24.飢えるオークの暴挙
オーク族の長であるバルガスは悩んでいた。バルガスは人望があり複数の村の長からも頼りにされている。実質的に周辺のオーク族を取りまとめている人物と言っても過言ではない。
そんな彼の下には数多くの食糧支援の要請が届いていた。しかし、バルガスの村にだって食料があるわけではない。これから冬が来る。現在の備蓄では確実に死者が出るだろう。
とはいえ、それでも頼ってくる村を見捨てることもできず頭を悩ませていた。
バルガスは一人で答えを出すこともできず、かといって問題を先延ばしにすることもできない。そこで各村の長やこの村の上役たちが集まり、これからどうするかを決める会議を行った。
そこに集まった面々は皆、険しい表情を浮かべていた。
「何か意見があるものはいるか?」
バルガスの側近のような立ち位置で働いているザルクが皆に質問をした。
「行商人に聞いた村との取引は?」
オークの村にも行商人であるエルニックはやってきていた。そのことを知っていたオークの一人が提案をした。
「取引できるものがない」
バルガスは淡々と答える。オーク族は決して豊かな生活をしていたわけではない。多少の金銭は残っているが、全員を食わすことができる金額には程遠い。
それに同じ森の中で生きているのだ。毛皮や採取できるものは向こうも持っている。それで腹いっぱい食えるほどの食料を分けてもらえるわけがないだろう。
「多少の金銭や毛皮などはあるが……」
「足りるわけねーか」
他の村の長たちも悔しそうにしながらも、バルガスの意見に同意する。
「獣人たちを受け入れているという話は聞いたが……」
「我々を受け入れてくれるわけではないだろう」
すでに獣人族の村を襲って食料を奪ったオークたちもいるという話も聞いた。もともと仲がいいわけでもなく、それほど交流があったわけでもない。その状況で食料を奪ったというのは致命的な話だろう。
バルガスはある村長に視線を向けると、他のオークたちも見る。その視線に耐え切れずに声を荒げる。
「仕方ねーだろ! うちの村はもう限界だったんだ!」
「責めているわけではない。だが、ことを起こすのであれば相談くらいあっても良かったのではないか」
バルガスは落ち着いて話すが、その村長は逆切れをする。
「あんたらが頼りにならねーからしょうがねーだろ!」
「おい、やめろ」
このまま喧嘩に張ってしてはマズいと思い、ザルクが仲裁に入る。そして静まり返ったその空間にぽつんと言葉が投げられる。
「そこを襲うか?」
仲が悪いのであれば奪うしかない。そう考えあるオークが提案をした。
「正気か? 行商人から聞いただろう。ホワイトウルフにディープスパイダーがある。しかも、言葉を操る魔物のな」
その言葉を聞いて、皆及び腰になる。特にディープスパイダーの魔物がヤバイ。縄張りに入ったらまず生きては戻れないとされており、決して足を踏み入れてはいけない場所だ。
それでも大勢でかかれば仕留められる可能性は十分にある。しかし、それには大きな犠牲が伴う。
「どうする? バルガス」
とあるオークがバルガスに問いただす。そして、その場にいる全員の視線がバルガスに集まる。
「やめておこう」
バルガスには多くの犠牲を伴う決断はできなかった。食料が足りない今、食べる人数を減らした方がいいことは分かっている。しかし、それでもバルガスは強い決断をできずにいた。
「それじゃあ、どうするだ! もう俺たちには奪うしか選択肢がないぞ!」
「……エルフだ。獣人たちに加えて、ホワイトウルフにディープスパイダーを相手にするよりましだろう」
それを聞いた他の面々も納得したかのような表情を浮かべる。
「我らが生きるためだ。仕方あるまい」
そう言ってバルガスは立ち上がり、それに合わせて他のオークたちも決意の目をしながら立ち上がる。
「ここにいない他のオーク族も集めろ! エルフの里から根こそぎ食料を奪い取る!」
こうしてオーク族のエルフの里への侵攻が決定した。
◆
エルドールが一人お茶を飲んでいるところに、慌てた様子の一人のエルフがエルドールの下にやってきた。
「どうした?」
「どうやらオークどもがこちらに攻めてきている」
「数は?」
「およそ五千」
その数にエルドールは思わず眉を顰める。エルフ里にいるもので戦える人数は千人にも満たない。若い男たちをかき集めて戦力にしても厳しいところだ。
それにオークは身体が強く、近接戦闘に長けている。里の中での乱戦となったら劣勢になるのは間違いない。
しかもこれだけの数のオークがいるとなると、強者として有名なバルガスが率いているに違いない。そして、目的は明らかに食料。こちらから奪えなければ飢え死にするのだ。敵は皆必死に攻め込むに違いない。
多くの犠牲が出てしまう。そう考えずにはいられないエルドールだが、ここである決断を決断した。
「すぐに防衛体制を整えよ! 戦えぬものは避難させよ! あとリオスをここに呼んでくるように!」
「はっ!」
そう言ってエルフは言伝を伝えるために外に出て言った。そうしてしばらく経った後にリオスがやってきた。
「話は聞きました。私は何をやればいいのでしょうか?」
「お主には今すぐタケル殿のところに行って援軍を求めよ」
戦うことを求められると思っていたリオスだけに、少しばかり困惑する。
「応じるでしょうか?」
「分からん。だが、おぬしの言ったフィリーというエルフが儂の思い当たる人物であれば、きっと助力してくださるだろう」
「分かりました。それではすぐに参ります」
「交渉の裁量はお主に一任する」
「はっ」
そう言ってリオスは部屋から退出したあと、急いでタケルの下に向かった。
(まともに戦えば厳しい戦いになるが……光はある)
こうしてエルドールは来たる戦に備えて準備を始めるのであった。




