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23.猫獣人の使者

 

「兄貴~、また他の村から人がやってきたっす!」


 タケルが農作業をしているとフォリンが呼びに来た。


「もしかして今回もか?」

「いや、今回は通してくれたっす」


 どうやらラグナ達も学習してくれたようだ。


「そいつはよかった。集会所に行けばいいのか?」

「そうっす」


 ということで、タケルは集会所に向かった。ちょうど入り口のところでフィリーとバラルと合流した。

 中で待っていたのは、猫の獣人の女と護衛の男が二人だった。それを見てこいつらは弱いから通してくれたのかもなとタケルは思いなおした。年が若いせいか実力で言えばフォリンでもこの二人を倒せるくらいの強さだ。タケルのところに来てから獣人たちは高品質の農作物を食べているので、多少強くなっているのもあるが。

 タケルたちはやってきた猫獣人たちの前に座る。


「俺はこの村の長をやってるタケルだ。よろしくな!」

「私は村の長の娘のエルミィと言いますにゃ! こちらこそよろしくお願いしますにゃ!」


 にゃという語尾に一瞬戸惑ったが、猫の獣人だし当たり前なのかもしれない。その点については触れないようにした。


「そんで、今日は何の用でやって来たんだ」

「はいにゃ! こちらなら取引で食料をもらえると行商人に聞いたのですが……」


 代表して猫獣人の女がタケルの質問に答えた。


「あーその話ね。お金でも物々交換でも受けつけてるぞ」


 その言葉を聞いてほっとしたようで、護衛の人たちと顔を見合わす。


「それでこちらが出せるものなのですが、魔獣の革ぐらいでして……」


 魔獣の革の種類を詳しく聞いてみると、どの革もタケルたちが狩っている魔獣の革なので、現状はむしろ余っている。何ならそのうちどこかの街に行って売りに行く予定ぐらいまである。

 取引としてはいらないのだが、食料で困っているわけなので、何とかしてやりたいという気持ちもあり、こっそりと隣にいるフィリーに相談する。


「いらないんだけど、どうすればいい」

「獣人は耳がいいから聞こえてるわよ。たぶん」


 タケルはしまったという顔をする。

 それを耳にして、しょぼんとするエルミィ。


「まあ、そうね。……こちらが応じるのは取引であって、施しではないわ」


 タケルもこの意見に同意している。いくら無限に農作物が作れるからと言って一方的に施しをするのは相手に取っても良くない。タダでもらえると分かれば、働かずにぐーたらする奴が大量に発生する可能性があるからだ。はっきり言って、タケルもそんな奴らのことまで面倒を見たいとは思っていない。


「だから、他に何か差し出せるものがあれば話は聞くわ」

「何か、他に……」


 エルミィは何か差し出せるものがないか必死になって一生懸命考える。


(何か、何か、何か)


 そしてあることに気が付いた。


「なぜこの獣人たちの面倒は見ているのかのかにゃ」

「それはこいつらが俺に絶対的な忠誠を誓って仕えているからだ」


 絶対的な忠誠は誓った覚えはないのだが、バラルは別にそれでもいいかと思い口を挟まなかった。


「俺のために働く奴を食わせてやるのは当然だろ」


 その言葉を聞いたエルミィは大きな決断する。そした、立ち上がった。


「私は掃除ができますにゃ! 洗濯もできますにゃ! 料理もできますにゃ! なんでもするから私たちもタケル様の庇護をくださいにゃ!」


 そう言ってエルミィは深々と頭を下げる。すると、護衛達もエルミィに倣って頭を下げた。


「いいだろう。俺の下につくっていうならお前らの村の人たちも面倒見てやる」

「ちょっと、待って。あなたにそんな権限はあるの?」

「それは……」


 交渉事で権限もないのに勝手に約束をすると、面倒なことになる。村の行く末を決める権限までこの娘にあるのか不思議だった。そのためフィリーはエルミィを問いただした。


「もちろんですにゃ! 私は今回の交渉ですべてを任されていますにゃ!」

「まあ、でも、正式な決定は村の長とやりたいわね」


 フィリーは何となくのエルミィに危うさを感じたので、村の長を引っ張り出すことにした。


「分かりましたにゃ! 必ず連れてくるので、待っててくださいにゃ!」


 その後、エルミィたちは一通り村の様子を見て、一泊してから村に戻っていった。ちなみにフィリー曰くそんなに歓迎をする必要はないということで、普通の食事だったのだが、それでも感激して食べていた。




 エルミィたちは村へと帰る道中に護衛の一人がエルミィに話しかける。


「どうするんだ? 勝手にあんな約束して。村の奴らを説得できるのか?」


 実はエルミィに村人全員の未来を決める権限はない。そもそも父である長はこの取引に消極的だった。価値あるものがほとんどなく、貴重な食料をわざわざ分けてくれる理由がないとみていたからだ。


「やるにゃ! やるしかないにゃ!」


 エルミィは村を何とかしたいという想いだけで動いたのだ。成功する約束なんて一つもない。わずかな可能性にかけてタケルのもとに足を運んだ。その賭けは成功したが、村人を説得できなければそれも無に帰す。

 だからこそ、エルミィは覚悟を決める。



 村に着いたエルミィは長である父のもとにすぐに向かい今回の話をしたところ、さすがに一人では決めきれないと判断し、村の上役たちを集めた。そこでエイミィはもう一度説明をした。


「タケル様の下につくのであれば生活は保障してくれるっていう話にゃ」


 エルミィはこの話をすれば少なくとも前向きな意見が出ると思っていた。しかし、この話を聞いた面々は渋い顔ばかりであった。


「いったい俺たちは何をやらされるんだ」

「それは心配することないにゃ! 何人かが畑仕事を手伝うくらいにゃ。他は普通の仕事をして村に貢献すればいいにゃ!」


 その話を聞いてますます顔が渋くなる面々。はっきり言って、そんなうまい話があるのかと疑っているようだ。


「行商人から聞いた話では、他の獣人がいるという話だろ。その他の獣人の下にもつけと言う話なのか?」


 エルミィはタケルの下につくという話なのか、他の獣人たちの下につくという話なのかという話まではしていなかった。そこまで気が回らなかったため答えることができない。


「それはちょっと分からないにゃ……。でも、みんないい暮らしをしていたにゃ! だからきっと大丈夫だにゃ!」

「そうは言うが……」


 その場にいる他の獣人たちはその言葉を信じていない。父である長も信じていないようだった。

 タケルの村を実際に見たものと見ていないものでは大きな差が出る。はっきり言ってタケルの村が異常なのだ。食料不足の現状で、そんな異常な村があると信じられる方が頭がおかしい。

 エルミィの話は置いておいて、他の獣人たちだけで色々と話をしだした。


「だが、どうする? 他の村では食料の強奪にあったという話も聞いたぞ」

「ああ、俺も聞いた。ただでさえ少ない食料を奪われたとな」

「この村にも来るかもしれないぞ。いや、この話を受けないのであれば、俺たちもそういう行動をとらなければいけないのかもしれない」

「いや、それは……」


 これから冬を迎えるにあたって、備蓄はほとんどない。多くの餓死者が出てしまうことは容易に想像できる。それならば、何かしらの行動をとるという選択は間違っていないだろう。


「だから、タケル様のところに入れてもらうにゃ! あの村にはホワイトウルフもいる、ディープスパイダーもいる! そんな村を襲ってくるバカはいないにゃ!」


 その言葉を聞いているものは一人もいない。


「そもそも、俺たちも食えるほどの食料があるのか?」

「そうだよな。無限に食料が出てくるわけでもあるまい」

「何とか食いつなぐ程度だけでも助かる話だが……」

「大丈夫にゃ! たくさんあるにゃ!」


 まるでエルミィを無視しているかのように、他の面々だけで話しが進んでいく。

 エルミィはそんな状況にしびれを切らした。


「みんな! 私の話を聞くにゃ!」


 エルミィは自分が出せる最大の大声で叫ぶ。


「私の言うことが信じられないなら、実際に村に行ってタケル様に会ってみれば分かるにゃ!」

「……それもそうだな。一度その村を見てから判断しても遅くはあるまい」


 ようやく前向きな意見が出てきたことでエルミィは笑顔を見せる。


「だが、何か問題があるようなら、その話は断る。いいな?」

「分かったにゃ!」

(あの村にさえ連れて行けばこっちのもんにゃ)




 こうしてエルミィと長の他に上役の三名、護衛を五人がタケルの村に向かった。

 タケルの村に近づいたところで、ホワイトウルフと一緒に獣人がやってきた。


「あれ? この前来た人っすよね?」


 長や上役たちはホワイトウルフを従えていることにも驚いた。話には聞いていたがほんとに従っているとはなかなか信じられなかったのだ。


「そうですにゃ! 今回は長を連れて話をしに来ましたにゃ!」

「了解っす! 前に話したところに行ってもらってもいいっすか?」

「分かりましたにゃ!」


 そう言ってエルミィの先導で村の中に入っていく。

 するとそこには獣人たちが楽しそうに暮らしていた。見るからに食料事情がよく、痩せ細っている人は誰一人いない。そして強制労働なんて言うのはもってのほか。皆、いきいきと働いており、その様子を見るだけでも、この暮らしが充実していることが分かった。明らかに自分たちがいる村の雰囲気とは違いとても明るかった。


(本当にこのような場所が……)


 集会所に着くまでの短い間にエルミィの話は本当だったのだと、長をはじめ皆が理解していたのだった。

 集会所で待っていると、タケルがやってきた。すると、いきなりエルミィが立ち上がってタケルに話しかけた。


「タケル様の下につくという話をまとめてきましたにゃ! これからよろしくお願いしますにゃ! こっちが父で村の長ですにゃ」


 勝手にタケルの下につくという話をまとめたことにされた長はエルミィの方を見て驚く。


「おお、そうか。よろしくな」

「えっ、あ、こちらこそよろしくお願いします」


 そう言ってタケルは握手を求めたところ、気が動転していたこともあり、それを断ることもできず長は握手をしてしまった。


「まだ住めるところすくねーから少しずつにこっちに移ってこいよ」

「分かりましたにゃ!」

「あっ、もし食料がねーんなら、フィリーに言って、とりあえずの分だけでも持って帰れよ」

「分かりましたにゃ!」

「そんじゃあな」


 そう言ってタケルは集会所から出て農作業に戻っていった。

 長をはじめとする獣人たちはどんな交渉になるのか緊張していたが、なんともあっさりとしたやり取りで食料がもえらえることが決まった。

 エルミィがだいぶ先走ったことをしたが、思わずそれを許してしまうほどのあっさりさだった。


「エルミィ、すまない。お前の言っていることは本当のことだったようだ」

「ようやく分かったにゃ? さあ、早く食料を持って帰って、移住の準備をするにゃ!」


 こうしてエルミィたち猫獣人たちの移住が決定したのであった。




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