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第五章 (2)

 メンバー同士のやりとりを織り交ぜつつ、ファルコンは移動中です。


自 2011年6月23日

至 2011年6月26日


一部 2012年3月26日

追加 2013年4月22日

 その同じ頃、食堂ではバーディがオットーと話し込んでいた。当直の時間帯とは言え、まだ深夜という訳ではない。食堂にはまだかなりの人間がいて、あたりはざわついている。現在はアルコール類は一切、提供されていないので、二人の目の前にあるのはコーヒーである。ホントはちょっと一杯、引っかけたいところなのだが、敵の追撃を受けている今、アルコール類で酔っ払うわけにはいかない。

「しかし、流石、エリナの弟だよな。いい腕してるぜ」

「姉貴は関係ないだろ。そもそも俺は姉貴が小型艇の操縦が出来ることすら知らなかったんだぜ」

「そうなのか? 俺ぁてっきり…」

「姉貴仕込みだと思ったってか? 生憎だがそれは違うよ」

「それにしたって一緒に暮らしてたんだろ。操縦が出来ることぐらい…」

「一緒に暮らす様になったのって大学入ってからだし、宇宙大学星で暮らしてると、小型艇なんてそうそう乗る機会はないしさ」

「それにしたって、エリナはお前の腕を知ってた訳だろ」

「いや、だから、出掛ける時ってサラ姉か俺かデビーが操縦してたからさ。姉貴もマリー姉も絶対、操縦しなかったから…」

「成程、猫をかぶってた訳だ。エリナらしいっちゃエリナらしいが…」

「操縦に関しては多分、軍で習ったんだと思うけど、姉貴、軍での訓練については俺達に話さなかったから…」

「まあ、軍にいると何かと秘密主義になるからなぁ。機密じゃなくても口を閉ざしがちだし…」

「そういや、お前の兄貴も軍人だもんな」

「口は固いぜぇ。なぁ~んも話しちゃくれんもんな」

「何だ? もしかして煮詰まってるのか?」

 軽い奴だと思ってたが、この言い方はまるで置いてきぼりにされた子供〈ガキ〉の様だ。いつもの軽さがみじんも感じられない。まあ肉親との関係は良きにつけ悪しきにつけ、色々と複雑なものなので、あまり深入りしない方がいいのではあるが、どうも似た様な立場にあるせいか、妙に気になってしょうがない。

「そういうわけじゃないんだけど…。そういうお前はどうなんだよ」

 確かに煮詰まってるっちゃ煮詰まってるのだが、正直それを認めたくないという気持ちがある。なら似た様な立場にあるこいつはどうなのだろうと思う。

「俺? 俺は…別に。そりゃ確かに姉貴は軍のことを話さないけど、別に秘密主義って訳じゃないし…」

 エリナが軍のことを話さなかったのは、自分達を軍に巻き込まないためだということをバーディは知っていた。結果的には今、軍に入っているわけだが、こんな事態にならなければ、多分軍には入らなかっただろう。というかエリナが入れさせなかったに違いない。

「そうなのか? けどお前にとっちゃエリナは特別なんだろ。気にならないのか?」

 エリナ一人だけを姉貴と呼び、他の二人の姉達とは区別しているところを見れば、バーディにとってのエリナの位置が自ずと知れる。一番気にかけている相手の事を知りたいと思うのは、ごく普通の欲望だと思う。

「んー…軍人…としての姉貴についてはあまり関心が無かったからなぁ…。まあ今は俺も軍人になっちまったから、ちょっと興味はあるけどな」

 実際あの頃はそんなことはどうでも良かったのだ。バーディにとっては学生としての姉貴だけで充分だったのだから。何年かぶりに一緒に暮らせるということが嬉しかった。ある意味、一緒にいられる時間だけを見詰めていたとも言える。エリナもそうしてまつわりついてくるバーディを、嫌がりもせず、構ってやっていた。こういうところがあちこちに友人を作る処世術の一つなのかも知れない。

「成程なぁ…。まあ兄弟関係にもいろいろあるよな」

 そうつぶやくオットーに軽く同意して、バーディは先日のことを思い出す。――俺なんか、この間、ガキだガキだと思っていた弟に怒鳴られた上に、こき使われちまったもんな――しみじみそう思う。気づかない間にそれだけ成長していたということなのだろう。そういやもう一組の兄弟リオとモリの場合はどうなんだろう。ふとそう思う。


 深夜遅くそろそろ日付が変わろうとする頃、マリーは当直に行こうとして部屋を出た。すると目の前の通路を誰かが横切って行く。こんな時間に誰かしらと近付いて見ればエリナである。もっとも向こうはこちらに気付いてはいない。相変わらず遅くまで仕事をしているのだろうかと思ったが、とある部屋のドアをノックして、その中に消えた。近寄って確かめて見れば、カールの部屋である。友人の部屋を訪ねるにはやけに遅い時間だ。まして女性が男性の部屋を訪ねるにはどう考えてもあまり適しているとは思えない。最も現在の情勢を考えれば、二人とも日中はメインブリッジに詰めている訳だし、それぞれ夜間は当直の仕事がある訳だから、二人の空いた時間を利用しようとすると、どうしてもこんな時間になってしまうのかも知れなかった。これがバーディだったら、エリナとカールの仲についてまた考え込んでしまったかも知れないが、取り敢えずこの時点でのマリーは何も疑っていなかったから気にも留めていなかった。


「お疲れさん。一杯どうだい?」

 部屋に招き入れたエリナにボトルを見せる。中身は透き通った赤い液体…たぶんクランベリー酒だろう。

「明日も仕事あるんだけどな」

「こいつなら一杯ぐらい大丈夫だろ」

 アルコール度はかなり低い。エリナやカールにとってはジュースみたいなものだろう。

「そうね。じゃあ一杯だけね」

 グラスに注いで一口、口をつける。

「システムの方はどうなった?」

 問い掛けたのはカールだ。敵の動きを探りつつ移動している現在、いくらエリナの配下とは言え、そちらの仕事を手伝うわけにはいかない。出来るのはデータ分析の方だけである。

「ほとんどのルーチンは組み込み済みよ。あといくつかのルーチンの動作確認とプログラムが二本。それで完了かな」

「あと一息だな。敵に出くわす前に終わるといいが…」

「出くわすと思う?」

「多分な……。まあ運が良ければ逃げ切れるかも…だが…」

「あきらめてくれればいいのにね」

 でもそれは無理だろう。あれだけの被害を与えたのだ。そう簡単には引き下がらないだろう。自尊心が高ければ高い程、後には引けなくなるものだ。

「無理するなよ」

「もう大丈夫よ。今の私は軍人ですもの」

「いい上司でもあるよな」

 ニッと笑ってグラスを飲み干した。エリナもグラスに残っていた酒を飲み干す。

「そっちこそ、いい部下だわ」

 こちらもニッと笑い返す。ここでカールと再会できたことは幸運だったと思う。もっともそれももしかしたら父の手の上で、転がされているだけなのかも知れないけど…。


 そうやって次の前線基地までの日々は過ぎて行った。(といってもわずか二日ばかりではあったが…)敵の動きは相変わらず見えなかったが、少なくとも近くには現れず、何とか基地までたどり着くことが出来た。これはあくまでも推察だが、連盟の方も最初の攻撃陣がこうもあっさり――ではなかったかも知れないが――やられてしまうとは思っていなかったのだろう。ただ、だからこそ次に来る時は正に超ど級宇宙戦艦を投入するかも知れなかったが…。

 とにかく無事に着いたということで、全員が一旦船を降りた。何日かぶりの固い地面の感触を味わう。負傷者は全員ここで降ろされた。必ずしもここで最良の治療が受けられる訳ではないが、この先まだ攻撃を受ける可能性のある船内に、動きの不自由な怪我人を置いておく様な余裕はない。資材の調達は何とかなったが、やはり人員の補充は無理なようだった。マルコフ艦長は基地内から地区本部と連絡を取り、これからの行動について指示を仰いでいる。合わせてアクセスコードの取得も行った。これでファルコンは名実ともに連邦の軍艦として登録された訳である。

 その為、その運用メンバーを民間人のままにしておくことは出来なくなってしまった。やむを得ず、エリナが中将としての権限のもと、彼ら全員をそれなりの軍階級として登録・任命することで乗り切った。一応名目上は暫定的にという形だったが、現実にはこれで確定したと見ても良いだろう。最も民間人を降ろせる様な基地まで行けば、民間人から軍人になったメンバーはその任を解かれることになるかも知れないが…。

 基地にいる間は当直の必要はないということで皆のんびりとしていた。機関部だけはこの機会に総点検とメンテナンスを行っている。

 一両日たって地区本部から現状のまま、地区本部基地まで移動する様にとの指示が出た。この間に敵の動きも少し見えて来た。連盟はどうやら増援部隊を編成してファルコンの航跡を追っているらしい。今のところこちらの動きはまだ見えていない様だが、いつ見つかるかは判らない。無論見つからずに地区本部基地まで行ける可能性もある。まあ今度はアクセスコードもあるから、あちこちにある偵察衛星からの情報も入手できる。前よりもかなり有利になったと言えるだろう。


 入力が少し遅くなってしまいました。


 ぼちぼちですが、読んでもらえているようで、励みになっています。これからもよろしくお願いします。


入力 2012年7月19日

校正 2013年4月22日

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