホーミックに少しばかりイラっとしたが、さっさと帰すために報酬を与えることにした。


「……いいでしょう。これまでの働きとこの情報を持ってチャラとします」


「ありがとうございます!」


 ここからは時間の勝負。目の前にいるクズを相手にしている暇はないのだ。ホーミックが出て言ったところで、秘書を呼ぶ。


「今すぐ領主様のところへ向かいます。緊急事態だと先触れで伝えてください」


「分かりました」


 タルグリンの予想では、早くて今日中、遅くとも明日には去るとみている。だから、今日中にブロムの身柄を確保する必要がある。そのためにはただの商会の力では難しい。ゆえに、領主の力を利用するのだ。


 タルグリンは領主の屋敷に到着し、部屋に招かれる。


「どうした? 緊急事態だと聞いてわざわざ時間を作ったのだ」


 領主はどこかピリついているようだ。


「はい、どうやらブロムがこの町を去り、別の町にて酒を造るようなのです」


「何?」


 領主から出た言葉は明らかに怒りの感情が乗っていた。


「これは私の予想ですが、今日もしくは明日にはこの町から出るかと。何やらどこかに行く準備をすでにしているようで……」


「結局こうなるのであれば、適当な理由をつけてさっさとこうしておくべきだったな」


 長年時間をかけて策をこうしたにもかかわらず、結局は武力を使って言うことを聞かせる結果になり領主は、ため息がつきたくなるような信条だった。


「いえいえ、あれは頑固な職人です。無理やり働かせてもどこまで本気でやることやら……」


「まあいい。すぐに騎士を派遣する。説得には貴様も協力せよ」




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