1. 女神アメリアの誤算
ここは神界。そこには一人の女神がいた。
「異世界転生か……」
その女神は他の神様が別の世界から人を自分の世界に連れて行って色々させる遊びを見ていて少しばかり面白そうだと思った。
自分の世界には満足している。しかし、新しい刺激も欲しい。
「よし、私もやってみるか」
ということで、コンソールを召喚しまるでプログラマーのように一心不乱に異世界人がやってこられるシステムを作っていった。
それから数週間後。
「ついに完成したわ!」
画面には神秘文字がずらっと並び、異世界人を呼び寄せるためのボタンがあるだけだが、必要なシステムはすべて作った。想像以上に作るのが大変で苦労はしたが、これから楽しいことが待っていると思うと思わず頬が緩んでしまう。
「システムも完ぺき! チートも用意した! あとは異世界人転生ガチャを回すだけ!」
女神にとって異世界転生は娯楽でしかない。大勢の人間の中から自分で好みの人間を連れてくるのもいいが、ランダムで連れてくる方がワクワク感があって楽しい。そんな理由からランダムで十五歳以上の死んだ異世界人の魂を連れてこられるシステムを構築したのだった。
「さあ、来い! 神引き! 神である私が引くのだからきっと面白い人間を引けるに違いない! さあ、来い来い来い来い来い!」
テンション高めで画面上のボタンを押す。
どんな奴が現れるのか楽しみにしていると、ランダムでの選出が終わったのが、どこからともなく一つの魂がやってきた。
「来たあああああああああああああああああああ!」
そして、その魂は人の形を作っていく。見た目は前世と似たような形になるが、構成している体の組織は異世界用にチューニングされる。亡くなった年齢にかかわらず十五から十八歳ほどの体になる予定だ。
そのチューニングが終わり、意識が目覚める前に女神は身だしなみを整える。女神としての威厳を示すためだ。
厳かな雰囲気を漂わせ、人の意識が目覚めるのを待つ。
(さて、どんな子かしらね)
ついにチューニングが終わり、男の体が現れる。そして、その男の意識が目覚める。
「……ん? ここは」
「ようこそ、神界へ。私の名は女神アメリア。あなたを私が管轄している世界に転生させるために呼び出しました」
女神オーラ全開で話しかける。
「はぁ」
その男はいまいちピンと来ていない様子で、あいまいに返事をするだけであった。
「……私はそこで何かやらなければいけないのでしょうか?」
「私はあなたを使命のようなもので縛るつもりはありません。ただ自由に楽しく生きてくれればそれで十分なのです」
「はぁ」
異世界転生をしたことがある他の神に話を聞くと、なぜか異世界転生に前向きな人間が多いという話を聞いていたので、この反応の薄さに女神は少し戸惑っていた。
「そ、そうだ! 私の世界は魔獣がいる世界で、あなたがいた世界と比べると危険です。そこであなたには特別にスキルを授けることにしました」
「スキルですか……」
「ええ、あなたには剣術が達人レベルになれる剣聖のスキルを授けます」
女神は落ち着いた様子で微笑みながら言う。これは間違いなくうれしいに違いない。飛んで跳ねて喜ぶに違いないと女神は思っていたが
「剣聖ですか……ないよりましなので、もらえるならもらっておきますけど……」
(ふつーそこは大喜びするところでしょーがっ!)
この男のやる気のなさに少し女神は焦る。自分の世界に新しい刺激を入れるために転生をさせるのだ。仮に能力があったとしても、村や町に引きこもり平凡な人生を送られたのではつまらない。ある程度自主的に行動して、私を楽しませてほしいのだ。
「もしあれなら、他のスキルに変えることもできますけど……」
「あーそれじゃあ……農業スキルとかってありますか?」
「農業スキル……?」
意味が分からなかった。異世界に転生する人間の多くはやたらと強いスキルを求めると聞いていた。むしろ、強いスキルをくれないと駄々をこねるみたいな話も聞いていたので、農業スキルを欲しがるなんて意味が分からなかった。
「あ、もしかして無理な感じですか? じゃあ、いいですよ。剣聖とかいうスキルで」
「できますけど? ていうか、もう何なら既に農業スキルとか用意してるんですけど?」
女神はなんだか少しバカにされたような感じがしたので、若干食い気味で反論する。農業スキルなんて作っていないが、それでも女神的には、もうあるとしか言えなかった。
「じゃあ、それでお願いします」
「分かりました。他に望みはありますか?」
男は少しの時間、何かを考える。
「それじゃあ、開拓をすれば自分の土地になる場所で、多少移動すればそれなりに他の人と交流もできる場所に送ってください」
開拓すれば自分の土地になる場所なんて、どこの国の管轄でもない場所しかない。そんなところにはろくに人がいないので、男が出した条件は常識的に考えれば無理な要望だ。
「そんな都合のいい土地があるわけ……あったわ」
女神の中に思い当たる場所が一つだけあった。多少問題がある場所だが、こいつが希望した条件は満たしている。くっくっく、呪うなら自分の愚かな欲望を呪うがいい。
「じゃあ、そこでお願いします」
「こほん。あなたの希望は分かりました。それでは今からあなたを私の世界に送ります。良い異世界生活を」
女神はそう言って男を見送る。男は白い光の球に変化し、その場に漂う。
「………………うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
十分に余韻を作った後に女神は再びコンソールを召喚し、農業スキルなるものを作ろうと必死に作業を始めた。
一時間後
「農業スキルって何なのよ! どんな能力にすればいいわけ!?」
一日後
「農業なんて想像していなかったから、もうちょっと強くしようかしら……」
二日後
「あはははははっ! こうすればいいのよ! 私って天才だわ!」
三日後
「はぁはぁ……これで完成よ」
ここまで一切睡眠なし休憩なしで作業を続けた。途中謎のハイテンションになって勢いよく機能を付け足してしまったが、後悔はない。きっといいスパイスになるはず。
「今、こいつに意識はないから実質一瞬でーす。すでに農業スキルがあったと言っても過言じゃありませんー」
そう言って男が変化した球体にスキルを付与する。
「ていっ!」
といって光の球を男が希望した土地に送り込む。
「ふう、ようやく準備が終わったわね」
柔らかい巨大なクッションにダイブして寝そべりながら、男の様子を映し出す画面を表示させる。そんな男の様子を確認するとちょうど人の形として、地面に横たわっているのが見えた。
「すぐに死んだらもったいないわよね。3日間くらい周辺に結界でも張ってあげようかしら……」
この状態で何かに襲われたらすぐに死ぬ。ここはそんなに安全な場所ではないのだ。それにあれだけ手間をかけたのにすぐに終わったら、もったいないという精神からちょっとばかり手心を加えて結界を張ってあげた。
「さあ、タケル。この私を楽しませなさいよ」
こうしてタケルの異世界生活が始まったのであった。




