第十一章 (2)
毎度お待たせしています。第十一章の(2)をお届けします。
自 2012年7月18日
至 2012年8月8日
「なあ、ちょっとは自信ついたか?」
「自信は…まだないな。つくかどうかもわからんが、少しはまわりが見える様にはなったな」
「それだけでも大したもんだと思うぜ。俺はまだ全体が見えないからな」
戦闘班長である以上、もう少し戦局が読めれば…と思うが、まだそこまではいかない。ミックやエリナの指示をこなすので手一杯だ。
「俺だって全体は見えちゃいないよ。エリナとは違う」
「まあな。経験の差って奴かな」
「だろうな。適性もあるかも知れないが…」
詳しくは聞いていないが、激戦地にいたこともあるらしいし、それなりの規模の部隊を率いたこともあるらしい。それもエリートが通るきれい事の現場ではなく、まさしく実戦の現場での経験らしい。
「ああ見えて、けっこう苦労してるんだよな」
ちょっと見には何も知らずに育った女の子に見えなくもないのだ。穏やかな笑みを浮かべて仲間たちにアドバイスを与え、励まして導き、手など汚していない様に見える。でも実戦の場にいたのなら、自身が傷ついたかは判らないが、身近で死は目にしただろうし、その手で人の命を奪ったこともあるだろう。それもおそらく目に見える形で…。
「目にしているからこそ言えるんだよな。死体の状態なんて言葉」
実はミックはサラからエリナがそれを六年前に初めて見たのだと聞かされている。もちろんこんな時代だ。たまたま戦場になってしまった場所で、身内や知り合いを目の前で殺された子供たちなんて星の数ほどいる。そういう意味では別にエリナだけが特殊なわけではない。けれどそれを恨みにも憎しみにも変えず、かといって悲しみに沈むのでもなく、己れの糧として成長してきたのがエリナなのだ。その経験を強さに変えて、しなやかに生き抜いて来たのだろう。ーーあの娘はそうやって自分を…いえ、自分の身の回りの者達を守って来たのよーーサラはそう言う。そして、それが悔しいのだとも…。ーー守りたいと思うのに、あの娘は守らせてくれないのよね。いつもいつも一人で走って行ってしまうーーサラの言葉はミックの胸を打った。ショウはもちろんそんな話は知らない。けれどマリーがエリナのことを『強くてもろい』と言っていたことを思い出す。
「俺たちがエリナを支えられるようになりたいな」
「なりたいんじゃなくて、ならなくちゃな。俺は艦長だ」
階級的には低くても、今は自分がリーダーなのだ。自信はともかく自覚は持たねばならない。そんなミックを見て、ショウはそっと溜息をこぼす。同じ士官候補生だったのになと思ったのだ。でもショウも判っている。そもそもミックとは当初のスタートラインの立ち位置からして違う。経験の差は…どうだろう。あまり違わない気がする。だが、艦長というのは経験値だけで決まるものではない。ミックは最初から艦長候補としてあったのだ。上から見て充分に素質があったということだろう。実際、自分に艦長がつとまるかと言われたら、現状では首を振るしかないのだ。
「全面的に機関を止める訳にはいかないが、一月あれば全システムの点検とメンテナンスは出来る。ローテーションを組むぞ。それと余裕があれば性能向上も図りたい。よろしく頼む」
エドナーが機関員全員を集めて宣言する。機関部員はほぼ全員が元研究所のメンバーだから、作業において特に細かい指示を出す必要はない。今、指導が必要なのは機関助手をしているクロードぐらいである。こちらの指導は全面的にデュオに任せるつもりだ。後進を育てることによってデュオの力も伸びるだろう。自身は全体を統括しつつ、性能向上に何ができるか検討するつもりだ。これに関しては、必要に応じてエリナの知恵を借りなければならないかも知れない。機関出力値を上げられれば、主砲にまわせるエネルギー量も上げることができる。そうすれば射程距離を伸ばしたり、威力を上げたりが可能になる。こちらはマリーと検討するべき案件であろう。
サラはメインコンピュータールームで、先ずは学習システムの現況のチェックを始めた。全体平均では70%程度の出来だが、使用頻度の関係か低い方は40%程度、多くても90%前後で、まだ100%になったものはない。もっともこの辺は使い手に対する新しい情報が入る度に最終到達ラインが引き上げられる為、いつ100%になるのか予測はつかない。そもそも100%になる事があるのかどうかも定かではない。新しい概念である以上、まだまだ未知数なのである。それでもまあバグも出ず、順調に稼働していると言えるだろう。こちらは今のところ特に手を入れる必要はない。到達ラインに対するパーセンテージの差が、使用頻度によるものか個人差によるものかは今後更にデータを取りつつ確認すべきことである。学習システム自体は既に他艦へも提供しているから、出来ればそちらからのデータも欲しいところだ。もっともこの辺の詳細な分析や研究は本来ここでやるような事ではない。しかるべき研究所へデータを回して、じっくり検証してもらうべきことであろう。それよりも今は本来のシステムの点検と更新の方が急ぐ作業だ。何度かトラブった時に応急処置としてパッチをかけた所などを更新プログラムと入れ替えなければならない。
「例のバグに対する更新プログラムは既にテスト済みだ。このまますぐに入れ替えられるが…」
マックがサラに声を掛ける。
「わかったわ。じゃあそっちはお願い。それとこの間言っていた反応速度が遅くなる件はどうなってるのかしら?」
「えーっと今、調査中です。エリナさんから詳細は聞かれていますか?」
シェレンがサラの問いに答え、どこまで内容を知っているか確認してくる。
「忙しくて時間が取れなかったから詳しくは聞いていないわ。そもそも私が担当することになるとも思ってなかったし…」
それはそうだろう。サラは既にシステム責任者の任からは外れている。おそらくはエリナ自身が担当するか、あるいはマックたちに任せるつもりでいたのだろう。まあ自分でやる時間は流石にないだろうから、マックが中心になってメンバーを集めることになったに違いない。というわけでシェレンは慌てて資料を探し、サラに渡す。この分だと他の件も話だけだなと思ったマックがシステムの入れ替え作業の傍ら、あれこれと資料を揃え、サラの前に積み上げた。問題のあった箇所はそう多くはないが、各部門から上がっている要望が結構あるのだ。もちろん何でもかんでも取り込むという訳にはいかない。はっきり言って出来ないというものは除いたとしても、組み込むとシステムが重くなり過ぎて実用的じゃないものとか、特殊過ぎて汎用性がないものとか調べてみてやっとわかるものもあるのだ。
入力 2014年6月30日




