2.目覚めと農業スキル
「ん?ここは……」
目覚めたタケルは辺りを見渡してみると、どこかよく分からない森の中だった。そして何かが入っていそうなリュックが近くに置いてある。自分の手を見てみると明らかに若返っている。
「あれは夢じゃなかったのか……」
死んだと思ったらなんたらとか言う女神がいる場所に連れていかれて、なんか転生させるだとか、スキルを与えるだとか言われた。正直、現実のものだと思えなかったので、神様に対して失礼な受け答えになってしまったような気がするが、今更気にしても仕方ない。
「まあ、せっかく農業スキルをもらったことだし楽しい農業ライフでも送るか。さっそく畑でも作るか……と言いたいところだが、現状把握が先だよな」
なんとなくだが、自分ができることが分かる。脳にインストールされているというか、身体が覚えているというか不思議な感覚だが、なんとなくわかるのだ。
タケルは自分が使える能力を確認してみる。
土魔法が使える。硬い石って農業に使えなくね?
火魔法が使える。焼き畑農業かな?
水魔法が使える。水やりに使えるな!
近くにあった大きな石が楽々持ち上げる。いっぱい農作物運べるな!
走ったりジャンプしたりシャドウボクシングをしてみる。体が軽いし切れがいい。いっぱい農業ができるな!
自分のスペックの高さに満足して思わず笑みがこぼれてしまう。楽しい農業ライフが待っていると思うとワクワクが止まらない。
続いては謎機能について調べてみる。意識を向けると目の間にゲームのようなウィンドウが現れる。そこには農業をするのに必要な道具や作物の種などが一覧になっており、どうやらポイントを消費することで、その道具や作物の種などを手に入れることができるようだ。
現在ポイントは百ポイントある。そのうちの十ポイントを使って斧を手に入れる。この斧を使って木を切り倒して、畑のスペースを確保するのだ。
「そーれっ! あ、もういっちょ!」
とリズミカルに斧を振るっていく。かなり楽に木を切り倒すことができた。明らかに体のスペックが上がっているおかげだろう。
本来一人では移動させることができないだろう大きさの木だが、普通に引きずって移動させることができた。
「くはははは、マッチョ星人だぜ!」
思わずポージングをしてしまう。全然マッチョじゃないのだが。
残った切り株は土魔法を使って下から持ち上げてポイする。その調子でどんどん木を切り倒して、畑用の土地を確保していく。
「さて、こんなもんかな」
想像以上にスムーズに作業を進み、あっという間にちょっと大きな家庭菜園レベルの土地を確保することができた。
次は、土地を耕していく。土魔法でなんかうまくできないかと思ったが、ふかふかの土にできるイメージが湧かない。硬いものなら作れるけど、能力としてできないのか、技術不足なのかは分からない。
最初は地道にコツコツというのも悪くないので、謎機能を使ってウィンドウから十ポイントを消費して鍬を手に入れた。
「よいしょ! わっしょい! どっこいしょ!」
とリズミカルに鍬を振って畑を耕していく。体のスペック任せでガンガン進めていきあっという間に終わらせることができた。
「いい感じの土になったな。たぶん……」
前世で農業の経験はないのだが、なんとなく大丈夫そうだということは分かる。もしかしたらこれも女神からもらった能力の一つなのかもしれない。
「さて、何を植えるか。まずは米!……と言いたいところだが、脱穀の機械はないし、鍋とかもないし、食うのにハードルが高いから却下で。手軽に食える主食と言ったら、芋か? 芋だな。芋にしよう!」
謎機能を使って、ジャガイモの種を十ポイント使って手に入れる。
「ジャガイモって種あるんだな」
タケルのにわか農業知識だと種芋を使うという方法しか知らなかったが、どうやら芋にも種があるらしい。
その芋の種をちびちびと植えていく。
「あとは、そのまま食えるトマトでも育ててみるか」
追加でトマトの種も手に入れて、それも植えていく。
「ふー、これであとは実がなるのを待つだけっと」
種まきまで済ませて、一段落したところ、タケルはあることに気が付いた。
「あれ? そういえば飯は?」
農業をやるのに夢中になりすぎて、リュックの中身を一切確認していなかったが、きっと飯が入っているはず。少々焦るような気持ちでリュックの中身から食料を取り出してみる。
一、二、三。
一、二、三。
一、二、三。
どっからどう数えても三食分しかない。あとおまけ程度に塩がついているだけだ。
「クソ女神! 食料少なすぎだろ! 作物が育つのに時間がかかるだからもっと食糧用意しとけよ!」
思わず空に向かって悪態をついてしまう。幸い森の中だけれども、周りの木を見渡しても、食えそうな実がなっている気がないので、探さなければいけない。
「いったん楽しい楽しい農業ライフは諦めて、サバイバル生活をやるしかないのか?」
さすがに食べるものがなければ人は死ぬ。とりあえず生きることを目標にするしかないようだ。
「まあ、もういいや。明日考えよう。暗くなってきたし、疲れたし、飯食って寝るか」
タケルは三食しかない食料の一つを食べ、そのまま大の字になって寝た。
翌朝。
日の出とともにタケルは目を覚ます。どうするかなと考えながら髪の毛をわしゃわしゃやりながら、畑の方を見てみると、
「なんだこれ」
そこにはと昨日植えたばかりのはずのトマトとジャガイモが十分に成長していた。ジャガイモは埋まっているので、本当にできているのか分からないが、トマトの方は確実に実がなっている。もしかしてこの世界って一瞬で野菜が育つのかなどとも考えたが
「あ、作物の育成スピードを上げる能力あったわ。野菜作るのには時間がかかるって固定観念怖いわー」
神様からもらった農業スキルには作物の育成スピードを上げる能力を無意識的に使っていたようで、一晩で実がなるまで成長させたようだ。
「じゃあ、さっそく食ってみるか」
一つのトマトを取ってそのまま口元に運んだところで、ふとあることに気が付いた。
「その前に、神様に感謝だな」
昨日は悪態をついてしまったので、その罪悪感もある。
記念すべき初収穫の野菜だ。それは神様に捧げるのがふさわしいだろう。
「そういえば……」
謎機能で表示される画面の中に、神棚のようなものが用意されていたような気がしたので、もう一度よく見てみると確かにそれはあった。
他と同様に十ポイントを払い、神棚を召喚する。神棚を地面に置くもの罰が当たりそうなので、土魔法を使って神棚を置くようの台座を作った。
そしてその前に取れたてのトマトをお供えて、二礼二拍手する。
「転生させていただきありがとうございます。女神様からもらった農業スキルのおかげで楽しい農業ライフを送ることができています。これからもどうぞよろしくお願いします」
そうやって祈りを捧げ最後に一礼をすると、トマトは光の粒子になって消えていった。おそらく神様のところに行ったのだろう。神様に捧げると本当に届くとは、摩訶不思議な世界なようだ。
「よし、これで昨日の悪態はチャラだな」
本当はすべてを見られているのだが、そんなことを知らないタケルはのんきなことを言っている。
そして次は自分の番だということで、思いっきりトマトにかぶりつく。
「うまっ! トマトの味が濃厚だな」
前世で食べた記憶と比べてみると、何というか味の密度が高い。これがこの世界のトマトなのか、スキルのおかげかは分からない。でも、どちらにせよ今後一生うまい野菜が食えるのは控えめに言って最高だ。
そのまま一気にトマトを食べる。
「さすがにトマトだけじゃ足りない。次はジャガイモを掘ってみるか」
ジャガイモの葉を思いっきり引っ張ると、ゴロゴロとジャガイモがくっついていた。思わずおおという声を上げてしまう。
「たったの一晩でできるっていうのはやっぱりすごいなー」
昨日食糧危機に瀕しており、サバイバル生活を余儀なくされるところだったが、この様子だと楽しい農業ライフを送れそうで気分は上々だ。
「よし! 朝食がてら、このジャガイモでも食うか」
ここでタケルはあることに気が付いた。
「って、ちょっと待て。鍋もない、フライパンもない、アルミホイルもない! 一体どうやって調理すればいいんだよ!」
リュックの中にも調理器具のようなものはなかった。調理に使えそうなものはナイフが一本入っていたぐらいだ。謎機能の中にも、調理器具のようなものは一切なかった。あの中には農業関連しか入っていない。
昨日の焚火あとを見る。火の中にぶち込むか?いや、燃えるだけだ。冷静になれと自分に言い聞かせる。
「考えろ、俺! たいていのことは創意工夫で何とかなるものだ!」
周囲に何かいいものはないか見てみる。周りにあるのは木。斧。鍬。葉っぱ。そして、石が目に入る。
「石……石焼き芋! 石を温めてそれにぶち込めばいいんだ! 勝ったな!がはは」
周囲から石をかき集めて来て、それを焚火の中に入れて温めていく。十分に熱したところで石を取り出して、石の山を作りその中にジャガイモを突っ込む。腹時計で二十分ほど経過したところでジャガイモを取り出すと、いい感じにほくほくになっていた。
手で触れるくらいの温度になったところで、ジャガイモにかぶりとかみつく。
「うおおおおお! 苦労して作った飯はうめえええええ! 精神的にいいいいい!」
何も味付けをしていないのでお世辞にもうまいとは言えないが、精神的にはうまい。空腹、自分で作った野菜、文明の力を頼らず自分の知恵を使って調理したという三つのスパイスが効いているので、うまいと脳みそを誤認させている。うまいと思えばうまいのだ。
「なんにせよ、これで食料問題は解決だな。水も魔法で作れるし。しばらくは勢いに任せて農業ライフでも送るか」
作りたい農作物はまだまだある。そんな農作物を作ることを考えるだけでワクワクが止まらない。
「待ってろよ! 俺は最高の農作物を大量に作って世界を征服してくれるわ! わっはっはっはっは!」
タケルは一人野望を宣言した。そんな様子を見ていた女神はうっすらと笑みを浮かべたのであった。




