25.救援要請
「なんつーか、増えたな」
少し前と比べて村の規模が拡大し、獣人の数が増えたのを見てタケルはこう言った。
「獣人たちのつながりで話が広がったみたいね」
獣人ネットワークでタケルの下につけば食料をもらえるという情報が広まり、人が集まってきたようだ。
「それにしてもここまで増えるとはな」
近くにある村の獣人たちは全部来たんじゃないかというくらい人が来た。細かい話はしていないので、タケルはよく分かっていないが。
「蓄えがあるところが少ないみたいね。私もここまでとは思っていなかったけど」
フィリーはエルミィたちを受け入れることを決めた時点である程度の数は増えると思っていたが、ここまで増えるとは思っていなかった。
ただ数が増えたので村の拡張スピードはアップした。ついでに畑も拡張した。
「だが、これで俺の世界支配計画が前に進むな」
「何よそれ」
「俺は、ゆくゆくは食料を大量に作りこの世界を支配するのだ! わっはっはっは!」
フィリーは若干呆れたが、タケルの能力を考えれば不可能ではないことも知っている。だが、タケルが作る未来がそんなに悪いもののような気はしないのだった。
「そしたら私も一枚噛ませてもらおうかしら」
「おお、いいぞ! 世界を食料で支配するには人手はあっても困らんからな」
「タケル兄ちゃん! 俺もなんか手伝いする」
「おお、そうか。ジルが手伝ってくれるなら百人力だな」
そう言ってタケルはジルの頭をなでると、ジルは嬉しそうに笑った。
◆
タケルの村の中にある訓練場。ここでは警備部隊や狩り部隊に参加する獣人たちが集まっている。そして、その前でフォリンが先輩として指導をしているところだ。
「ここじゃあ、タケルの兄貴が絶対っす! ホワイトウルフ先輩やディープウルフ先輩にも敬意を払うっすよ」
フォリンが警備や狩りを行う獣人たちに向かってこの村で生きていく上での大事なことを話している。
「兄貴は強いっす! それに弓もすごいっす!」
「どれくらい強いんだ?」
「うーん、兄貴と俺っちが戦ったときは一瞬で制圧されたすね。しかも俺っちは剣を持っていたのに、兄貴は武器を何も持っていない状態だったすね……」
フォリンはかつての愚かな自分を遠い目で見る。
その言葉を聞いた獣人たちはざわめき始めた。フォリンは決して弱い獣人ではない。ここに集められた獣人たちの中ではトップクラスに強い部類に入る。そんな男が一瞬でやられたとなると驚くのは当然だ。
「まあ、たぶんここにいる全員が束になっても敵わないっすね」
「……」
その言葉に静まり返る。
「まあ、兄貴に逆らわなかったら大丈夫っすよ」
ここにいる獣人たちはこの村に来てから日が浅く、タケルの人柄を知らない。よっぽどのことがない限り怒ることはないのだが、それを知らないので、内心ビビっている獣人も多い。
「ただ兄貴に逆らったらこれっすよ。まあ兄貴が手を出さなくても、一番の舎弟であるフォリン様が罰するんで注意するんすよ」
フォリンは首切りのジェスチャーをして皆をビビらせる。こういうのは最初が肝心なので、フォリンは他の獣人たちに上下関係を教え込む。さりげなく一番の舎弟なんていうありもしない地位を作り出して、自分を上に置きながら。
そんな風にフォリンが他の獣人たちを指導しているところに、警備をしていた獣人の一人がやってきた。
「フォリン、なんか慌てた様子のエルフがやってきたぞ」
「タケルの兄貴には?」
「もう他の奴が行った」
「うーん、なんかひと騒動ありそうっすね。とりあえず自分は兄貴のところに向かうっす。あとはよろしく頼んだっす!」
「あっ、てめぇ」
フォリンは他の獣人に仕事を押し付けてタケルのところに向かうのであった。
エルフの里から急いでやってきたリオスは、時は一刻を争うため無礼は承知ながらも、案内された集会所ではなく、タケルやフィリーたちがいる場所に直接やってきた。
そこは村の中で他の獣人たちも何事だと様子をうかがっていた。
「いきなりの来訪申し訳ない」
「いや構わねえけど、どうしたんだ。そんなに慌てて」
「今、我らの里に五千のオークが攻めてきている!」
「えっ!」
その言葉を聞いたフィリーは青ざめてしまった。そして周りの獣人たちは驚きざわついている。
「どうか我らを助けるために手を貸していただきたい」
そう言ってリオスは頭を下げた。
「もちろん助けてもらったら礼はする! だからどうか、我らを助けていただきたい!」
そう言ってリオスは再び頭を下げる。
(助ける義理も恩もねーんだけどな)
周りはざわついているが、タケルは冷静な目で頭を下げるリオスを見る。
無限に作れる農作物であればくれと言われればあげることはできる。しかし戦いになればそれは命の奪い合い。死ななくても怪我をして後遺症が残る可能性もあるのだ。そうそう安請け合いはできない。
タケルがしばらく黙って考えていると、リオスはエルドールが言っていたことを思い出す。フィリーであれば、手を貸してくれる可能性があるということを。
「フィリー殿! 私たちはあなたと同じエルフだ! どうか同族を助けるために手を貸していただきたい!」
リオスの必死な願いの圧に耐えられなくなったフィリーは何かにすがるようにタケルの方を見る。すると、タケルと目が合った。そしてフィリーが何か言おうと口を開こうとしたその時、タケルは何かを決心した。
「お前ら、俺たちは今からオークと戦う! やる気がある奴は三分で準備しろ! 遅れた奴は置いてくぞ!」
タケルはエルフたちに助力することに決め周囲に号令を出した。そして周りにいた獣人たちが一斉に動き出す。
タケルは普段獣人たちに命令しない。基本的に好きにやらせている。にもかかわらず、食料を無償で分けてくれて多くの獣人は救われた。だからこそ、獣人たちは恩返しをするタイミングというのを欲していたのだ。そのためこれから戦いに行くというのに、皆の表情は明るくワクワクしているようだった。
しかしその中で一人表情を暗くしているものがいた。それはフィリーだ。
「タケル」
「別にエルフだから助けるんじゃねーよ。調味料がなくなったら俺が困るからな。だから助ける。それだけだ」
「……」
フィリーは分かっている。タケルが戦う気がなかったことを。あの目が合った瞬間にフィリーの気持ちを汲んで助けると決めたことを。余計な争いにタケルを巻き込んでしまったことを。だからこそ、フィリーは内心申し訳なかった。そして、エルフの里が襲われていることもあり頭も心もくちゃくちゃなフィリーは何も言葉を紡ぐことができなかった。
「安心しろ。パッと行ってパッと戻ってくるわ。だから、お前はここで待ってろ」
そんなフィリーを安心させるようにタケルは柔らかい表情を浮かべそう言った。
「よーし、オークを滅ぼすぞー!」
どこからかタケルの号令を聞いたカリュネラがやる気満々で元気よく言った。
「いや、お前は留守番だ」
「えー!」
「全戦力がここからいなくなったら困るだろ。だから、お前は防衛役だ」
「えー!」
「フィリーが心配だから一緒に居てやってくれ」
タケルはフィリーに聞こえないようにカリュネラの耳元で小さな声で言う。
「んー分かった」
カリュネラとフィリーは一緒に服を作っている関係で仲がいい。なので、フィリーを持ち出されたらしぶしぶ納得したカリュネラであった。
そうして準備が整った。戦力の内訳は獣人三百人、ホワイトウルフとディープスパイダーが三百匹、そこにラグナとタケル。約九百の戦力が揃った。
五千のオークに対応するにはそれなりに数が必要なので、防衛戦力ギリギリまで援軍として送ることにした。防衛戦力は少なくなってしまうが、カリュネラがいるのでそう心配することもないだろう。そもそも周辺の村はタケルのところに集まってきている状態なので、攻められること自体ないとタケルは推測している。
獣人たちは皆ホワイトウルフに乗って移動する。すでにオークに攻められている状態なので、スピード重視で向かう。
「よーし、お前ら! これからエルフを助けに援軍に向かう! オークの奴らをぶっ飛ばしてエルフを救うぞ!」
「「「おおおおおお!」」」
こうしてタケルたちはエルフを救うために、エルフの里に向かった。




